21. 美少女達や全ての人が無事であるように願っただけなんですけど
超 展 開。
そして場面がコロコロ変わりますがご容赦を。
「な、なんで僕が!」
他人が手を出せないのならば、自分で命を絶って貰えば良い。
それが矢野が考えた策であった。
「最後に良い思いをしただろ?せっかくのプレゼントなんだから手を出せば良かったのに、君も変な男だ」
「プレゼント?」
「そう、大量の美少女達とのハーレム。男の夢じゃないか!」
大量の美少女達。
思い起こすのは瀧川女学院での生徒達の乱心事件。
「あれも矢野君が!」
「そうさ。死にゆく君への最高のプレゼントだと思ったんだがな。悲しいことに受け取っては貰えなかったが」
「なんてことを……!」
乙女の純情を弄ぶ矢野の卑劣な行いに奏は怒りに打ち震える。
あの事件で悶々として芹那に襲い掛かってしまったことに対する恨みも少しは含まれているかもしれないが。
「でもどうやって?」
怒る奏を落ち着かせるためか、美月が二人の会話に割って入る。
気になるのは生徒達を惑わせた方法だ。
「僕のスキルを知っているだろう。アレは他者のスキルも指定出来るのさ」
矢野のスキルは『連鎖』だ。
生徒達全員がおかしくなったのは何らかの事象を生徒全員に『連鎖』させたためだろう。
生徒に含まれていなかったレイリーに影響が無かったため、条件が『瀧川女学院の生徒』であったと考えて間違いない。
だが問題はその何らかの事象の発生源だ。
矢野では『奏に発情する』という状況を作り出すことが出来ない。
あの場に居た人物でそれが可能なのは恋愛マスターの岡杏奈。
『他者のスキルを指定出来る』ため岡のスキルを指定したのだろうが、それでもまだ疑問が残る。
「ですが岡さんがあのようなスキルを使うとは考えられません」
「まさか共犯者?」
岡に思い通りのスキルを使ってもらう必要があるのだ。
共犯者でも無ければ実現は難しいだろう。
「共犯者とは少し違うな。確かにその女は自発的にスキルを使ったが、僕がそうなるように仕向けたのさ」
「仕向けた、ですか?」
「ああ、僕は『お話』が得意でね。彼女にちょっとばかり『お話』しただけだ」
「まさか洗脳?」
「あっはっはっ!そんな大層なものじゃないさ」
つまり矢野にはスキルを使わずに人を操る手段があるのだろう。
岡が普通に生活していることから考えて、脅迫の類では無く洗脳に近い何らかの手段。
「何故かババアがまた僕を呼んでくれたからな。遠慮なくスキルの練習に使わせてもらったぜ」
「練習?」
「ああ、スキルのレベルアップの条件を知っているか?使用回数と難易度だ。瀧女の生徒にスキルをかけるなんて超絶難易度だからな。簡単にレベルが上がったぜ」
「なんてことを!」
奏へのプレゼントの実態は、単なるレベル上げ作業だった。
スキルを強化するためだけに生徒達を巻き込んだこともまた、奏の逆鱗に触れたのだった。
話の最初の頃に矢野が口にした通り、矢野と奏は徹底的に考え方や感性が合わないのであろう。
「スキルが進化したことで、日本中の多くの人物をターゲットにすることが可能になった」
予知の内容がここで繋がった。
日本全国の都道府県知事の死。それは『知事』をターゲットとして『連鎖』スキルによって攻撃を仕掛けたからだったのだ。
「だがまぁ、どうしてか僕の狙いがバレているみたいなんだよな」
『!?』
美月と真夜は戦慄した。
金城が予知で未来を知ってしまったがゆえに、不自然に都道府県知事の守りが硬くなってしまい、矢野に彼らの動きがバレてしまったことに気が付いたからだ。
「まぁ別に僕のターゲットは誰でも良いんだけどよ。医療従事者に狙いを変えて医療を潰すか、大学教授や教師をターゲットにするのも面白いかもしれないな。日本が大混乱になればそれで良い」
予知を聞いてしまったがゆえに、最悪の状況へと変わろうとしていた。
このままテロが成功してしまえば日本は大ダメージを受けるだろう。それこそ、国家の存続が危うくなるレベルに。
「なんて酷いことを……」
奏はあまりの衝撃でフラフラと倒そうな気分になっていた。
一庶民である自分程度では受け止め切れない歴史的な大事件に巻き込まれているという事実が、耐えがたい苦痛だった。
「おいおい、無関係そうに言うなよ」
そして矢野は奏に追い打ちをかける。
「言っただろ。僕は君に消えて欲しいって」
「……」
「別に僕は好きでこんなことをやるわけじゃねーんだぜ。裏社会に潜んだまま『悪いこと』をしていればそれで満足だった。でもよ、さっきも言ったが、それには君がとても邪魔なんだ。だから多くの人を殺すことにした」
「意味が……分からない……」
矢野が犯罪者として『悪いこと』をしたい。
それには何らかの理由で奏が邪魔だった。
そこまでは良い。
だが、何故そこから無差別テロにつながるのかが分からない。
「君は僕とは違ってとても優しい。優しすぎる人間だ。そういう人間はな、自分のせいで誰かが傷つくのがたまらなく辛いんだ」
「奏様、聞いてはダメです!」
「おっと、邪魔するな。あの女の脳天ぶち抜くぞ」
「くっ……」
矢野の言葉に嫌な予感を覚えた真夜が奏の耳を塞ごうとするが、矢野はそれを強引に止める。
これからの話を奏に伝える事こそが、今のこの会話の目的なのだから。
「続けるぞ。僕は君が邪魔だから無差別で人を殺す。君がいなければ僕はそんなことはしない。君が居るから多くの人が死ぬんだ」
「……」
「悪いのはもちろん僕だ。だが面白いことに、お人好しってのはそれでも自分がいるから誰かが傷つく、なんて考えちゃうんだよなぁ。あっはっはっ!くっだらねぇ!実にくだらねぇ!」
「……」
奏本人に全く落ち度が無かったとしても、それでも悩み苦しみ心を擦り減らしてしまうのが善人である。
「僕は君が生きている限り、何度もテロを続けよう。例えその女共が君の心を癒そうとも、壊れるまで何度も何度も続けよう。その度に君は人々の死が自分の責任であると思い苦しむことになる」
お嬢様達や幼馴染ーず、金城や家族は奏を必死で支えるだろう。
だがそれでも奏はあまりの優しさ故、耐えきれなくなってしまう。予知で奏の死が見えたという事は、そういうことなのだろう。
「地獄だぜ。だからさ、死のうぜ」
ここで矢野を捕らえてしまえば、テロは起きずに奏が苦しむことも無くなるだろう。
だが、堂々とこの場に立っているという事は、逃げる算段があるということだ。
「(どうしたら)」
「(このままでは奏様の御心が!)」
焦る美月と真夜。
何も言えずに俯く奏。
絶体絶命の大ピンチ。
この状況を覆したのは、椿だった。
正確には以前椿が奏にかけてくれた言葉だった。
『私達を……想って……』
奏は不思議に思っていたことがある。
何故、権力者達は自分に興味を示すのだろうか、と。
お嬢様達と恋仲にある自分と懇意になれば、権力的なメリットはあるのかもしれない。
だが、中にはまるで奏の人生を丸ごと面倒を見てあげるかのような大げさな態度を示す者も居た。
関心を惹くためだけにしては、いくらなんでもやりすぎではないか。
もしかしたら自分には、自分が気付いていない何かがあるのかもしれない。
権力者達がこぞって奏との繋ぎを求める程の何かが。
因果応報?スキルの存在を奏は気付いていないが、自分には得体のしれない何かがあると、漠然とだが感じていたのだ。
そして極めつけは瀧川女学院での事件。
椿の言葉により、奏は生徒達の事を想い、暴走した生徒達は収まった。
これにより奏は自分に特別な何かが秘められていることを確信した。
「(あの時は僕が強く想ったらスキルでおかしくなっているはずの皆が元に戻った。それなら、今回だって僕が皆を想えば守れるはず!)」
矢野の煽りを受けた奏は絶望しなかった。
むしろ、自分の隠された力で皆を守るのだと気合が入っていた。
「僕は死なないし、傷つかないし、矢野君は捕まる」
「なにぃ?」
「僕は、僕の力を信じる!」
「奏様!?」
「一体何を!?」
誰もが奏は自分の力の事を知らないと思い込んでいた。
誰からも教えられないとスキルの説明に書かれていたのだから当然だろう。
自力で答えに辿り着くことを、想定していなかった。
ゆえに奏の行動に皆が驚いた。
奏は両手を組み、膝をついて神に祈るようなポーズになる。
そして必死に人々の事を想う。
「(日本中のみんなが危険に晒されませんように)」
誰が狙われるのか分からなければ、全員を守ってしまえば良い。
それだけのことだ。
「馬鹿じゃねーの!見ず知らずの人間のことを強く想えるわけがねーだろ!」
瀧川女学院の場合は、会ったことがあり話したこともある人達が対象であった。
どんな人物なのかのイメージが湧いていたし、そもそも美人というだけで印象が良い。
守りたいと想える可能性は十分にあった。
だが、顔も分からない全ての人を想うなど、無茶な話だ。
「それに君はクソみてぇな権力者達の姿を見ただろ!」
しかも世の中に居るのはは善人だけではない。
常盤会長主催のパーティーで、権力者達は悪意をもって奏に接してきた。奏の中での権力者のイメージは決して良いものでは無くなったはずだ。
それに芹那、美月、真夜の誘拐事件も、日本に潜む悪人の存在を奏に強く印象付けている。
人間の悪意の存在を理解している奏が、心から全ての人間を守りたいと想うのは難しい。
「(確かに日本には悪い人が沢山いる)」
矢野の言葉で、奏の心に澱んだ気持ちが湧きあがる。
自分が今から願おうとしている人々を選別しようとする気持ちが生まれる。
だがそんな気持ちは直ぐに消え去った。
「(でもそんなの今はどうでも良い。みんなを守ってから考える!)」
だが、そもそも小難しい事を考える余裕は奏には無かったのだ。
ひとまず全部ひっくるめて誰も悲しまないようにと願う。
奏にはその割り切りが出来た。
いや、むしろ矢野が奏を追い込み過ぎたため、割り切るしか無くなってしまったのかもしれない。
矢野の作戦ミスである。
「(僕に出来るのは、みんなが無事であって欲しいと願うことだけ)」
想いで皆を守れることしか知らないのだから、余計なことは考えずにそれだけを必死に願う。
「(神様どうかお願いです!)」
矢野が何かを騒いでいる。
祈る奏の背に温もりを感じる。
だがそれらは全て意識の外に置き、ひたすらに祈る。
日本中の全ての人がテロの被害を受けないように。
当然、狙われている大統領とその娘であるレイリーの無事も願う。
底抜けに優しく純粋な奏の『気持ち』を、見たことも会ったことも無い人々へと伝えるよう強く願う。
そして、このまま寝入ってしまうのではと思えるくらいに深く祈りに没入すると、ふと聞き慣れない声が聞こえて来た。
『今回だけ特別ですよ』
耳からではなく、魂に直接語り掛けて来るかのような女性の声。
鮮明に聞こえるものの、奏の意識は不思議と覚醒しない。
『但し、大きすぎる力には代償が伴います。といっても、あなたにとっては良くある事かもしれませんが。クスクス』
無機質な声というわけではなく、何処となくいたずらっ子のような雰囲気を感じさせる。
『それと、あなたの記憶を少しだけ弄らせて頂きます。この力の存在を認識すると、恐らくあなたは苦しむでしょうから』
誰かを守れる力があると知った奏が、ニュースなどで酷い事件を知った時に、自分なら守れたのではないかと苦悩する可能性がある。その考えの良し悪しは別として、そもそもそのように苦悩しないようにと、自分の力の存在を強く意識しないように調整したのだ。
『さぁ、目覚めなさい。私はあなたのおもしろ……人生を見守っている……かもしれません』
どうにも中途半端な言葉を最後に、その声は消えた。
「奏様!」
「奏様!」
突然、美月と真夜の叫びが奏の耳に飛び込んで来た。
「あ……れ……」
意識が覚醒した奏は、周囲を確認する。
正面には驚きの表情を浮かべている矢野。
「僕……ぴええええええ!」
「かなでさまぁ!かなでさまぁ!」
「かなでさまぁ!かなでさまぁ!」
「かなでさまぁ!かなでさまぁ!」
そして両脇には、何故か発情している美月と真夜。
二人しか居ないはずなのに、背中からも声や温もりを感じていることに奏は気付いていない。
「ま、まってどうしたの。胸をおしつけないで、ぴええええええ!」
ドシリアスな場面だったはずなのに、奏の両腕を胸に押し付けながら、両頬に何度もキスを繰り返す美月と真夜。
スキルでおかしくなってしまったのではと奏は考えた。
「ちょっ、二人とも大丈夫!?」
だが奏のその言葉で、二人は落ち着きを取り戻した。
「だ、大丈夫じゃないけど、大丈夫」
「申し訳ございません。あまりの想いの強さに取り乱してしました。あ、ふぅ」
「(ぴえぇ、色っぽいよぅ)」
良く分からないけれど、何らかの攻撃スキルで異常をきたしている訳では無さそうだ。
ひとまず二人と共に立ち上がり、状況を確認する。
「結局何がどうなったのかな?」
自分の祈りが成功したのかどうか、まずはそれを知らなければならない。
予想外の発情展開で忘れかけていたが、今は日本の危機でそのような場合では無いのだ。
「何故だ……何故そんな馬鹿気たことが出来る!君は本当に人間か!?」
矢野からはそれまでの悪意たっぷりの余裕ある雰囲気が消え去り、奏に恐れを抱いているような表情を浮かべていた。
「(良く分からないけれど、成功したってことなのかな)」
矢野が焦っているということは、目論見が破られたということだろう。
矢野を取り逃がしてしまえばまだ危機は続くが、ひとまずこれから起きるはずの大規模テロは防げたのかもしれない。
「だがまだだ!まだ君の心を甚振る方法はある!」
「!?」
矢野はそのまま後ろへ歩く。
「何をするつもりなの!?」
「君がそれほどまでに狂ったお人好しなら、僕が死んでもショックを受けるはずだろう?」
「え?」
落下防止が為されていない屋上。
矢野がこのまま進めば、落下死は免れないだろう。
「何を馬鹿なことを!」
「ふふ、その反応はやっぱりだ。僕は君が追い詰めたせいで死ぬんだよ。僕は死ぬが、君も自責の念を抱いて死ぬんだ。そうでなくとも一生ショックを受けて生きるが良いさ!」
矢野がここで死を選ぶ不自然さに奏は気付かない。
逃げる算段があるのならば、逃げてからやり直せば良いのだ。
祈りの間に何があったのかは分からないが、ここまで自暴自棄になる理由など今のところ見当たらないのだから。
だがどれほど胡散臭くても、矢野が本当に死んでしまったならば奏の心は傷つくだろう。
相手が犯罪者であったとしても、目の前で飛び降りられれば奏で無くともショックを受けるものなのだから。
「そうはさせないよ!」
「誰だ……ぐえっ!?」
屋上の端までもうすぐ辿り着くかというタイミングで、矢野の体が突然宙に舞った。
屋上の内側、床のある方へ。
矢野は背中から床に叩きつけられ、蛙が泣くような声を上げた。
「芹那さん!?」
矢野は痛みに悶えている間にうつ伏せにされ、手を後ろで極めて動きを封じられる。
それを行ったのは、いつの間にか矢野の傍にいた芹那であった。
「奏様を困らせないで!」
芹那は奏を守るために『隠密』スキルを鍛えあげた。
そして途中から屋上に潜伏して奏を守っていたのだ。
警視総監の娘ということで護身術の類も学んでおり、矢野を奇襲して確保したのだった。
「ぐっ……どいつもこいつも!」
奏どころかお嬢様にもしてやられ、矢野は床に抑えつけられたまま悔し気な表情を浮かべる。
「人質がいることを忘れてるんじゃないだろうな!」
彼らとは離れたところで、相変わらずスーツ姿の男が銃口を岡の頭に突き付けている。
「あ……」
芹那も隠密状態とは言え、流石に岡の解放は出来なった。
銃口が岡の頭から少しも離れることが無く、迂闊に触れられなかったのだ。
矢野の言葉を聞いて拘束を緩めるか芹那は迷う。
「大丈夫。芹那はそのまま拘束しておいて」
「あ、やっぱりそういうことなの?」
しかし美月が人質を気にする必要は無いと告げた。
何故か奏もその意味に気付いているようだ。
「人質に手を出せないと思っているのか?おい、その女の服をビリビリに引き裂いてやれ!」
矢野がスーツ姿の男に命令を下す。
だが男は動こうとしない。
「おい!早くやれ!」
「……」
矢野が急かしても、やはり男は動かない。
「この状況ならもう良いと思う」
「……そうみたいだね」
矢野の言葉に反応が無かったスーツ姿の男は、何故か美月の言葉に反応した。
「やれやれ、こんな物騒な物を持たせないで欲しかったよ。美しくない」
そして銃を地面に投げ捨てると、小さな煙幕と共に姿形が変わる。
「なんだと!?」
そこに居たのは、仮面を被った『怪盗ルパン救世』だった。
「やっぱりあなただったんですね」
「やれやれ、分かってはいたがすぐに見破るとは。本気で自信が無くなるよ」
岡が人質として屋上に来た時に奏が驚いたのは、岡に銃口を突き付ける人物が怪盗であると見破っていたからだ。怪盗の性格を知っているため、怪盗が矢野の仲間であるとは考えにくく、以前に美月が怪盗と話をしているのを思い出し、助けに来てくれたのだと思い至った。
実は奏は岡の安否に関しては割と安心していたのであった。
「さて、醜い茶番はこれまでかな。このお嬢様をお返しして私は去るとしよう」
怪盗が岡を奏の元へと連れて行こうとしたその時、この場に更に人がやってくる。
「待ちなさい。怪盗さん」
「……来てしまいましたか。金城嬢」
「くっくっくっ、こんな年寄りを嬢さん呼ばわりして揶揄うんじゃないよ」
「女性はいつまで経ってもお嬢様ですよ」
「ふん、いけ好かないやつだね。まぁ良い、それよりもその子を奏さんに近づけないで貰おうか」
「どういうことかい?」
金城がこの場に現れ、岡を奏に預けるのを止めたのだった。
疑問に思う怪盗に答えたのは金城の隣にいるもう一人の人物だった。
「その女が主犯よ。矢野は操られているだけ」
「何?」
椿の言葉をきっかけに瀧川女学院の戦闘部隊が突入し、拘束された矢野を引き取り、怪盗と岡を取り囲む。
「椿さん、どうしてここに?」
「あっちは方が付いたから。パパも大統領も政治家もみんな無事よ」
「そうなんだ!良かった!」
奏は芹那、美月、真夜と共に金城達に合流した。
「さぁ、これでチェックメイトよ」
岡は怪盗ごとスキル無効化フィールドに閉じ込められ、屈強な戦闘部隊に囲まれている。
奏の目にはまだ眠っているように見えるが、岡を抱えている怪盗は違ったようだ。
「なるほど、言われてみれば確かに寝ているにしては違和感があるな。それに服を破けと不自然に命じたのは怪我したくないためか」
人質に危害を加えて奏達を牽制する目的のために服を破けと命令をするのは不自然である。牽制としては効果が弱い上に破く手間もかかるからだ。
少し傷つける程度で良かった筈なのだ。
だが岡が主犯であり矢野が操られているとなると、意味不明な命令を出した意図は良く分かる。
自分が傷つきたくなかった、それだけのこと。
「悪いが共に捕まる気などサラサラないのでね。女性に手荒な真似はしたくないが、ここは心を鬼にして去らせてもらうよ。それではさようなら奏クン、君の想いはステキだったよ。そして美月嬢、次会う時は敵同士だ」
地面に岡を丁寧に横たわらせ、怪盗はその場から消えるように居なくなった。
「あっはっはっは!やめて、やめてってば!もう何でこうなるのよ!」
横になった岡だが、直ぐにくすぐったそうに体中をまさぐり出した。しばらくして服の中から小さな機械のようなものが出て来た。怪盗が残したくすぐりマシーンである。
「はぁ、マジかよ。まさか全部見破られるなんて……」
そのままぺたりと床に女の子座りをする。
その姿は凶悪な犯罪者には見えなかった。
結局、このまま予想外の大逆転で逃げられる、などということはなく、岡は力なく瀧川女学院の部隊に捕まるのであった。




