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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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24. 奏に愛された者達 中編

※少し短いです

「んん……むにゃむにゃ」


 テスト疲れとカラオケではしゃいだということもあり、気持ち良さそうに眠っている栞。

 その栞にも奏の想いは伝わっている。


 眠っている人は夢の中で奏に出会ったような感覚を抱き、目が覚めると何が起きたのかを忘れずに他の人と同様に覚えている。


『少しお転婆だけど心優しい栞ちゃんが、無事でありますように』

「お転婆って何よー……」


 少しだけ棘のある想いに、栞は思わず寝言を呟いてしまう。

 守りたいと願う想いですら軽口になってしまうのは、相手が慣れ親しんだ幼馴染であるがゆえ。


 奏にとっての栞は幼馴染であり、気の置けない友人であり、そして初恋の相手である。


 初恋と言っても幼少期の事であり、男だの女だのを意識する年頃になるとそのような想いは消えていた。要は身近で仲が良い女の子だったというだけのこと。


 その栞に対して奏が感じている想いは実にシンプルなものである。

 一緒に居てとても楽しい女の子。

 いつも笑顔を浮かべて沢山の楽しいを与えてくれるムードメーカー。


 奏は大切な親友のその笑顔がいつまでも続いて欲しいと願っていた。

 そして親友の恋が実って欲しいと心から想っていた。


「ふふふー……かなちゃんの初恋……私だったんだー……」


 栞が目覚めた後、奏が弄られることが確定した瞬間であった。

 尤も、辰巳との仲を願われて強く意識させられたことで、目が覚めた後に辰巳と目が合い瞬間沸騰機と化すのであるが。




「待て、栞、俺は悪くない!」


 辰巳もまた爆睡しているのだが、可愛そうな夢を見ているようだ。

 先日のケンカの後遺症がまだ残っているのだろう。


『ヘタレな辰巳が、無事でありますように』


 栞よりも酷い願いである。

 最早願っているとすら思えない内容であるが、日ごろから軽口を叩き合っている仲なのでこの程度は普通なのだろう。


 奏と辰巳と栞。

 幼馴染である三人は小さいころから一緒に遊んでいた。


 そしてずっと一緒に居たからか、辰巳は気が付いていたのだ。

 奏の初恋の相手が栞であることに。

 そして栞も奏のことを好いていたことに。


 もちろん栞のところで触れたように、それはあくまでも幼少期の関係。

 物語では幼少期の恋心が成長しても続く幼馴染モノが多いが、彼らの恋心はあくまでも子供の頃に閉じた範囲のものである。

 もちろんこれから先、好みや考え方の変化により再度相手が気になることがあるかもしれないが、少なくとも今は好みの違いにより完全に恋愛対象外なのだ。


 だがそれが分かっているのは当事者だけのこと。

 第三者である辰巳はその事実が分からず、もしかしたら心の奥底では二人はお互いが好きなのではないかという不安を無意識に抱いていたのだ。

 奏に彼女候補が現れてから栞へアプローチしたのも、奏が栞を選ばない可能性が高くなったからである。


『僕のことなんか気にしてないでさっさと幸せになって!』


 そして奏もまた、辰巳が勘違いしていることに気が付いていた。それとなく勘違いを正そうとこれまで努力してきたが、残念ながら実を結ばなかった。自分が彼女を作ることで辰巳が奏に気を使わなくなるとは思っていたが気になる相手が見つからなかった。芹那達と出会えたのは、辰巳の背を押すという意味でも奏にとって幸運なことであった。


 そして今、奏の『愛』により、辰巳はこれまでの自分の無意識の勘違いを知ることになる。


「……俺って……本当に……馬鹿だな」


 勘違いで栞を待たせてしまったことと、奏に長い間心配させてしまったことを辰巳は夢の中で悔いた。


 奏の本心を知った辰巳は、目覚めた後から積極的に栞にアプローチするようになるだろう。


 ……いや、それは無いかもしれない。

 結局のところ、辰巳がヘタレであることには変わりは無いのだから。




「奏さん?」


 金城が転移スキルで奏の元へと駆け付けようとした瞬間。

 金城にも奏の『愛』が伝わって来る。


『みんなのことが大好きな心優しいお婆ちゃんが、無事でありますように』


 怪盗と同じくシンプルな想いだが、濃度は段違いだ。


 奏にとっての人生の転機は、交通事故から金城を助けた時である。

 それまではごく普通の学生であった奏が、事故をきっかけに何故かお嬢様達と知り合いになり想われることになったのだ。事故とお嬢様達との出会いには直接の関係はないが、日常が普通で無くなった最初の出来事として金城との出会いは強烈に印象に残っている。


 そしてその金城が世間で恐れられている瀧川女学院の理事長であることを知り恐怖し、それでも態度を変えないようにと勇気を奮い立たせた時から、金城の奏へのダダ甘攻勢がはじまった。


 まるで恋人であるかのような頻度でメッセージが届くが、その内容は祖母が孫に伝えるものと同等であった。

 奏が困っている時には必ず相談に乗ってくれて、全ての物事が上手く行くように尽力してくれる。


 奏にとって金城は、頼りになる優しいお婆ちゃんであり、実の祖母であるかのように大切に想っていた。


 その気持ちが金城に伝わって来たのだ。


「なんということだい……」


 自分が人からどう想われているのかなど、本来であれば分からない。

 金城としては奏に好印象を抱かれている事は感じていたが、ここまで慕われているとは思っても居なかった。


『そんなこと言わないでください。お婆ちゃんが亡くなったら、僕泣いちゃいます』


 金城が初めて奏に出会った時にかけてもらった言葉を思い出す。

 奏はこの時からずっと、金城の事を心から大切に想ってくれていたのだった。


 金城はずっと畏れられるだけの存在であった。

 慕ってくれる娘達でさえも、金城との間には尊敬や畏れのような何らかの壁があった。

 それは娘達を守るために自らそうなるように仕向けたからであり、金城は後悔していないと思っていた。


 だがこの歳になってようやく気付かされた。

 自分もまた、心のどこかで『愛』を求めていたのだと。

 そしてその『愛』を、一切の畏れの無い純粋な『愛』を奏が与えてくれた。


 その衝撃故か、金城の頬に一筋の涙がこぼれる。

 必死に生きて来た金城の人生は、この瞬間、はじめて報われたのかもしれない。




「お兄ちゃん?」


 七海もまた中学の期末テスト最終日であり、友人達と一緒に街に繰り出し遊んでいた。

 そして奏よりも早くに友人と別れて家路に向かう途中、七海にも奏からの想いが伝えられた。


『七海が無事でありますように』


 怪盗や金城よりも更にシンプルな想いである。

 しかし、その想いの強さは金城よりも遥かに上だ。

 家族であり妹であり、溺愛していると言っても良い程に愛情を注いでいるのだから当然だ。


「……もう……お兄ちゃんったら」


 七海も普段から兄に愛されていることを知っているため、照れ臭くは感じたが心が大きく揺さぶられることは無かった。兄が目の前に居たのなら、そんなことは分かってるよと、照れ隠しに軽く殴ったかもしれない。


 普段からそれだけの関係を築けているのである。


「……え?」


 だが、奏が何故このような願いを七海に伝えているかの理由を知ると、七海は大きく動揺する。

 奏が大規模テロを起こそうとしている主犯の人物と相対しており、自殺を強要させられている。つまりはまたしても・・・・・命の危機であることを知ってしまったがゆえに。


 確かに奏は七海の事を妹として愛しているかもしれない。

 端から見ればあまりにも甘やかしているため、シスコンと呼ばれてもおかしくはないだろう。


 それと同時に、七海も奏のことを兄として愛していた。

 遠慮なく甘え放題であり、それこそブラコンと言われてもおかしくはないほどに。


 その大好きな兄のピンチを知った七海の反応は決まっている。


「うわああああん!お兄ちゃああああん!」


 これまでも妹の七海だけは奏が事件に巻き込まれたことを知って毎回号泣していた。

 今回もまた、兄を失うかもしれない悲しみと恐怖で涙をこらえることが出来なかったのだ。


『七海、心配かけてごめんね』


 七海は泣きながら家に向かって走る。

 心配をかけた兄を出迎えて、文句をぶちまけるために。

 何度も何度も泣かせる酷い兄に、『愛』を伝え返すために。


「うわああああん!」


厳正なる抽選の結果、奏のご両親は見送りとなりました。

似たような流れになるから多少はね

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