27. 因果応報? その13 たつみ
本日も一話投稿します。
事件の裏話の大半はカットしておりますので、読み飛ばしても問題ございません。
「はぁ~つまんないなぁ」
岡杏奈は普通の女子中学生だった。
家庭も普通であり、虐待されていることも無く、溺愛されていることも無く、貧乏でも無く、裕福でも無い。
友人関係や学校生活も普通であり、友人が少ないことも無く、友人が多すぎることも無く、カーストに左右されるクラスでも無く、いじめも無く、かといって特に仲が良いクラスというわけでも無い。
そのあまりの普通さゆえに彼女は刺激を求めていた。
普通である彼女が手軽に味わえる大きな刺激は二種類あった。
その一つが『恋愛』である。
彼女は少しでも気になった男子生徒と積極的に恋人関係になり、真っ当に刺激を楽しんだ。
「ねぇねぇ杏奈。竹内君と分かれたって本当?」
「うん、ちょっと合わないなーって」
「マジで!?もったいなーい!」
だが本気で好きな相手と付き合っているわけでは無いからか、その刺激もすぐに慣れてしまう。
イケメンであると話題の相手でさえも、彼女の飢えを満たしてはくれなかった。
そうなるともう一つの刺激に手を出すしかない。
もう一つの刺激、それは『犯罪行為』である。
「ねぇねぇ聞いた?二組の丸山さん、万引きして補導されたんだって」
「えーマジー?丸山さんってめっちゃ真面目そうな人でしょ?」
例えば学生のテンプレ犯罪である万引き。
真面目な優等生がスリルを求めて行ってしまい社会問題にもなっているものだ。
「(そんなつまらないことで人生棒に振るなんて、意味分からない)」
だが彼女はそれすらも興味を抱けなかった。
万引きではちっぽけな刺激しか手に入れられず、それなのに代償が大きすぎる割に合わない行為だと感じていたのだ。
「(かと言ってエンコーもきもいだけだし、ほんっとつまんない!)」
お金に困っていることも無く、刺激があったとしてもキモイ大人に抱かれることは耐えがたい。援助交際もまた彼女が望むものではなかった。
結局『犯罪行為』も理想の刺激が得られないため手を出さなかった。
「はぁ~つまんないなぁ」
彼女はため息を吐きながらもつまらない毎日を送っていた。
その岡に転機が訪れたのは、高校生になった直後のこと。
「誰か助けて!」
「チッ、早くしろ!」
休みの日に東京に遊びに出かけている時に、偶然にも瀧川女学院とは違うお嬢様学校の生徒が誘拐されている場面に出くわしてしまったのだ。
「え?」
「おい、見られたぞ!」
「仕方ねぇ、そいつも連れてけ!急げ!」
「ちょっ、何よあんたら、離して!離してってば!」
この日に岡が誘拐されたことは、公どころか裏の社会でさえも記録されていない。
何故ならば岡はその日、普通に帰宅していたからだ。
それ以来、彼女は人知れずある男達と連絡を取るようになった。
「瀧女はマジヤバイって。調べようとしたら監視されるのマジっぽいよ」
「それをどうにかするのがお前の役目だろ」
「わーってるってば。だからこうして情報提供してあげてるじゃない」
彼女の言う通り、瀧川女学院に守られているこの街で学院のことに興味を持つそぶりを見せようものなら、即座に監視対象となっていた。
その事実を、彼女は監視されること無く調べ上げた。
女子高生同士のネットワークを使い、会話の中でさりげなく瀧川女学院の話題を出して街に住む学院の関係者らしき人物の噂話をゲットする。そうしたらその関係者から絶妙に遠い相手を彼氏に選んで付き合い、これまた嘘か誠か分からないあやふやな情報をゲットする。そうして手に入れた複数の情報を照らし合わせて、情報の真偽を判断していたのである。
「それよりも、次はいつ会える?」
「んー、そうだな。次の土曜に来いよ。山百合のとこの攻略が上手く行ってねーんだ。お前の意見も聞きたい」
「はーい。でもそれとは別にも呼んで欲しいかな、なんちゃって」
「アレに飽きたらそうするよ」
「ひっどーい、私だって悪くないと思うんだけどなー」
彼女は犯罪組織の一員として活動していたのだ。
あの誘拐された日、彼女は思ってしまった。自分が彼らの仲間になったのならば、どれほど刺激的な毎日を送れるだろうかと。そのためならば自分の体を提供するといった代償くらいどうってことはない。むしろ好みの見た目の男性も居たため、代償どころかプラス要素でもあった。
その犯罪組織はターゲット達と同年代の彼女を仲間にすることにより、獲物の行動を正確に予測出来るようになった。また、最終ターゲットである瀧川女学院の情報も少しずつではあるが入手出来るようになった。
彼女が成果を出すたびに、組織内での彼女のポジションは確かなものとなってゆく。
「ああ、楽しい。他人の人生を壊すのがこんなにも刺激的だったなんて!」
自らの内に眠る歪んだ想いに気が付いてしまった彼女だが、半年も経てば徐々に飽きが来る。
「(もっと……もっと大きなことがしたい!)」
欲望は留まることを知らず肥大化し、彼女はより大きな刺激を求めてしまった。
その彼女の欲望を満たすかのようなタイミングで、人類に『スキル』が付与された。
「あははははは!ウケル!『恋慕』だって!」
彼女に付与されたのは『恋慕』スキルだ。
確かに彼女は多くの男性と付き合い、特に最初の頃は恋に恋するような状態だった。
だが今では彼女にとっての異性関係はストレス解消でしか無かった。
恋慕の心などすでに持ち合わせていない彼女に『恋慕』のスキルが付与されたことが滑稽で笑ってしまったのである。
「でもまぁ確かに私にはコレがお似合いかもね。刺激的な毎日を恋焦がれているのだから」
犯罪に関するスキルでも、女子高生に関するスキルでもない。
異性に対するものではないが、『刺激』に恋焦がれる想いがあまりにも強かったため、『恋慕』スキルが付与されてしまったのだろう。
「これは使えるね」
彼女は付き合った相手との会話が弾むようにと、付き合う前に相手が好きそうな話題をいつも下調べしている。
彼女が付き合う相手は男子学生が多く、必然的に彼らが好む流行の創作物の話題も調査することになる。
すなわち、スキルについての知識は十分にあったのだ。
「あいつらを操り、スキルを鍛えて……あははは、面白くなってきたー!」
彼女は素早く動いた。
最優先は仲間作りだ。
『恋慕』スキルを使えば犯罪組織の人間を彼女に恋い慕わせ、操っているのと似たような状態にすることが出来る。
「(でも保険をかけたいかな)」
しかしそれでは、仮に仲間が捕まってしまったならば、芋づる式に彼女の存在もバレてしまう。彼女は刺激を求めているが、無謀な事をしたいわけではない。彼女は用心深くもあったのだ。
ひとまず今の仲間は彼女のことを知っているため『恋慕』スキルで操り、彼女のことを他言しないようにと『お願い』した。そして四六時中スキルを使い徹底的に鍛えるように『お願い』し、他の組織の人間へと同様のアドバイスをするように『お願い』をしたのだ。
これにより、多くの犯罪組織の構成員のスキルが上昇することになってしまった。
スキルのレベルが上がるまでの間、彼女もまた自分にとって有用なスキルを持っている人物を調査する。すると、偶然にも同じ学校に使えるスキルの持ち主がいると判明したのだ。
「『連鎖』スキル。これは使える!」
矢野涼真を『恋慕』スキルで堕とし、『連鎖』スキルを活用して他の犯罪組織の人間を味方に引き入れた。
しかも彼女は敢えて『恋慕』の対象を自分では無く矢野に向けた。
『恋慕』スキルはレベルが上昇することで同性間でも効果を発揮するようになったのだ。しかも同性の場合は『恋』ではなく『慕う』方が強調されるという都合の良い物であった。
これにより彼女は学生でありながら多くの犯罪組織の支持を集めることに成功した。
しかも彼らは皆、矢野を慕って集った人間だ。矢野の裏に彼女がいることを知っているのは最初に所属していた組織のメンバーだけである。
「私のために死んで頂戴」
彼女は自分の事を知る者達を無謀な犯罪行為に向かわせて処分した。彼女にとって、すでに殺人はありふれた光景となっており決断に躊躇いはなかった。誘拐されて以降、多くの犯罪に関わることで彼女の心はすでに壊れてしまっていたのかもしれない。好みの見た目であり、何度も抱かれた相手すらも抵抗感なく斬り捨てたのだから。
とはいえ、これで彼女を知る者は殆ど居なくなった。
「私が巨大犯罪組織の裏のトップかぁ。中二病みたいでウケル。それならそれでそれっぽく名前つけようっと」
彼女は小さい頃、自由研究で家族の歴史について調べたことがある。
その時にご先祖様が偉い人に仕える忍者であることを知った。その忍者としての名が『たつみ』であったことを思い出した彼女は、この犯罪組織での自分のコードネームを『たつみ』とすることに決めたのだ。立場が全く違い似合っていないが、細かいことは気にしなかった。
「矢野君、私の事は『たつみ』って呼んでね。ああ、どうせなら矢野君も『たつみ』って名乗って良いよ。二人だけの共通の名前って良いでしょ」
「うん!うん!」
矢野の心を操り煽りながら、『たつみ』は犯罪組織のトップを意味するコードネームに決まったのだった。
この時はまだ彼女は奏の事を知らず、奏の幼馴染の辰巳の存在も知らなかった。今後『たつみ』の名によって金城達が混乱することになったのは偶然の産物だったのである。もちろん彼女はその偶然を利用して『たつみ』の名を常盤を通じて金城に伝えさせ、敢えて混乱させたのだが。
その後彼女は仲間達のスキルを鍛えさせ、裏から彼らを密かに操り多くの犯罪を実行させた。
「あははは!たーのしー!」
彼女は難易度の高い犯罪計画を立て、それが成功するかどうかという刺激を堪能していた。
その難易度が高ければ高い程、成功したときの達成感や刺激は極上のものであった。
犯罪の結果、多くの人が嘆き苦しむ姿を目にするが、彼女はそれすらも愉悦に感じられていた。
そして刺激を求める欲望はまだまだ増大し、ついに瀧川女学院に手を出すことを決めたのであった。
「ババアがおかしい?」
「はい、このところボディーガードもつけずに徘徊していることが多いようです」
「ボケたのかな」
スーツ姿の男性が彼女に報告する。
彼は数少ない彼女の事を知っている人物。転移スキルというレアスキルを持ち、『恋慕』スキルに関係なく彼女に心酔している人間だ。仲間作りの際に偶然出会った彼は権力者に大きな恨みを抱いているようで、次々と大きな犯罪を成功させて権力者達を苦しめる彼女を心から慕っていた。
彼女にとって都合の良い人間であり、傍に置いている。何かあったら消せば良いと気軽な感覚で。
「じゃあ事故に扮して消そっと」
金城が精神的に病みかけている情報を入手した彼女は、金城の殺害を即決した。金城さえ居なくなれば、瀧川女学院の攻略が現実的になるのだ。
特に複雑な計画は作らず、使えない下っ端を操り単純に轢き殺すことにした。
「報告します。金城理事長の殺害は失敗しました」
「は?」
「暴走した車は金城理事長を轢き殺す寸前、忽然と姿を消しました」
「はぁ?何それ?」
だがそれは奏の手によって阻止された。
その後、彼女は奏によって真夜の誘拐という一大イベントを潰された。組織は大打撃を受け、あと少しで矢野の元まで辿り着かれるところまで迫られた。
「因果応報?めんどくさい!」
奏は金城理事長だけではなく瀧川女学院の生徒達と交流を持ち始める。このままでは瀧川女学院は奏の手によって強力に守られてしまうだろう。だが邪魔な奏を潰そうにも、奏本人が最も強力に守られているため迂闊に手出しが出来ない。
「なんとかしてあいつを消さないと」
難易度は高い。
だが、だからこそやりがいがある。
「消せないなら自分から消えてもらえば良いよね」
彼女の案はシンプルだった。
奏がスキルによって守られているのであれば、奏自身に死にたいと思わせれば良いのだと。
そして、日本国内で無差別テロを起こし、それは奏のせいなのだと呪いをかけることを考え付いた。
「全部矢野にやらせれば、報いはあいつに向かうよね」
仮に彼女にも報いが与えられるとしても、死にたくなる気持ちと戦えば良いだけだ。その程度耐えて見せると彼女は軽く考えていた。
どうせやるならば盛大にやろうと決めた彼女は、海外からテロリストを呼び寄せて大統領を狙わせた。そして同時に日本全国の権力者達を亡き者にし、社会が大混乱に陥っている中で次々と攻撃を仕掛け、これを機に本格的に日本を裏から牛耳ろうと考えた。
その始まりであり第一歩となる大規模テロの日は、彼女が通っている高校での期末テスト最終日に決めた。決して彼女の都合に合わせたわけでは無く、丁度その日に首相官邸で首脳会談が行われることになっていたからだ。
敢えて警備が最もきつい状況を狙い暗殺を成功させることで、精神的な面でも大打撃を与えるつもりであった。
「ふんふんふ~ん」
当の本人は大それたことを計画している気分を全く表に出さずに、普通に学生として振舞っていた。
「(結局私の事は分からなかったみたいだね。あんなに露骨なヒントをあげたのに。瀧川女学院って言っても大したことないなぁ)」
金城からの挑戦状とでも思えた瀧川女学院への招待を受け、スキルを鍛える絶好の機会であると考えた彼女は遠慮なく暴れさせてもらった。だが、それでも彼女を捕らえるような雰囲気はまったく無かった。
「(せっかく逃げる用意もしてあったのに残念だよ)」
もし瀧川女学院が彼女達を捕らえるべく動いたならば、全く別の計画で奏を追い込むつもりであった。だが金城達が様子見していたため、彼女にとって一番楽な計画を実行することになった。
「(おやすみなさーい)」
奏達と一緒にカラオケに行き、矢野が仕込んだ睡眠薬入りジュースを彼女も飲んで自分も被害者であると思わせるために本当に寝ていた。ちょっとした仕掛けで彼女だけは早めに起きられる仕組みになっており、彼女が目を覚ました時にはすでに屋上にいた。それゆえ、スーツ姿の男が怪盗と入れ替わっている事にも気が付かなかったのだ。
「(おお、やってるやってる。この目で彼の顔が見えないのが残念だなぁ)」
状況は彼女が想定していた通りに推移しているようだ。
矢野が良い感じで奏を煽り、大規模テロで心を痛めるという種はしっかりと植え付けられている。
後はスーツ姿の男に連れ去られるフリをして逃亡すれば作戦は完了したようなもの。
その彼女にも不意に奏の想いが伝わって来る。
この時点では彼女は奏にとってクラスメイトであったため、守りたい相手の中に含まれていたのだろう。
だがその想いは急に途絶えた。
『あなたはダメです』
「(え?)」
突如機械的な女性の声が聞こえて来て、体を包み込もうとしていた温もりが霧散したのである。
「(何よ、何がどうなってるの!?)」
想定外の事態になっていることは分かるが、何が起きているのかが分からない。
一つだけ分かったことは、作戦が何らかの理由で失敗したという事。
何故ならば、矢野が失敗した時のための行動に出たからだった。
自殺することで奏の心を少しでも傷つける。
だがこれは表の理由である。
今回の事件で矢野が犯罪組織のトップであると瀧川女学院などに伝わる。仮にこのまま逃げ切れたとしても、いずれ矢野が捕まってしまう可能性が高い。ゆえに今のうちに消しておいて誰も彼女に辿り着けないようにしたのだ。
「(はぁ……また一からやりなおしかぁ)」
組織の仮のトップである矢野を失い、大規模テロも失敗し奏も無事である。
彼女としては散々な結果であるが、まだやりなおせるのだとこの時までは思っていた。
「(え?バレてるの?)」
「(は?怪盗?)」
だが彼女はすでに詰んでいた。
結局、何が何だか分からないまま、彼女は瀧川女学院に捕まってしまったのである。
そして彼女は知らされることになる。
奏の因果応報?スキルによる『報い』は、決して彼女を許してはくれないのだと。
「いやぁ!誰か助けて!」
「(いやぁ!誰か助けて!)」
彼女は眠る度に必ず夢を見るようになった。
それは彼女がこれまでに殺め、傷つけて来た人の追体験。
彼らと彼女の心が同調し、地獄のような体験を味わうことで、被害者である彼らが何を想い、何を感じて来たのかを心の底から強制的に理解させられたのだ。
「もう嫌……もう死なせて!」
心が折れた彼女は死を求めるが救いは無い。
単純にまだ彼女からの聞き取りが終わっていないからだ。彼女が犯した罪があまりにも多く、話を聞くだけでも膨大な時間がかかってしまう。そして全てを知るまでは彼女に死んでもらう訳にはいかないのだ。絶対に死なせないような対処がなされている。
その日々の中で、彼女は毎晩必ず悪夢を見せられ、己の罪を自覚させられる。
何故か心が壊れることはなく、懺悔の気持ちを込めて全てを白状してもなお、『報い』からは解放されない。どれだけ救いを求めても受け入れられなかった被害者達と同様に。
時系列を追って全ての裏話を書くと倍以上に長くなるのでカットしました。
奏の物語ですので、悪役の扱いはこんなものです。




