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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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1. 美少女達が我が家に全員押しかけて来たんですけど

お待たせしました。

本日は一話投稿致します。


「それで、お兄ちゃんは誰を彼女にするの?」

「え?」


 ある日の晩。

 父親が定時で帰宅し、家族揃って夕食を囲んでいる場にて、妹が何の前触れも無く奏にぶっこんで来た。


「お母さんも気になるわぁ」

「お父さんもだな」

「けほっ、けほっ、何言ってるのさ!」


 奏は飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになりながら、抗議の意を示す。


「だって将来的に私のお姉様になるかもしれないんだよ。気になるに決まってるじゃん」

「気が早いよ。僕はまだ高校生だよ」

「そうかしら。向こうはどう思っているかしらね」

「……」


 奏のお相手は恋に夢中であり『その先』については考えていないようにも見える。

 だが相手はお嬢様だ。恋の中には『その先』が大前提として含まれている可能性は否定出来ない。特にお嬢様に強い思い入れのある真夜は、詳細な将来設計を描いているかもしれない。


「奏がどう考えていようが、お父さん達は色々と準備しなければならないから気になるんだよ」

「お父さんは少しでも付き合いが気楽に出来る相手を選んで欲しいだけでしょ」

「う゛っ」

「あなた、それは相手のご家族に失礼だわ」

「わ、分かってるよ。奏が誰を選ぼうが立派に相手して見せるさ」

「流石あなたね」


 母親の手のひらの上で軽く転がされる父親を冷めた目で見つめながら、奏は妹の質問の答えを改めて考える。


 芹那、美月、真夜、そして椿。


 四人の中の誰を選ぶか。


「(そんなこと言われても答えなんて出ないよ……)」


 奏を優柔不断だと罵ってはならない。

 彼女達は見た目も性格も家柄も一級品であり、一人を選べと言うのは酷なのだから。


「お兄ちゃん、このままだと全員その気にさせて引き返せなくなるよ」

「そんなこと言われなくても分かってるよ。でも……」

「刀傷沙汰」

「ぴえぇ」


 痴情のもつれによる最悪のBADEND。

 人が良い芹那達と言えども、絶対にそうならないとは言い切れない。恋は人を大きく変えてしまうのだから。

 奏もその結末は全力で回避したいため、与えられた一年という期限を待たずに答えを出そうと内心努力していた。


「(仲が良くなれば良くなる程みんな魅力的に感じちゃうんだもん!)」


 そのために彼女達としっかりと向き合っていたのだが、一緒に学生生活を過ごすにつれて彼女達の良いところしか見えてこない。誰か一人だけ突出して好みだと思えない自分が歯がゆかったのである。


「そうだ奏。いっそのこと全員もらっちゃったら?」

「わーハーレムだ。さいってー」

「そんなこと出来るわけないでしょ!?」


 これが異世界モノならまだしも、ここは普通の日本なのだ。

 当たり前の感性を持つ奏がそのような暴挙に出られるわけがない。


「そ、そうだぞ奏。そんな不誠実なことはお父さんは許さないからな」

「あら、あなた。奏が誰を選んでも立派に相手してくれるんじゃなかったの?」

「……」


 全員の家族を同時に相手にするなど、権力に弱い普通のサラリーマンの父親には耐えられそうにない。だが、その抗議は母親によって封殺されてしまう。


「奏ならそのくらいの甲斐性は見せるでしょう」

「え~お兄ちゃんが?無い無い」


 妹はそう言いつつも、内心ではありえると思っていたりもする。

 兄にそれだけのポテンシャルがあることに気がついてはいるのだ。だが、それを素直に認めるのはなんとなく癪に障るだけの事。


「でも本当にお母さんの言う通りになりそうだよね」

「七海!?」

「だってお兄ちゃん。このまま結論出せずにずっとお姉様達にアプローチされ続けて困り続ける未来しか見えないもん」

「ぴえぇ」


 このままでは刀傷沙汰か、それとも日本では法的にありえず世間から後ろ指を指される可能性の高いハーレムか。


「そんな奏にお母さんからアドバイスです」

「?」

「自分の心に素直になることを忘れずに」

「……うん」


 芹那達のことを考えて悩むのは良いけれども、自分の気持ちを見失ってしまっては本末転倒だ。誰かのことを想える奏だからこそ、自分を除外してしまう典型的な罠にかからないようにと、母親はアドバイスをする。

 奏も気付いていることだが、改めて指摘されるととても大事なことだと自覚出来た。


「まぁ、お母さんとしては奏が楽しんで青春してくれればそれで……あら?こんな時間に誰かしら」


 母親が会話を終わらせて夕食の後片付けを始めようと席を立とうとした時、佐野家のインターフォンが鳴らされた。


「は~い。少々お待ちください」


 奏達は不思議に思いながらも、母親が玄関に向かっている間に食器類をシンクに持って行き軽く水洗いする。


「お兄ちゃん、お母さん遅いね」

「誰だったんだろう」


 玄関に向かった母親が中々戻ってこない。

 気にはなるが、そのまま妹と本格的な洗い物へと移行した。


「奏~!ちょっと来てくれる?」

「は~い」


 しばらくして、玄関に居る母親から奏に声がかかる。洗い物の残りは妹に任せ、奏は手を拭いて軽く前髪を整えてから玄関に向かった。


「僕に何か……え!?」

「この子、うちに用があるらしいんだけれど、何も言わないから困ってるのよ」


 そこに居たのは、最近新たに悩みの種として追加された女の子だった。


「椿さん、なんでうちに!?」

「……」


 奏が来ても椿は何も言わないが、うっすらと表情が和らいだ。


「あら、この子が噂の椿さんなの」


 体育祭で謎の美少女が奏に告白をしたという話は街中に広まっている。当然、奏の家族もそのことを知っているのだが、本人に会うのはこれが初めてである。


「(嫌な予感がする、芹那さん達に連絡しなくちゃ)」


 奏がポケットからスマホを取り出した瞬間、椿が高速で近寄り手首を強く握りしめた。

 一瞬だが、靴もしっかり脱いでいる。


「ぴえぇ!」


 どうにか動かそうとするが、ぴくりとも動かせない。


「(相変わらず、とんでもない力!)」


 そのまま椿は奏の手首を強く掴んだまま歩き出した。


「つ、椿さん!?」

「あらあら」


 母親は面白いものを見るような目で椿を見つめ、勝手に家に上がり込んでいるのに止めようとしない。


「ど、何処に行こうと……階段!?」


 椿は小さな足を階段に乗せて、そのまま二階へと上がろうとしている。

 二階にある主な部屋は、奏の部屋と七海の部屋だ。


「(まさか僕の部屋に向かおうとしてる!?)」


 何故椿が佐野家の間取りを知っているのか不思議ではあるが、今はそれどころではない。

 このまま素直に連行されたらヤバいことが待ち受けているのではと嫌な予感がするのだ。


「ぐうっ……」


 空いている手を階段脇の壁にひっかけて、なんとか椿の動きを止めたが物凄い力で引っ張って来る。壁がミシりと音を立てており、奏の体力も長くは持ちそうにない。


「何々、何があったのー?」


 大ピンチの奏の元に救世主がやってきた。

 トラブルの気配を感じて洗い物を中断してやってきた妹の七海だ。


「わー何その人、超かわいい!」

「(七海に芹那さんを呼んでもらわないと!)」


 以前、芹那が佐野家に遊びに来た際に、七海は連絡先を交換していたのだ。


「七海………………この人が椿さんだよ」

「ええ!?その人があの!?」


 奏は芹那に助けを呼んでくれと口にする直前で思いとどまった。

 椿に妨害される可能性があるからだ。

 仕方なく奏は別のことを伝え、目線で助けを求めている旨を妹にアピールする。


「(七海ー!助けて!芹那さんを呼んで!)」


 付き合いの長い妹だ、奏の必死な表情と何かを縋るような目線で、奏の言いたいことを正確に理解した。


「(え~どうしよっかな~)」

「(ぴえ!)」


 目の前で兄が困っている。

 これは妹として何かしらの要望を通す絶好のチャンスなのだ。

 妙なことをお願いされる前に、奏は先手を取った。


「(デパ地下の高級プリン!)」

「(二個)」

「(……三個買ってあげるからお願い)」

「(じゃあ三個目はそこのチーズケーキで)」

「(ぐっ……わ、分かったよ)」

「(交渉成立だね。じゃ、がんばってねー)」


 奏は美容やファッションに力を入れているため、手持ちのお金はそれほど多くは無い。

 高級プリン二個とケーキは手痛い出費なのだが、背に腹は代えられない。泣く泣く妹の要望を呑む羽目になってしまった。


「あっ!」


 交渉が成立して安堵したからか、体を支えていた手の力が緩みついに外れてしまった。


 奏を連れて二階にあがった椿は、廊下でキョロキョロと周囲を確認する。

 そして『奏の部屋』と書かれた小さな看板を見つけると、全く躊躇することなくその部屋の中に突入した。


「椿さん、一体何を」


 そのまま椿は奏をベッドの傍まで連れて行き、自ら倒れながら引き込んだ


「ぴえぇ!」


 以前、芹那とのデートの際の体勢と全く同じ。椿の上に奏が覆いかぶさている状況だ。


「冗談にならないからああああ!」


 椿はまだ奏の手首を掴んだままだ。

 そしてその手首を強引に自分の胸元へと近づけようとしていた。


「(流石にこれはダメだって!)」


 自分のベッドに横になっている女の子に覆いかぶさり、胸に触れる。

 誰がどう見てもアウトなシーンである。


 これが芹那の時のようにムードのある状況ならまだしも、力づくで強引にそのシーンを作ろうとされて抵抗しない訳が無い。


「ま、まけない!」


 これまで椿の力になすすべもなく振り回されていたが、ここだけは諦めてはならない。必死の奏は普段以上の力を発揮し、どうにか椿の手の動きを食い止める。


「ぐっ、ううう!」


 歯を食いしばって必死に耐える。

 椿が何を考えているのか分からないが、こんな無茶苦茶な展開で女性の大切な場所に触れて良いわけが無い。

 奏の漢の部分が執念を見せる。


「……」


 その奏の行為が不服だったのか、椿は不満気な顔を浮かべて更に力を入れる。

 

「負けちゃダメだああああ!」


 奏の全身が悲鳴をあげ、限界を迎えようとしていたその時。

 ドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえる。


『奏様!?』


 待ち望んだ助けがついにやって来たのだ。


「チッ」


 椿の手の力が緩み安堵した奏は、お嬢様には似つかわしくない舌打ちの音が聞こえていなかった。




「は、はは、はじめまして。東雲美月です」


 奏を助けに来たのは芹那、美月、真夜。奏ラバーズが全員だった。

 椿の暴挙を止めた三人は、椿を連れてリビングに降り、改めて佐野一家に挨拶をすることにした。


 芹那と真夜は佐野家に来たことがあるが、美月は初訪問の為、緊張しながら挨拶している。


「うわぁ、凄い綺麗な人!ねぇねぇ、美人の秘訣教えて!」

「七海!」

「奏様大丈夫。七海さん、後でお話ししましょう」

「やったー!」


 綺麗どころが勢揃いしており、七海のテンションは爆上げである。


「奏、お前凄いな……」


 絶世の美少女達に囲まれて平然としている奏が父親には信じられなかった。

 強烈な美少女オーラに当てられて動揺しない男などいないのだから。

 もちろん奏は単なる慣れなのだが、父親はその域には達しておらず目のやり場に困ってしまう。


「あ・な・た?」

「(ぴえっ!?)」


 そんな父親の姿に嫉妬したのか、それとも怒りを覚えたのか母親が父親に圧力をかける。

 その圧力のあまりの強烈さは、無言無反応な椿でさえ震えてしまうほどのものであった。


 しかし父親はその母親の雰囲気に怯えながらも、なんとか近づいて耳元で何かを囁いた。

 すると母親の怒気は一気に霧散してたちまち顔を赤らめたではないか。


「もう、あなたったら……」


 なお、母親はまだ40歳手前である。


「(歳の離れた弟か妹が出来ちゃうかも……)」


 今晩は夜中目が覚めても階下に降りないことを誓った奏と七海である。


「流石奏様の御父上ですね」

「奏様、遺伝子引き継いでた」

「色々と納得したよねー」

「……」


 ここで何の事だと聞く勇気は奏には無かった。

 七海も両親の情事に関する話など気まずいだけなので話の矛先を変えた。変えた先は奏にとって辛いものであったが。


「それで、結局椿さんはお兄ちゃんに夜這いに来たの?」


 椿は今、奏の膝の上に座っている。

 芹那達がどれだけ頑張っても、このポジションを退けることが出来なかったのだ。

 なお、両隣には美月と真夜が座っており、後ろには芹那が立っている。油断すると後頭部が芹那の豊満なアレにぶつかるので油断ならない状況だ。


「……」

「椿ちゃん、流石に説明しないと、って奏様の腕を取らないの!」


 油断すると直ぐに奏の手首を掴み胸元へ持って行こうとする。芹那達が奏に密着しているのは椿のこれ以上の暴挙を防ぐためでもあるのだ。


 虚をついた行動を止められた椿は不服そうな表情を浮かべ、珍しく口を開いて説明した。


「好きな人、抱かれたい、普通の事」

「ぴええええええ!」


 あまりにもストレートな言葉に奏は動揺してしまう。

 ただでさえ、椿が膝上に乗っていて女性の柔らかさを感じているのだ。胸を触らせようとするのはギャグとして捉えられても、抱かれたいなどと言われたら意識してしまう。


「(み、みんなっ……ダメだ!)」


 真夜達に助けを求めようと視線を向けたが、彼女達も椿の言葉を受けて顔を真っ赤にして静まりかえっている。何を想像しているかなど、考えなくても分かる状況だ。


「(落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕)」


 特に下半身のアレが反応しないように、全力を尽くす。

 もし少しでも反応してしまえば、すぐにでも察知されてしまうからだ。そうなれば家族の前であっても椿は強引にナニかをしでかす可能性がある。


「そうね、椿ちゃんの言う通りね」


 沈黙を破ったのは母親だった。


「みんなも、七海も、年頃の女の子ですから、そういうことに興味を抱くのは分かるわ」

「まだ早ーーーい!な、なな、七海はまだ中学生なんだぞ!」

「あら、来年はもう高校生よ」

「それでも早い!な、七海が……ゆ、ゆるさーーーん!」


 父親が突然叫び出した。

 目に入れても痛くない程可愛がってきた娘の性事情など、男親として黙って受け入れるわけには行かないのである。

 だが、そんな暴走など母親の力の前には無力であった。


「あら、あなただって高校一年生の時に私に」

「この話はここまでにしよう、うん」


 慌ててその場を離れてリビングから出て逃げてしまったのだ。


「(ええ!?お父さんってまさか高一の時にお母さんと!?)」


 知りたくもない親の性事情を聞いてしまった奏は内心げんなりとしている。

 恋愛くらいならまだしも、そこまで露骨な話はノーセンキューなのだ。


「話は戻すけど、椿ちゃんまだ早いかな」

「……」

「焦ってるのは分かるけど、まずは奏から気になる異性として強く意識してもらうことからよ」

「……」

「大丈夫、奏はちょろいから直ぐよ」

「お母さん!?」

「ちょっと奏、今椿ちゃんとお話し中なんだから黙ってて」

『え?』


 椿は無言で何も言ってないが、どうやら母親は会話が成立していると思っているようだ。

 椿の表情は相変わらず無表情だが、奏母の目をしっかりと見ているから本当に意思が通じているのかもしれない。


「そして脈ありかなって思ったら一気に攻めるの。それで大逆転よ」

「……」


 椿はここで、奏の膝から降りて奏母の元へと歩き握手をした。

 どうやら奏母は椿に認められたようだ。


「さーて、困ったわね。このままじゃ奏は椿ちゃんに取られちゃうかもしれないわよ」

「お母さん、煽らないでよ!」

『……』


 慌てて芹那達を見ると、深く考え込んでいる。


「(ぴえええ!)」


 今日を境に彼女達の攻めがより苛烈になりそうで、奏は戦々恐々としていた。


 そんな奏を取り巻く異常な雰囲気が漂うリビングの中で、一人蚊帳の外のはずの妹は顔を真っ赤にして考え込んでいた。


「(わ、私が男の人と……?)」


 兄の恋愛話を弄って堪能してはいたのだが、自分も誰かと恋愛して『そういうこと』をする年齢になっているのだと自覚させられたからだ。

 恋に恋するお年頃、好きな男性はまだ居ないが色々と興味津々。


 悶々としていた気持ちをどうにか振り払うため、場の状況を無視して七海は突如声を上げた。


「あ、あの、せっかくだから一緒に遊びませんか!」


 強引に話題を変えようとしたのだ。

 奏や母親が止める間もなく、ゲームをしようと七海はテレビの電源をつける。

 すると映ったチャンネルでニュースが流れていた。


『来月初めに予定されております日米首脳会談ですが……』


 アナウンサーの前振りにより画面が切り替わると、そこには椿の父親がマスコミの質問に答える姿が映し出されていた。


「パパ……」


 パパっ子である椿は、録画放送であっても父親の姿を見るだけで嬉しくなってしまうのだ。

 これまでの淡白な反応とは打って変わって豊かな表情になり奏の母親と七海は驚いた。


 しかし驚くのはまだ早かった。

 この先、とんでもない事態が待ち受けていたのだ。


『なお、今回の日米首脳会談に合わせて米国大統領のご家族も来日すると決まっております』

「は?」


 何故か椿が報道内容に強い反応を示したのだ。


「…………まさか!」


 椿が何かに気付いた瞬間、椿のポケットでスマホが震える音がした。慌ててそれを確認すると椿の顔から血の気が引いた。


「なぁんですってー!やられたああああ!」


三章は連続投稿出来ないかもしれませんがご容赦ください。

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