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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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8. 美少女が落ち込んでいたから励まして想いを伝えちゃたんですけど

 奏は真夜をお姫様抱っこで会場から連れ出し控室へと向かい、ベッドに横たわらせた。

 そのまま横で介抱していると、真夜はすぐに目を覚ます。


「ご迷惑をおかけ致しました」


 目覚めた真夜は最初慌てたものの、すぐにいつも通りの雰囲気に戻り、その日はそのまま解散となった。

 翌日からも真夜の雰囲気に変わりは無く、学校生活も普通に送っていたが奏には真夜に微かな違和感を覚えていた。


「(どうも作ってるような感じがするんだよね)」


 真夜の『やまとなでしこ』としての振る舞いに、人間味が感じられなかったのだ。

 まるでスキルで強引に演じているかのような、そんな完璧さ。

 奏は真夜と千鶴の関係については何も知らされていないが、千鶴に出会った時を境に真夜が変調をきたしたのは分かっている。そのため、素早く手を打った。


「真夜さん、今日の放課後空いてますか?」

「はい、本日は部活動がございませんので、奏様とご一緒に帰宅する予定でした」

「それじゃあさ、一緒について来て貰いたい場所があるんだけど良いかな?」

「はい」


 普段ならば放課後デートだと僅かに動揺を見せるのだがそれが無い。

 そのことを奏は悲しく思う。


「え、あの、奏様?」


 だが奏が自分から高級車を呼び寄せるというあり得ない行動をしたことで真夜が本来の感情を表に出したため、今度は少しだけ嬉しく思った。


 奏が真夜を連れてきたのはとある高級マンションの一室。

 そこには真夜が今一番会いたくないであろう人物が待ち受けていた。


「よぉ、ついこないだぶりだな。なんつって」

「千鶴……さん」


 奏から真夜への、目を逸らさずに向き合うようにとのメッセージなのである。


「ろくなもん無くてわりぃな」

「いえ、お構いなく」

「……」


 相手は普通の女性にしか見えないが実際は権力者の娘。

 本来であれば真夜が奏を守る立ち位置になるはずなのだが、今日は真逆であった。


「真夜も大丈夫か?突然ぶっ倒れて心配したんだぜ」

「……」


 真夜は千鶴の顔を見ることも出来ず、顔面蒼白のまま俯くことしか出来ない。

 だが奏はそれを許してはくれない。


「真夜さん、顔をあげてしっかり見て・・・・・・


 心を閉ざしてやりすごそうとしてしまったならば、何も解決しない。

 苦しくても前を見て欲しいと奏は真夜を叱咤しているのだ。


「……ご心配をおかけして申し訳ございません」


 真夜は震える声でどうにかそれだけを口にすることが出来た。


「こりゃあ重症だな」

「そうなんですよ。心当たりはありますか?」

「ありすぎるくらいだな。がははは」


 すでに酒でも飲んでいるのかと思えるくらいの豪快な態度に、真夜は目を閉じ耳を塞ぎたくなる。憧れの人が変貌した姿など見たくも知りたくもないからだ。


「にしてもびっくりしたぜ。真夜が倒れたのもそうだけど、奏くんが話かけてくるとは思わなかったからな」

「え?」


 だが話の内容が奏の事となれば別だ。

 興味のある話題に、聞きたくもない声が勝手に耳に入ってしまう。


「なんとなくですけど、花園さんの連絡先を聞いておかないとダメだって思いまして」

「かー!愛されてるなぁ」

「愛してますから」

「おう、言うねぇ」


 さらっと告げられた愛の告白も、真夜の心には伝わらない。

 それよりも、何故奏が千鶴と連絡を取ろうとしたのかの方が気になってしまったからだ。


「それで、何が聞きたい?」

「真夜さんが元気になる話ならなんでも、って言いたいんですけど僕は何も知らないんですよね」

「そうなのか?」

「はい、正直なところ困惑してます」


 真夜は憧れの人について隠していたわけでは無く、単に話をする機会がなかっただけのこと。

 だが話をしなかったことで、奏はどう対処して良いか分からず、ひとまず原因だろう人の元へ連れてきたのだ。


「それなのに良くあたいの所に連れて来たね。逆効果だって思わなかったのか?」

「思いませんよ。だって花園さん、真夜さんの面影がありますから」

『え?』


 これには千鶴も真夜も揃って驚きの声をあげた。

 お互いに、真逆の雰囲気を纏っていると思い込んでいたからだ。


「先日のドレスはデザインが簡素で丈が短かったですが、花園さんは手足がスラっとしていて健康的に見えますから露出が多くても絵になっていました。装飾があると逆に花園さんの良さを打ち消してしまいそうでしたので、何もつけなかったのも良かったと思います。今日も一見して雑な部屋着に見えますが、部屋や家具の雰囲気とマッチしていて何よりも僕達がリラックス出来る雰囲気のものです。髪型もばっさり雑に切っているように見えて毛先はしっかりと手入れされてますし、手のネイルもとても似合ってます。後、先ほどからほのかにアロマの香りがするのですが、これも僕達が来るから用意してくれたものですよね。そしてこのクッキーもわざわざ手作りで用意してくれたものですし、僕と真夜さんでは違う味付けのものを出してくれていたように見えます」


 乱雑に見える千鶴が実はきめ細かくファッションに気を使っており、しかも来客である奏達のために気を配ってくれていたことを奏は見破っており、まるで準備してあったかのようにスラスラと言葉にした。


「おいおい、マジかよ。初めて気づかれたぜ」

「…………」


 真夜は奏の言葉を聞いて改めて千鶴の姿を眺め、部屋の中を観察する。

 すると本当に奏の言う通りに、自分達が丁重にもてなされていることに気が付いた。


「真夜さんが花園さんと・・・・・同じ道・・・を進んだら、きっとこうなるのかなって思いました」

「うわーめっちゃ恥ずかしい。こりゃあ真夜達も堕とされるわけだ」

「あはは、堕としたつもりは無いんですけどね」

「素だったらもっとタチ悪いよ。あたいも旦那と出会ってなければヤバかったかもな」

「そういえば旦那さんは?」

「ああ、今日は残念ながら帰るのが遅くなるってよ。会わせたかったんだけどしゃーない」


 千鶴と奏の会話は自然と弾む。これもまた相手が真夜と似たような雰囲気を抱いていたからかもしれない。

 だが肝心の真夜はそれどころではなかった。

 千鶴のことをネガティブに考えることは止めたが、どう受け止めれば良いのかが分からなくなっていたのだ。


「あの、千鶴さん!」

「お、なんだ」


 迷った末に、真夜は直接聞くことにした。


「どうして、お変わりになってしまわれたのですか?」

「簡単なことさ。好きな人が出来たからだ」

「え?」

「好きな人と一緒に幸せになるため・・・・・・・に、変わる決心をしたのさ」


 それこそが、記憶の中と現在の彼女が異なる理由だった。


「ですが、好きな人と一緒に居たいだけでしたら、昔のままでも問題ないのでは?」

「女性が男性を立てて、『やまとなでしこ』として生きる、か。確かにそれでもあたいはあいつと結ばれたかも知れねーな」


 自分に尽くしてくれる女性が嫌いな男性など、ほとんどいないだろう。

 しかも見目麗しい『やまとなでしこ』が相手となれば、余程の偏食家でなければ喜んで想いを受け入れるだろう。


「でもよ。あいつと一緒に居たら思ったんだ。やまとなでしことして一緒に居るのも幸せだけれども、はしたなくてもあいつと一緒の雰囲気になって笑い合った方がもっと楽しくて幸せになれるんじゃないかって」


 だからこそ、悩みながらもこれまでの自分を捨てることが出来た。

 それが恋であり愛というものなのだから。


「もっと楽しくて幸せに……」

「おっと勘違いすんなよ。あたいは真夜にこうなれって言ってるんじゃない。真夜には真夜の人生があるんだ。真夜が奏くんとどう在りたいか、それはあたいとは別の話だからよ」


 その結果、変わらなくても良いのだ。

 どちらかが正しいわけでは無い。

 単に真夜がどうなりたいか、ただそれだけのことなのだと千鶴は言った。




 花園家からの帰り道、真夜の心は未だ晴れず、悩みの中にいるようだった。

 だが奏はきっと良い悩みに変わったのだろうと思い、千鶴の元へ真夜を連れて来て良かったと感じた。

 強引ではあったが、真夜が前に進めるきっかけを与えられたのだから。


「真夜さん、少し寄り道しましょう」

「……」


 考え事をしている真夜の手を引いて、二人は制服姿のまま暗い夜道を歩き、とある小さな公園へと辿り着いた。


「真夜さん、真夜さん」

「…………え、あ、な、何でしょう?あれ、ここは?」


 そこは住宅街に囲まれたとても小さな公園で、古くなったブランコや砂場があるだけの簡素な公園だった。


「ここは僕が小さい頃良く遊んでいた公園なんだ」

「奏様が小さい頃に……」


 奏はブランコの元へ向かい、鎖を掴み座部に立ち漕ぎだした。

 そして軽く前後に数度揺らしてから、勢い良く前に飛んで着地する。


 座るべきところに立つ行為も、バランスが悪い状態でジャンプする行為も、着地時によろけて転びそうになる行為も、すべて庶民ではありふれた行いだ。

 お嬢様である真夜では決して思いつかないはしたない行為だ。


 だが、奏と結ばれ子を為し、奏が権力者としてではなく庶民として生活したいと望んだ時、真夜は子供をこの公園に連れて遊びに来ることがあるだろう。

 その時、お嬢様としてあり続けながらも子供を見守ることが出来るのだろうか。はしたない行いをしようとする子供を止めてしまわないだろうか。

 そもそも他の子供の母親と雰囲気が違う服装で浮いてしまい、子供が居た堪れない気持ちになることは無いだろうか。


 果たして、変わらないままで奏の元に居られるのだろうか。


 ズキンと、真夜の胸が痛みだす。

 好きな人と一緒に居たいという気持ち。

 そしてありたい自分を変えなければならない可能性。


 自分のこだわりを選ぶか。

 それとも奏との幸せな日常を選ぶか。


 今ならば真夜は千鶴の選択の意味を理解出来た。


 奏は悩む真夜の元へ歩き、優しい微笑みを浮かべて見つめる。

 そして敢えてこのタイミングで真夜へと告げる。


「僕は真夜さんが好きです」


 美月に向けて告げた想いを、真夜が欲しがっていた奏の気持ちを、ぶつけたのだ。

 だが、どうしてこのタイミングなのだろうか。

 悩みにより奏の想いを素直に嬉しく受け取れなかった真夜は、聞き返してしまった。


「奏様は、わたくしの何処が好きなのでしょうか?」


 お嬢様としての真夜であって欲しい。

 同じ世界で一緒に歩きたいと思って欲しい。

 そう願って。


 奏の答えは真夜が望むものとは違っていた。


「僕はお嬢様としてあろうとする真夜さんが好きです」

「……え?」


 お嬢様としての真夜ではなく、お嬢様としてあろうとする姿が好きだと言う。

 その意味を真夜はすぐには理解出来なかった。


「真夜さんはとても素敵なお嬢様だと思う。他の人の事はあまり知らないけれど、それでも僕にとって真夜さんは一番のお嬢様だよ。お嬢様としての見た目も中身も大好き。でも一番好きなのは、お嬢様に憧れ、そうなろうと強く想い実現した真夜さんの強さかな。あはは、ここまでくると好きというか憧れかも知れないけどね」

「わたくしの……強さ?」

「うん。上手く言えないんだけど……なりたいものになろうとする『心の芯』のようなものかな」

「心の芯……」


 その言葉が真夜の心にしっくり来た。


 真夜は幼い頃、千鶴に憧れた。

 それは彼女の立ち居振る舞いが優雅であったからではなく、優雅であろうとする彼女の姿に憧れたのではないか。奏の言うお嬢様として在りたいと願う『芯』の強さに。


「真夜さんはとても強い『芯』があると思う。だから自信を持って」


 真夜が今抱えている問題は、簡単に答えが出るものではなく、この先ずっと悩み続けることになるだろう。

 その結果、真夜の在り方は変わるかもしれないし変わらないかもしれない。

 どちらを選ぶにもきっと勇気がいることだから、その時は自らの『芯』を信じて欲しいと奏は願った。


「奏様、ありがとう」


 迷いはまだあるけれども、真夜の心を覆っていた闇はきれいさっぱり晴れた。

 これから先は、奏が信じてくれた自らの芯を信じて幸せに悩めば良いのだ。 


「僕は『芯』が強い真夜さんが好きです」

「わたくしも、奏様をお慕い申しております」


 真夜は今度こそ、自然な笑みを浮かべて奏の想いを受け取った。


「……ん」


 そして自ら動き、唇を軽く重ねた。

 女性から働きかけるのは、お嬢様としてはしたないかもしれない。

 だが真夜の心に、この行為に対する迷いは一切なかった。

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