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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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22. 奏を愛する者達

この回はこれまでの個人名がついている回に相当するお話です。

ただし、これまでのように甘酸っぱいお嬢様達の内心は『まだ』描かれておらず、事件の裏で何が動いていたのかを説明する回になっております。


実は分割回でして、いつもの雰囲気のお話は次回になります。

「岡が動いた?」

『うん、テストの打ち上げに付いて来るって。例のメンバー全員誘ったよ』

「分かったわ。連絡ありがとう」


 その日、金城は瀧川女学院の理事長室で待機していた。

 待機と言ってもただ待つだけでは無い。

 理事長室には大量のモニターが設置されており、日本全国の様々な場所の状況をリアルタイムで確認し、随時指示を出しているのだ。


 その金城の元に芹那から電話が来て、容疑者達と一緒にカラオケに行くことが伝えられた。


「直ちに連絡なさい」

『はっ!』


 金城の親衛隊が部屋を飛び出し行動に移る。


 すでにアメリカ大統領は来日し、日米首脳会談の真っ最中だ。

 しかも謎の犯罪組織から日米首脳会談の期間中に日本全国でテロを起こすという予告が届いている。

 そんな状況で容疑者が動いたとなれば、大規模テロが起こる予兆であると捉えるのは普通の事だろう。今日何かが起こる可能性があるため特に注意するようにと、関係各所に連絡したのだ。


「あの子達の解析結果は変わらないかしら」


 秘書の佐久間が金城の質問に答える。


「はい、何度確認しても『普通の』生徒達です」

「やはり何かしらの方法で偽装しているのかしらね」


 レベルが高い鑑定スキルを使用することで、相手の特徴的な部分までも視ることが出来る。

 犯罪組織の一員である、あるいは操られている、といった大きな特徴は間違いなく鑑定結果に出てくるはずだ。それが全く見られないという事は、本当にシロか、あるいは鑑定スキルを何らかの方法で妨害しているかのどちらかだろう。


「彼らの監視は引き続き行って頂戴。但し、あくまでも状況が判明するまでは様子見すること。それまでは『最初の一手』を見つけるのが最優先よ」


 矢野は金城達が手一杯で奏の守りに人を割けていないだろうと言っていたがそんなことはない。十分な人員を割いて奏を見守っていたのだ。手を出さなかったのは、相手の出方を伺っていたため。


「理事長、パパのことも忘れないで」

「分かってる分かってる」


 理事長の傍には、理事長と紐で繋がれた椿がいる。


「ダディを助けてデース!」

「分かってる分かってる」


 更には同じく紐で繋がれたレイリーもいる。


 父親の命が狙われていることが心配な二人が、瀧川女学院を飛び出さないように物理的に拘束しているのだ。


「はぁ、切羽詰まった状況だってのに、何も分かっていないなんて」


 金城がやるべきことは大きく三つある。


 大規模テロの主犯を特定して捕らえること。

 『最初の一手』を防ぐこと。

 大統領襲撃を防ぐこと。


 主犯は交流会メンバーの中にいるのではと金城の勘が告げているが、まだ特定出来ていない。

 全員捕まえることも考えたが、捕まえた事をきっかけに組織の人間や共犯者がテロを起こすかもしれないため、事件の全容が分かるまでは手出ししにくい。


 そこで重要なのが『最初の一手』である。

 金城達は瀧川女学院での事件が『連鎖』スキルと『恋慕』スキルの組み合わせであると考えていた。特に『連鎖』スキルは全ての都道府県知事を狙うという離れ業を実現するにはうってつけのスキルである。

 ただし、『連鎖』スキルを持っている矢野が最有力容疑者ではあるものの、他のメンバーが同じスキルを持っていて隠ぺいしている可能性があるため、主犯とは確定していない。だが『連鎖』スキルが使われると分かっていれば、やれることはある。

 連鎖の初手を見つけて潰すことだ。その初手を特定するために、瀧川女学院の部隊は日本全国を調べ回っていた。


 そして忘れてはならないのは大統領襲撃。

 日本の警察が中心になって、日米共同で厳重な警備をしているが、それが突破されて総理や大統領が傷つき椿やレイリーが嘆き悲しむのは金城としても避けたい事。あまり出来ることは無いが、襲撃相手の特定などの面で警察と協力している。


 瀧川女学院は多方面で部隊をフル動員しているが、未だ目立った成果は無い。


「(何か『きっかけ』があれば一気に状況が好転しそうな気配はあるのよね)」


 その『きっかけ』。

 それは奏を愛するお嬢様達の行動によってもたらされた。


「このタイミングで電話?」


 突如、理事長室の固定電話が鳴り出した。

 通話先は非通知であるが、出ない選択肢は無い。


「もしもし、どなたかしら」

「ハーイ!金城ちゃーん」

「……今、尤も聞きたくない声だわ」

「そんなつれないこと言わないでよー」


 無駄にハイテンションな経団連の会長、常盤一である。


「分かっているとは思うけれど、こっちは死ぬほど忙しいのよ。用件があるなら早く言ってくれないかしら」

「その年で死ぬほど忙しいとか、洒落にならないよ?」

「あんたの電話のせいで死期が近づきそうだわ。ほら、早く用件を言いなさいよ」


 常盤一は目的のためなら手段を選ばないタイプの人間であり、金城が苦手とする相手だ。金城も常盤に近い考え方を持っているのだが、誰かが深く悲しんだり苦しむような方法は選ばない。しかし常盤は他人の人生を壊すことに躊躇いはなく、多くの悲劇の上に成功を掴み取った人間なのだ。


「ピリピリしてるねー本当に早死にするよ?」

「早く!」

「おお、怖い怖い。それじゃあ教えてあげるからちゃんとメモしてねー」


 あくまでも軽いノリを崩さない常盤だが、話の内容は態度に反してとても重要なものであった。


「大統領を狙うテロリストの潜伏場所は、千代田区にある廃ビルの地下だよ。具体的な場所はメールするね」

「は?」

「それと『たつみ』だけど、君が監視している矢野涼真が自称していたよ。彼が『本物』かどうかは分からないけどねー」

「ちょっと、突然何を?」


 常盤はいきなりとてつもない情報を提供し、流石の金城も慌てる声をあげる。


「困ってたんでしょ。だからこれはボクからのプレゼントさ」

「あんたはどこまで知ってるの?」

「知ってるのはそのくらいだよー。それ以上知ろうとしたらアウトっぽかったからさ」

「……深くは詮索しないさ。だが、信じて良いのかい?」

「もちろんさ!」

「胡散臭いわねぇ」


 金城は常盤から『たつみ』という名前だけを教えられていた。

 ゆえに常盤が今回の事件の首謀者と何らかの関係があるとは思っていたが、まさかここで相手を裏切るような真似をして来るとは思わなかった。


「だが良いのかい?正直なところ、こっちは大分苦しいわよ。あんたならこのまま相手の方についてた方が得だったんじゃないかね」


 そうすれば、少なくとも大規模テロで自分は狙われずに大損することは無いのだから。


「もちろんそう思ってたさ。せっかく『たつみ』ってヒントをあげたのに全く活かせてなかったからね」


 常盤が金城に『たつみ』という名前を教えたのは、それで金城が相手の情報を丸裸にして壊滅出来るのならば、鞍替えしようと考えていたからだ。自分はあくまでも相手から情報を引き出すために仲間のフリをしていただけだ、とでも言うつもりだったのだろう。

 だが金城は情報を活かせなかった。ゆえに、常盤が金城に味方することは無い筈だった。


「じゃあ何で今更。正義感に目覚めたってわけじゃないだろうに」

「それは、金城ちゃんの隣にいる子に聞いた方が早いんじゃないかな?」

「え?」


 金城の隣にいるのは、椿だ。


「椿ちゃんがボクに毎日のように電話して来てね。奏様がいるから絶対に大丈夫だ、協力して欲しいって必死に訴えて来たんだよ。そのあまりの熱意に絆されちゃってさぁ。ボクも年かなぁ」


 否、常盤は椿の話を聞きながら、状況が変わりつつある空気を察したのだ。

 奏を守るためにお嬢様達が必死に動いている話を聞き、魑魅魍魎が住まう権力者達の中でトップまで昇りつめた男の嗅覚が、ここは奏を全力で支持すべきだと言っていた。


 ゆえに悩んだ結果、金城に知っている情報を提供するという判断をした。


「椿、あんた……」


 椿が頼ったのは常盤だけではない。

 自らが知る権力者達に片っ端から電話をかけて、協力して欲しいと真摯にお願いしたのだ。瀧川女学院から出られない自分に出来ることはそれくらいしか無いと判断し、それならその出来ることに全力を尽くそうと考えた。


 常盤を動かしたのは、奏と父親を守りたいと願う椿の真摯な想い。

 そして、人々の心を刺激して味方になりたいと思わせる、椿のリーダーとしての力であった。




「……ん」


 真夜はまどろみから覚醒する。

 奏の歌を聞いていたら唐突に襲って来た激しい眠気。それが睡眠薬によるものであることを察した真夜は、すぐに常備していた薬を飲んで睡眠薬の効果を打ち消した。


「どうにか無事だったようですね」


 目が覚めたら別の場所、ということはなくカラオケ部屋の中のまま。

 芹那や美月、クラスメイト達もそのまま眠っているため、拉致られたり殺されるといった展開では無かったことに安堵する。


「奏様!」


 だがこの場には奏が居ない。

 それは真夜にとって最悪の展開であった。


「まずは二人を起こしましょう」


 芹那と美月に薬を飲ませ、目が覚めるのを待つ。

 他のクラスメイト達を起こすかどうか迷ったが、今放置されているという事は、敵は手を出すつもりがないということだと判断し、安全のためにそのまま起こさないことに決めた。


「奏様……どちらにいらっしゃるのでしょうか」


 焦る真夜は、部屋の中に岡と矢野の姿が無いことに気が付いた。


「もしかしたら!」


 実はクラスメイトには真夜の手によって発信機がつけられている。

 カラオケ屋に移動中に、真夜が忍ばせたものだ。

 真夜はスマホを開き、彼らがこのビルの屋上にいることが分かる。


「奏様もきっとそちらに!」


 薬を打ち消し、発信機により素早く奏達の居場所を特定し、芹那と美月と共に屋上に駆け付ける。

 これもまた、奏を守るために真夜が出来ることを尽くした結果であった。




「ちょっと待ってて」


 みんなでカラオケに行く話になり、岡達が合流することが決まった後、美月はある人物に電話をした。


「多分今から動くからよろしく」


 美月のやるべきことは、これで既に終わっていた。

 怪盗に連絡をして、大規模テロから人々を守るように依頼したのだ。


 そしてこの怪盗を味方にしたことが大ファインプレーだった。

 怪盗はカラオケ屋の店員になりすまして美月達を監視。

 全員が眠らされて奏と矢野が屋上へ向かった後をつけて、屋上の入り口付近で引き続き彼らを監視。

 するとその場に眠った岡を抱えたスーツ姿の男が転移してきたのだ。


「……!?」


 怪盗はすぐにその男の意識を刈り取り、入れ替わった。


「(この銃で脅せば良いのですね。まったく野蛮なことを)」


 スーツ姿の男に変装した怪盗は岡の頭に銃口をつきつけて屋上に入り、同時にダミーを出現させて気絶したスーツ姿の男を下の階のトイレの個室に押し込んだ。そしてスキル無効化装備をつけてロープでグルグル巻きにし、美月にその場所を示すメッセージを飛ばした。


「(このメッセージは!)」


 そしてそのメッセージが届いた美月は金城に連絡し、スーツ姿の男は瀧川女学院に確保されることになる。すぐに男の目を覚まさせ、様々なスキルを駆使して尋問した結果、その男は主犯の右腕の人物であり欲しかった情報がボロボロと入手出来た。


 最初の一手を担当する者が何処にいるのか。

 矢野ではなく岡が主犯であること。


 特にこの二つの情報により、ほぼ全ての問題が解決されたと言っても良い。

 最初の一手を直ぐに潰し、全てを終わらせるために転移スキルの持ち主の力を借りて椿と共に屋上へと飛ぼうとする。


 その瞬間、日本中に激震が走る。




 芹那は毎晩遅くまで訓練していた。

 自分が奏を守るには『隠密』スキルが役立つと信じていたからだ。

 奏は強力な防御スキルを持っているが、どのような想定外が起きるか分からない。

 『隠密』スキルと護身術の組み合わせは、相手に気付かれずに奏を守るには有効であった。


「(絶対に奏様を守る!)」


 父親にお願いして護身術の練習機会も増やしてもらった。

 真剣に練習することで『隠密』スキルのレベルも上昇した。


 全ては奏を守るため。

 そのために、芹那は必至で訓練を続けて来た。


 そしてカラオケ部屋で目覚めた芹那は、今こそ『隠密』の使いどころであると判断した。

 自分は遅れて来ると真夜達に証言させた上で、本当は真夜達と一緒に屋上に侵入していたのだ。


「(奏様が苦しんでいる……!)」


 自分はその場に居ないことになっているため、矢野の言葉で苦しむ奏を支えることが出来ない。

 触れて温もりを与えることが出来ない。

 必死に奏を支えようとする真夜達を見て、何も出来ない自分を歯がゆく思いながらも、自分の役割も必要なのだと信じて集中力は決して切らさない。

 尤も、集中力が無くてもスキルが継続されるくらいにはレベルが上がっているのだが。


 そして芹那が何も出来ないまま、奏は日本中の全ての人々に向けて祈りだす。


「(かなでさまぁ)」


 祈りの影響で発情状態になった芹那は奏の背中に頬擦りしていたが、奏が立ち上がったことで冷静さを取り戻す。


「(ら、らめ、しゃんとしなきゃ)」


 スキルのレベルを上げていなければ、集中力が途切れたことによりすでに『隠密』スキルは解除されていただろう。これまでの努力の賜物である。


「(死のうとしてる!)」


 火照った思考は矢野による身投げの発言で冷え、気持ちを切り替える。


「(奏様を悲しませるなんて許せない!)」


 矢野の行動の意図は分からない。

 だが、今こそ『隠密』スキルを活用する時だ。


「ええええい!」


 芹那は素早く矢野に近づき、体勢を崩してから背負い投げをした。


「(ここで、こう!)」


 そのまま練習した通りに、矢野をひっくり返し、腕を取って綺麗に極める。


「(やった、やったよお父さん!)」


 忙しい中、時間を作って教えてくれた父親に向けて心の中で感謝の言葉を告げる芹那。

 努力は実を結び、奏の心を守ることが出来たのであった。




 椿が必死に助けを求めたことで、常盤が味方になり大統領暗殺が防がれた。

 真夜が決して油断せずに睡眠薬を打ち消したことで、怪盗からの連絡を美月が受け取り、芹那を屋上へと導くことが出来た。

 美月が怪盗の力を借りる選択をしたことで、敵の正体や狙いが明らかになった。

 芹那が自らの力を鍛えたことで、矢野の自殺を止めて奏の心が傷つくのを防いだ。


 奏を想うお嬢様達が、自分に出来ることを尽くした結果、大規模テロが防がれ、奏の心も傷つかない最高の結末を迎えることが出来たのだった。


次回『奏に愛された者達』をお楽しみに

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