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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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22. 因果応報? その8 神々 椿

 椿は瀧川女学院の寮での謹慎を言い渡された。


 何もやる気が起きずにベッドの上に横になっている。

 奏の本性を暴こうとして、逆に自分の心の弱さを自覚させられるというお粗末な結果。

 たくさん泣いて感情を爆発させてしまったからか、今の椿の心はとても空虚なものであった。


 憎むのではなく想いなさいと言われても、父親からの愛情はもう手に入らない。

 今更考え方を変えたところで意味が無いのだ。


 このまま虚無な人生を送るのも悪くないかもしれない。

 もう疲れた。


 そう力なく横になる椿の部屋に備え付けられていたモニターの電源が勝手についた。


「……?」


 目線だけそちらに向けると、そこには信じられない光景が映っていた。

 疲れ果ててぐったりしていた椿が勢いよく体を起こしてしまう程度には衝撃的な光景が。


「なんで……これって……パパ!?」


 映し出されているのは首相官邸の総理執務室。

 しかも父親が土下座していて腰の上に金城が座っている。

 金城はカメラに向かって手を振った。


「何を見せようって言うのよ!」


 椿は理解していた。

 今回の事件には金城の意思が関わっていたと。


 特別カリキュラムを考案して奏と椿を会わせ、椿に行動を起こさせようとしていた。

 その証拠は、瀧川女学院が管理している街で強引な真似をしても止められる気配すらなかったからだ。理由は分からないが、間違いなく泳がされていただろう。


「パパ!みっともない真似は止めて!」


 日本のトップにまで上りつめたはずの父親が醜態を晒している。

 色々あったが父親大好きっ娘の椿としては耐えられない映像だった。


 そしてしばらくして奏がこの部屋にやって来て、総理は社会的責任を追及される。


「(私のせいでパパが……)」


 自分がやったことが何を引き起こすのか。

 金城はそれを見せたかったのだろうと、椿は理解した。

 反論することも出来ない場所で、沙汰を見守れと厳しいことを言っているのだと。


 だが、椿は分かっていなかった。

 金城が見せたかったのはそれだけではないのだと。


『違います!私のことなどどうでも良いのです。お望みでしたら、娘がこの先権力を持たないように縛って下さって構いません。私はただ、娘の居場所や未来を奪わせたくないのです!』


 父親がどれほど椿の事を愛してくれていたか。


 会う時間が減り、言葉を交わす機会は激減し、椿の存在を忘れているかのようだった大好きな父親。その父親が必死に娘の幸せを想い嘆願している。金も女も権力も関係なく、ただ娘を守るために必死になっている。手に入れた総理の座を捨てても尚、それだけは守り通したいと強く願っている。


『お願い致します!何でも致しますから!』


 それは椿の知らない父の姿であった。

 優しく撫でてくれた温かみのある姿では無く、醜い政治家の一員として政務をこなしている対外的な姿でも無く、悪意に飲み込まれそうになって自暴自棄になりかけている姿でも無い。


 もしかしたら父親は、ずっと家族を守るために必死で戦っていたのかもしれない。


 娘が暮らす世の中を少しでも住み良くするために、時には悪意に飲み込まれそうになりながらも戦っていたのかもしれない。それはまるで、人知れず日夜悪と戦い続けるヒーローではないか。


「パパ……パパぁ!」


 会って抱き締めて欲しい、話を聞いて欲しい、頭を撫でて欲しい。

 これまでずっと我慢していた想いが溢れ、涙をこぼして画面に映る父親に手を触れる。


『総理。教えて下さい。政治の世界って他人を騙したり裏切ったりすることが多いのでしょうか?』

「は?」


 しばらく泣いていると、画面では奏が不可思議な質問を父親に投げかけていた。


 椿が大嫌いであった政治の闇。それは本当に存在するのかと聞いているのだ。

 そして父親は闇は存在すると言う。


「(そんなの知ってるよ)」


 椿も政治家と交流する機会がそれなりにあったのだ。世間一般での噂以上に、闇が実在することを実体験として知っている。それすらも一部でしか無く、より酷いものであろうとの父親の言葉に嫌悪感が更に増したが。


『それでしたら僕は、総理が辞職することに賛成です。椿さんを普通の家族として愛してあげて下さい』

「~っ!」


 椿は奏に父親の話をしたことがない。

 それどころか、誰にもしたことがないのだ。

 金城あたりは勘づいていたかもしれないが、具体的には分からなかったはずだ。


 だが、それでも奏は椿が父親からの愛に飢えていることに気が付いた。

 もちろんそれは偶然かもしれないが、結果的に奏が望みを叶えようとしてくれた。


「佐野、奏」


 この時、ようやく椿は奏が何故三人娘に愛されているのかを理解した。

 相手の事を大切に想うというたった一つの武器だけで、他者の心を鷲掴みにするかのように魅了する。


「もぅ、私まで毒牙にかけようとしないでよ」 


 そして奏にほんのりと恋心を抱き始めていた。

 椿は知らない。

 奏は卑怯な連続攻撃を仕掛けてくる男なのだと。


『でも出来る事ならそのまま総理も続けて欲しいです』

「?」


 つい先ほど、総理を辞めて親娘の仲を深めてくれとサポートしてくれたのに今度は真逆の事を言い出した。ときめきかけたのは気の間違いだったのかと椿は訝しむ。

 奏の真意はすぐに分かり、椿は今日一番の衝撃を受けることになる。


『そして今回のことがスキャンダルにならないようにして、家族として椿さんを愛してあげてください』


 椿は父親の事が大好きだ。

 そして父親が国を良くしようと頑張る姿も好きだったのだ。


 政界の醜さを知り、当初の想いは心の闇に覆われてしまったが、それでも幼い頃に見惚れた父親の雄姿は未だに心の隅に眠っている。

 その記憶を、父の全てが好きだった当時の想いを、奏は否定しない。むしろ、蘇らせて欲しいとお願いしているのだ。


「も……もぅ、もぅもぅもぅ!」


 真っ赤になって椿はモニターに映る奏を軽く叩く。

 しかし奏のターンはまだ終了していない。


『そしてもう一つ、政治の世界が悪い事だけじゃないって椿さんに教えてあげて欲しいんです』

『あはは、僕も知りたいんですけどね。だって、悪いところしかないなんて悲しいじゃないですか。きっと国を良くしたいって言う素敵な想いを持って頑張っている人も多いんでしょう。それを椿さんに、ううん、僕達に教えて下さい』


 椿が最も嫌いであり、憎いとさえ感じている政治の世界。

 そこは決して醜いだけの世界では無いのだと奏は信じていた。

 そして椿にもその事実を伝えて欲しいと奏は願ったのだ。


 大切な父親は決して醜さに染まってはいないのだと。

 醜さが目立つ世界でも、真っ当に戦おうとして努力している光があるのだと証明して欲しいと。


 椿がこのまま憎しみに囚われてしまわないように。

 人は欲に溺れるだけでは無く、他者を想いあえる温かい存在でもあるのだということを、椿の心に伝えて欲しいと。


「かなで……さまぁ」


 奏の願いは既にほぼ叶っていた。

 何故ならば、椿の心には奏という光が宿り、淀んだ闇を振り払っていたのだから。


『どうだい、これが奏さんさ』


 金城の言葉は、総理に向けてだけでは無く、モニターで見ている椿に向けたものでもあった。




 因果方法?スキルの主な効果は『スキル所持者に強く影響を及ぼす行為をした者は、同様の効果のある行為による報いを受ける』である。

 また、とある犯罪者の調査により、『実行者だけ』に、『奏が何を感じたかは関係なく』、『事実』に沿った『報い』を受けることが判明している。

 すなわち、今回のケースであれば椿への報いは『背中に硬いものを突き付ける』、『椿の正体を隠して奏を騙した』ことが該当するだろう。


 だが、椿への『報い』は従来とは異なっていた。


 『奏が強く感じたこと』が『報い』として椿に降りかかってきたのだ。


 奏が今回最も強く感じた事。

 それは、椿が安全であることが分かり安堵したこと、である。


 ゆえに椿は、父親が政治の闇に飲み込まれていたわけでは無く、娘を愛して正しく戦っていたことを知り、安堵することになる。


 これまでとは明らかに『報い』の質が異なり、しかもあまりにも強引な『報い』の解釈である。

 だが、実はこの都合の良さこそが奏の因果応報?スキルの真骨頂であることを、まだ誰も気付いていなかった。


 スキルは成長、あるいは変化するものなのだ。

 そして、このスキルは『奏が望まない結果を決して引き起こさない』のである。

 報いによって、椿が苦しむという結果を。

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