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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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2. 美少女(外国人)までもが僕の家にやってきたんですけど

 感情剥き出しで頭を抱えて座り込んでしまう椿。

 椿の豹変に周囲は呆然としており、一早く復帰した奏が恐る恐る声をかけた。


「つ、椿さん?」

「どうして気付かなかったのよ。私の馬鹿ああああ!」


 寡黙な美少女のイメージがぶち壊しになっていることに気付いていない椿は、何かに気を取られて奏の声かけさえもスルーした。


「このままじゃマズイわ。一体どうしたら。あの子が来る前になんとかしないと」


 そして手を顎に当て、ブツブツと何かを呟きながら部屋の中を歩き出す。


「あの子のことだから多分早めに、ううん、ネタバレしたってことはもう来てるかも」


 周囲の声が全く聞こえていないようなので、奏はひとまず何が起きているのかを他の人に確認することにした。


「美月さん、椿さんのあの姿ってあの時の状態だよね」

「うん、慌てると饒舌で早口になるの」

「そういうことだったんだ」


 椿の今の口調は、奏を攫った時と似ている。

 どうやら椿は感情の高ぶりによって脳内がダダ洩れになってしまうタイプのようだ。


「それだけ慌てることが起きたってことかぁ」


 椿の変調のきっかけになったことを奏は思い出す。


「(あれ、これってもしかして……)」


 そして恒例のとてつもなく嫌な予感が背筋をそっと撫でてくる。

 自分達がテレビで見ていたのは『日米首脳会談』のニュースだったのではなかったか。

 今までの流れを考えるならば、次に奏が会う可能性のある偉い人物は米国大統領ではないのか。


「(いやいや、流石にそんなことないでしょ)」


 これまでの相手とは違って相手は米国在住だ。海外に行く予定など皆無であるし、日米首脳会談というほんの僅かな期間に何があれば会えるというのだろうか。そもそも関係者は予定がびっしりと詰まっており、仮に奏がトラブルに巻き込まれたとしても対応する余裕など無いだろう。


 そんな理屈を支えに心の平穏を取り戻そうとする奏だが、対照的に椿は時間が経てば経つほど焦りを増していた。


「あなたたち、奏様を連れて逃げるわよ」

『え?』

「隠れるのに適した場所を直ぐに用意出来るかしら。無理ならパパの力を使って……って出来ないんだった。ああもう、こんなことなら約束なんて破棄させておくべきだったわ」


 苛立ちを全く隠さずに堂々と奏を攫おうとする椿に、芹那達も流石に抗議の声をあげた。


「椿ちゃん。流石にそれは問題だよー」

「このままじゃ貴方達も困ることになるのよ。ほら、早く……(ピンポーン)……間に合わなかったー!」


 椿が芹那達を説得しながら奏を掴みにかかろうとした時、またしても佐野家のインターフォンが鳴らされた。

 椿はがっくりと項垂れて膝から崩れ落ち両手を床につけた。


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。


 謎の訪問者は気が早い人物のようだ。


「はーい!今行きまーす!」

「待って、私も行くわ」


 奏の母親が玄関に向かおうとするが、椿もついていく。

 また、椿にまつわる人物が来たらしいため、他の面々もついていくことにした。


「どうぞ」


 奏母の合図で玄関の扉が開かれる。


「ハーイ、エブリワン!」

『!?』


 奏達が驚いたのはその人物の言葉が英語だったからでは無い。

 外国人の女性だったからでも無い。

 後ろに黒服の男性が数名立っていたからでも、更にその後ろに高級車が止まっていたからでも無い。


 彼女の見た目が、あまりにも特徴的だったからだ。


「ツバキー!」

「ぎゃああああああああ!」


 大勢で出迎えたにも関わらず、その女性はすぐに椿を見つけて一目散に駆け寄り持ち上げて・・・・・抱き締めた。


「あいかーらずソープリチー!」

「潰れっ……助けっ……」


 怪しい日本語を口にして椿を持ち上げたまま頬擦りしているその女性は、一言で言うと大きかった。その高さは高校一年生の平均身長である奏が見上げる程であり、小学生に見間違うほどの小柄な椿はまるで人形のように扱われていた。


「ぴえ、椿さんが潰れちゃう!」

「オー、ユーもソープリチー!」

「え?え?ぴええええええ!」


 最初に声を上げてしまったからか、その女性は奏の存在に気が付いて椿を放り投げて今度は奏に抱き着いた。

 奏とは身長差はあれども流石に持ち上げることは出来ないが、全く別の点で大問題があった。

 彼女の『大きかった』は決して身長の話だけでは無かったのだ。


「むごっ……むごごっ……!」


 その女性は奏を全力で抱き締めてしまい、芹那を遥かに超えるソレに奏の顔が思いっきりうずめられてしまう。傍から見ると幸せそうな光景だが本人は滅茶苦茶苦しい王道シチュエーションである。


「奏様!?」

「ダメ、離れて!」

「は、はは、ハレンチです!」


 慌てて芹那達が奏を解放すべく手を伸ばすが、その女性の力は椿以上でありびくともしない。


「(柔らかっ……息が出来なっ……あれ、なんか全身から力が抜け……)」


 奏がもう少しで抱き死められるタイミングで、その女性は芹那達にも目をつけた。


「オー!ユーたちもソープリチー!ここはヘブンデースか!?」

「キャー!」

「わぷ」

「!?」

「私も!?」


 ご丁寧に一人一人順番に抱き締め、〆に七海までも愛でてからようやく騒ぎは落ち着いた。




「それで椿さん、この方はどちら様ですか?」


 玄関で立ち話も何なのでということで、リビングに連れて来た。父親も戻り、警護らしき黒服も入って来たため、リビングは大混雑だ。


「はぁ……どうしてこんなことに。ほら、自己紹介しなさい」

「ハーイ!ナイストゥーミーチュー!ミーはレイリーデース」

『レイリー?』


 レイリーという名にこの場の誰もが聞き覚えが無いようだ。


「ダディーはプレジデントデース!」

『!?』


 しかし親は超有名人だった。

 プレジデントと言う言葉に先ほどのニュースの内容が思い出される。


「ぴええええええ!やっぱりこうなったああああああああ!」


 大統領とは会う機会は無くとも、その娘と会う可能性はあったのだ。


「椿ちゃんはレイリーちゃんと知り合いだったんだね」

「小さい頃からの腐れ縁みたいなものよ」

「ベストフレンドデース!」

「くっつかないで!」


 椿が幼い頃に父親と共に外国に訪問した際に出会い、それ以来の付き合いだ。

 日常的にメッセージをやりとりしており、腹を割って話せる親友である。


「でもどうして日本にいらっしゃるのでしょうか。ご家族の方は大統領とご一緒に来日される予定では」

「どうせこの子の事だから、私をびっくりさせたかったんでしょ」

「ザッツライトデース!」


 公式で偽の情報を流して敢えて早期に来日し、椿を驚かせるつもりだったようだ。

 だが狙いはそれだけでは無かった。


「それにツバキのボーイフレンドを見たかったデース!」

「ぴええええええ!」

「な、何言ってるのよ!」


 レイリーは動揺する椿と奏を見て微笑んでいる。

 そんな三人の様子を見ていた芹那達は、実はレイリーは椿のことを心配して見に来たのではないかと察した。


「でも予想外デース」

「何が?」

「もっとか、か、そう、格好良い人だと思ってました」


 レイリーにとっての奏の第一印象は、クラスメイト達と同様に『可愛らしい』妹弟いもおとうとタイプだったのだ。

 そんなレイリーの言葉に、女性陣が猛反発する。


『奏様は格好良い!』

「ぴええええええ!」


 芹那、美月、真夜、椿のカルテットが声を揃えての大抗議だ。

 妹も声を上げてはいないが、何処となく不機嫌そうにむくれている。


「ワーオ。ソーリーデース。奏さんは愛されてますね!」

「あははは」


 違うと反論するわけにもいかず、重い愛を受けて笑うしかない奏であった。


「それで、奏さんは誰と付き合ってるのデースか?」

「え?」

「付き合ってないのデースか!?」

「う、うん」

「オージーザス!」


 レイリーは奏の答えを聞いて天を仰いだ。


「こんなにプリチーなガールズなのに何故デースか?まさかボーイが好きな人デースか?」

「違うよ!みんな素敵で選べないの」

『奏様……』

「ぴええええええ!」


 奏は反射的に芹那達を褒めて喜ばせてしまい、恋する目で見つめられて動揺する。


「それなら付き合うべきデース」

「どうして?」

「付き合わないと選べないデースよ?」

「?」


 奏は付き合う前に芹那達のことを知ってから選ぼうと考えていた。

 それが誠実だと信じていたからだ。

 だがレイリーはそれは違うと言う。


「付き合って、はじめて……アー……あ、相性、そう、相性が分かるデース!」

「相性?」

「キスが飽きない、ケンカしてもオッケー、セックスも気持ち良い、ずっと一緒にいたい、付き合わないと分からないデース」

「ぴえぇ」


 恋人になった後に初めて分かることもあるのだと。

 それには抱くことも含まれている。

 様々な経験をして、パートナーを選ぶのが当然なのだとレイリーは断言した。


「(恋人にならないと分からないこともある……)」


 奏は誰を選ぶのかと聞かれることが数多い。

 優柔不断で引き延ばすのは失礼だと焦る気持ちもある。

 選ぶ前に恋人らしいことをするのにも抵抗がある。


 だがいっそのこと何も気にせずに片っ端から付き合って相性を確認するのも自然なこと。日本人的な感性では相手を蔑ろにしているようにも感じられるが、真摯にパートナーを選ぼうとしているのだと言われれば否定もしにくい。

 傍目には女性を弄んでいるようにも見えるが、そうではないことは本人達が知っているのだから。


 レイリーの登場は、奏の心に現状に対する答えの種を植え付けた。


「わわわわ、か、奏様と付き合う」

「はぅ、幸せ」

「セ、セセ、セック……」

「これは乗った方が良い流れかしら?」


 そして芹那達は奏との恋人関係をより強く意識させられてしまうのであった。


 奏が考え込み、芹那達が動揺してしまい会話が途切れてしまったため、傍観に回っていた佐野家から代表して七海が一つ質問した。


「でも何で椿さんはレイリーさんからお兄ちゃんを連れて逃げようとしてたのですか?」

「オー!そうなのデースか?ツバキ酷いデース!」


 レイリーが単に椿と奏に会いに来ただけならば、あれほどまでに動揺する必要はないはずだ。


「そりゃあ慌てるわよ。ライバルが一人増えるかもしれないのだから」

『!?』


 奏は芹那、美月、真夜、そして椿の順に偉い人の娘や孫を着実に落としていった。となると大統領の娘であるレイリーも毒牙にかかってもおかしくないのだ。


「わわわわ、これ以上は困るよー!」

「ライバル多すぎ」

「奏様は魅力的ですから仕方のない事なのかもしれませんが……」

「お兄ちゃんさいってー」

「あらあら、面白くなってきたわね」

「だ、だ、大統領……無理無理無理無理」

「なんでみんな決まったことみたいに言うのさ!」


 まだ何もしていないのに確定事項として扱われて非常に遺憾な奏である。


「安心してくださいデース。奏さんは私のタイプじゃないデース」

「そうなんですか?」

「私が好きなのはもっと力強そうな男の人デース。マッスルが欲しいデース」


 男性としては線の細い部類に入る奏は、筋肉好きなレイリーの好みの範囲外。

 奏はそのことを聞いて安心するが、女性陣は全く別の感想を抱いていた。


「(それでも好きになっちゃうのが奏様なんだよー)」

「(奏様の漢らしさに気付いたらおしまい)」

「(時間の問題でしょうか)」

「(この私が懸想するくらいなんだから、その程度の好みでどうにかなるわけないでしょ)」


 揃ってため息が出てしまうのであった。


 ピンポーン


『またぁ!?』


 何度繰り返せば良いのか。

 再度佐野家のインターフォンが鳴らされた。


「すみません、こちらにレイリーさんはいらしてませんか?」

「あの馬鹿が来てないかね?」

「ワオ、もう来ちゃいました」


 今度は神々みわ総理と金城理事長だった。


「うわ、テレビで見たことある人だ!」

「そ、そそ、総理大臣!?」


 七海は喜び、父親はもう限界とばかりに顔面蒼白で倒れそうだ。

 その父親に母親が止めを刺す。


「ちなみにあちらの女性は瀧川女学院の理事長の金城さんよ」

「ぴゃああああ!」

「あらあら、私はお父さんを介抱して来るわね。奏、あとはよろしくね」

「え」


 敢えて父親を気絶させ、その場から脱出するあくどい母親であった。

 偉い人の関係者のオンパレードなこの場に同席していたくなかったのである。


「パパ!」

「椿、元気にしてたか」

「うん!」


 神々親娘の抱擁を見ながら、奏は金城に何が起きているのかを確認した。


「お婆ちゃん、これどういうこと?」

「ごめんなさい。おてんば娘が迷惑をかけたようね」


 おてんば娘とはレイリーのことだろう。

 大統領の娘の事を『おてんば娘』などと評せるということは、単なる知り合い以上の関係。つまり金城は国外にも何らかの影響力があるということだ。


「誰にも連絡しないで勝手に来日していたから、裏では大騒ぎなのよ」

「あはは……」


 総理までもが飛び込んできたのはそれが理由だろう。

 なお、外務大臣等ではなく総理自ら行動したのは椿から連絡が来たからである。椿に関係することを部下に任せるなど絶対にしない子煩悩な父親である。


「しばらくはうちで預かることにするわ」

「瀧川女学院に?」

「ええ、自分で言うのもなんだけど、日本であそこ以上に安全な場所はそうは無いからねぇ」

「よろしくデース!」


 要塞とも監獄とも言える鉄壁の防御陣地。

 そこでならばレイリーの身の安全は保障されるだろう。本人がそこにずっと留まってくれるのであれば、の話だが。


「とりあえず、今日は解散させるわね。ほら、こちらのご家庭に迷惑をかけてるわよ。さっさと帰りなさい!」


 金城の鶴の一声で、騒がしかった佐野家のリビングから次々と人が退散していった。


「奏様、またね」

「また明日」

「朝、お待ちしております」

「……」


 三人娘はマンションへ帰り、椿もいつの間にか寡黙モードに戻り金城に首根っこを掴まれて去って行く。レイリーのことが話題の中心になりかけていたが、そもそもは椿の暴走から始まった問題だ。お説教がこれからなされるのだろう。


「何だったんだろう……」


 嵐のような一幕。

 七海の呟きに答えを返せる人物はいなかった。







「ちょっとあんた達、待ちな」


 佐野家から帰ろうとしている芹那達に金城が声をかけた。


「なぁに、鈴江おば……あちゃん」

「ほう、言えるようになってきたのかい」

「あはは」


 弄りは軽くにとどめ、本題に入る。


「次の土曜の午後、三人とも予定を開けときな」


 芹那達の予定を確認もしない一方的な命令。

 普段の金城ならば絶対にやらないその命令を受けて、芹那達の顔がわずかにこわばった。



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