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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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9. 美少女と一緒に怪盗と対決していたらテレビに映っちゃったんですけど

タイトル落ち

 三峰誠心銀行本店ビル、その一階で奏と二人のSPは壁を背に立っていた。

 程なくして彼らの前に、金庫から脱出して屋上へ向かっているはずの怪盗がやってきた。


「ほう、まさかこの場所に人が居ようとは」

「ぬ、ぬぬ、盗んだものを返せ!」


 奏は恐怖に震える声で、怪盗に立ち向かう。


「良いとも」

「え?」


 すると怪盗は、盗んだ現金を返しても良いと言う。


「もう少し待てば返してやろう。元からそのつもりであったからな」

「それって一体」


 盗んだ物が偽物だったから元に戻すという話はありえるが、最初から戻すつもりであったというのは意味が分からない。


「さぁな。ここで私を捕まえれば分かるかもしれないぞ」

「(ぴえぇ!)」


 長話をするつもりは無いのか、怪盗が奏に向かってゆっくりと歩き出す。

 SPの一人が奏を守り、もう一人が怪盗を止めるべく前に進む。


「金庫室の映像を見ていたのだろう。何をしようが私を止めることは出来んぞ」


 例えSPが飛び掛かろうとも、おそらく怪盗の体をすり抜けてしまうだろう。それが分かっていても、奏達を守れと命じられたSPはここで退くわけにはいかない。


 怪盗とSPがぶつかり合う、その直前。


「む?」


 怪盗の手首に突如リングが嵌め込まれた。


 スキルの発動を無効にする対スキル犯罪者用のリングだ。


「やった!」


 その場に突如出現した美月は、怪盗から離れ奏の元へ走る。


 認識阻害の力を使って怪盗の逃亡路に堂々と隠れ、傍を通った時にリングを装着させるのが美月の作戦だった。


「無事でよかったぁ」


 奏はこの作戦を警備室を出てから移動中に聞かされた。

 怪盗に近づく必要があるため、奏は猛反対して自分が代わりにやると言い出した。だが試しに美月が奏にスキルをかけてみたが、何故か効果が発揮しない。奏の因果応報?スキルの影響であるが、二人ともそのことを知らないため不思議に思う。

 それならばSPがやるべきなのだが、彼らは敵からのスキル攻撃を無効化するための特殊な装備を身につけている。それを外すだのなんだのとやりとりをしていたら、怪盗が近くまでやってきており、結局そのまま美月が隠れる流れになってしまったのだ。


「確保ぉ!」


 後はスキルが使えなくなった怪盗をSPが捕まえれば良い。美月が怪盗から離れたことを確認したSPは怪盗を捕縛すべく飛び掛かる。


 ここまでは美月の策が的中した形になる。

 だが怪盗はこの程度で捕まるような人物では無かった。


「おっと危ない危ない」

「ぐっ……」


 SPの攻撃を軽やかに避け、一発二発と反撃をする。

 怪盗はスキルを使わなくても近接戦闘のプロと同じかそれ以上の身体能力を持っていたのだ。


「そんなのアリ!?」


 SPが捕縛系のスキルを使っても難なく避け、まるで遊んでいるかのようにSPをおちょくっている。


「なるほど、少年では無く東雲嬢の策だったか」


 そのまま奏達と会話をする余裕がある。

 しかも怪盗は美月が東雲頭取の娘であることに気が付いていた。


「良く逃走ルートが分かったな」

「屋上まで行く必要無いから」

「そう思えないように仕組んだ筈なのだがな」


 怪盗は屋上から現れ、屋上から消えるもの。

 世間一般の怪盗のイメージ、そして過去二回の行動からそれを強く印象づけた。

 怪盗だから屋上で目立つのは当然の行為であり、何故屋上なのかと疑問に思いにくくしていたのだ。


「消えるのはやりすぎ」


 ビルから飛び降りて途中で消える。

 何らかのスキルを使えば出来なくはないが、あまりにも行動が派手過ぎて美月の不信感を煽ってしまったのだ。すなわち、屋上の怪盗は本体から目を逸らすためのダミーなのではないかと。


「壁をすり抜けたのもヒントになった」


 そして極めつけは怪盗が金庫内で扉をすり抜けた事。

 すぐにはそのヒントの意味に気付かなかったが、奏の『普通に出入り』という呟きを聞いて、本来の逃亡ルートから目を逸らすために屋上にダミーを召喚したのではないかと推理したのだ。


「後は包囲が一番薄いところで待っていれば良いだけ」


 そこまで考えて、美月は外の守りが一番薄いところ、すなわち隣のビルと壁が接している場所にやってきたのだ。

 三峰誠心銀行本店のビルの隣には同じく高いビルが接している。警察は表裏の出入り口を包囲しているが、出入りの不可能な壁と壁の隙間は無警戒だ。壁のすり抜けが出来るならば、そこから隣のビルに通過して逃げるだろうと美月は予測した。


「怪盗の力を見せつけることに拘り過ぎてしまったのが失敗だったか」


 通信を妨害してモニター室の映像を誤魔化し、すり抜ける場面を見せなければ、ここまで迅速に気付かれる可能性は少なかっただろう。屋上のダミーの消え方を派手にしすぎなければ余計な不信感を抱かせることも無かっただろう。怪盗は己の失態を素直に認めた。


「だがここまでだ。私の考えを見抜いたことは褒めてやるが、ご覧の通り捕まえることは出来ないだろう」


 怪盗はその言葉を合図にSPを強く蹴り飛ばした。


「それは違う」


 一見すると怪盗が余裕で遊んでいるだけのように見える状況だが、美月は諦めていなかった。むしろ今が怪盗を捕らえる絶好のチャンスだと考えている。


「逃げられるならもう逃げている」


 怪盗にとって、わざわざSPと絡んで美月と会話をする必要などない。スキルが使えなくても身体能力だけで逃げられるのであれば、さっさと逃げてしまえば良いのだ。それが出来ない何らかの理由があるのだと美月は今の状況から推測している。


「直ぐに増援も来る」


 SP一人ではダメかもしれないが、増援が来れば話は別だ。人数をかけて囲んでしまえばいくら怪盗と言えどもひとたまりもない。


「私と話をして逃げる方法を必死に考えている」


 ゆえに怪盗は余裕があるように見えて、この状況を突破するために必死で考えていると美月は確信していた。つまり有利なのは美月側なのだ。


「……」


 それまで饒舌に話をしていた怪盗が口をつぐむ。

 恐らく美月の考えは図星なのだろう。


 蹴り飛ばされたSPが直ぐに立ち上がり怪盗を捕縛するために再度飛び掛かる。

 大勢の人が駆けてくる音も聞こえる。


「チェックメイト」


 美月は強い口調でそう宣言した。


「ふははははは!」


 怪盗は高らかに笑い出す。


「やるではないか東雲嬢。認めよう、確かに私は追い詰められている」


 しかしその口調は現状を悲観しているようでも、諦めて投げやりになっているようにも聞こえない。

 美月達の顔がこわばり、怪盗の動きを警戒する。


「王道だが、こんなのはどうかね?」


 怪盗が懐から取り出した何かを地面に叩きつけると、周囲に煙が立ち込める。

 怪盗が宣言した通り、王道の煙幕弾だ。

 だがその程度のことは想定内。SPはスキルを使って周囲に風を送り、煙幕を吹き飛ばす。


「え?」


 煙幕が張られたのは一瞬の事だった。視界が塞がれたのは数秒程度だろう。

 しかしその僅かな時間で現場は不可思議な状況に変化した。


「奏様!」

「奏様!」


 美月が二人になっていた。




 増援の警備員や警察部隊が来たが、二人の美月に近づけない。

 どちらかを捕縛するそぶりを見せた瞬間に、怪盗が本物の美月を害するかもしれないからだ。

 彼らは一定の距離を取りながら美月達を取り囲む。


「美月さんが二人?」

「お下がりください」


 SPが奏と美月の間に割って入り、怪盗から奏を守ろうとする。

 当然の行為であるが奏と離れたことで美月の表情が不安げに揺れる。そんな仕草も瓜二つだ。


「そうだ、リング!」

「そうだ、リング!」


 美月は気が付いた。

 例え怪盗が自分に変装したとしても、先ほど手首に嵌めたスキル無効化リングは残っているはずだと。


「え?」

「え?」


 だがどちらの手首にもそのリングは嵌められていない。

 周囲を確認すると、壊れたリングが床に転がっていた。


「っ!?」

「っ!?」


 怪盗が再度スキルを使えるようになっている。

 そのことに美月は青ざめ相手と距離を取ろうとする。


「お嬢様、そのまま相手から離れないでください!」


 SPが美月にそれ以上偽物から離れるなと声をかけた。

 二人が離れると言うことは、本物と偽物の距離が開いて偽物が本物に手を出しにくくなる筈だ。そうなればSPは両方を同時に捕らえてから、どちらが偽物かを暴けば良い。

 だが、怪盗が不利な状況になるまで何もしないとは考えられない。最悪、そうなる前に美月を攫って人質にして逃げ出す可能性すら考えられる。


 SPの指示通りに美月は移動することを止める。


「奏様……」

「奏様……」


 どうしたら良いか分からず、美月は思わず奏に縋ろうとしてしまう。

 その不安げな瞳を見た奏は、決意の表情を浮かべて歩き出す。


「危険です!」

「大丈夫です。それよりも僕が本物の美月さんを選んだら、怪盗の方を捕まえて下さい」

「え?」


 SPの静止を振り切り、奏は二人の美月の間まで歩いた。

 この時点で怪盗のターゲットは一番近い奏に変わった。

 奏が間違えて怪盗を選んでしまったとしても美月は無事だろう。


「奏様、ダメ」

「奏様、ダメ」


 美月は奏が自己犠牲で自分を助けようとしていることに気が付き、止めてくれと懇願する。自分のせいで愛しの奏が傷つくなど耐えられないからだ。


 しかしこの場の誰もが奏の行動を勘違いしていた。

 彼らを囲むSPや増援部隊、怪盗、そして美月でさえも勘違いしていた。


 奏は別に自己犠牲などするつもりは毛頭なかった。

 一か八かで本物を選ぶつもりも当然無い。


 奏の左右にはどちらも美月が居る。

 服装も背丈も体つきも顔立ちも表情も雰囲気も何もかもが同じ二人の美月。


 しかし奏は二人目が登場した瞬間から、本物がどちらかなど分かっていたのだ。


「美月さん!」


 奏は左側の美月に駆け寄り思いっきり抱き着いた。


「はぅ!」


 その瞬間、SPや増援部隊がもう片方の美月に殺到する。


「クソッ!」


 怪盗はこの場から脱出するためにすり抜けを発動させようとするが、SPの行動の方が早くその手首に再度リングが嵌められた。


「ぐああっ!」


 そして地面に押し倒され、そのまま両腕を背に回され拘束された。


「残念でしたね」


 倒れた怪盗の頭上から声を投げかけたのは、そこにいるはずのない人物だった。


「お父様!?」


 屋上でダミーの怪盗が来るのを待っていた頭取がそこにいたのだ。


「流石の怪盗も、これだけ人がいれば逃げられなかったかな」


 突如、周囲の風景がぐにゃりと歪む。

 すると奏達の周囲に数十人の警官が出現した。


「え、え、ここ何処?」


 しかも場所も変わっており、奏は何が何だか分からず慌てている。

 先ほどまではビルの1階フロアに居たはずだが、ここは正面玄関を外に出たところだった。


 奏が本物の美月を選んでから事態が大きく動き過ぎて、奏と美月は状況が分からず呆然としている。


「美月、奏さん、無事でよかったです」

「お父様、これは一体……」

「簡単な話ですよ。美月と同じことを実行したのです。まぁ、規模が違いますけどね」


 スキル認識阻害。

 このスキルは空間に作用させて、その場所を認識させ辛くするスキルである。美月は怪盗から認識されないようにし、奇襲を成功させた。

 だがこのスキルはレベルを上昇させることで、別の風景に見せることも出来るようになる。東雲頭取は怪盗の逃走路の認識をずらして、正面入り口に移動するように誘導したのだ。


「お父様は初めから怪盗の考えが分かっていたのですね」

「私は過去の事件の情報を詳しく知らされていたから推測出来たのさ。むしろ大した情報も無しで直ぐに気付いた美月の方が凄いと思うよ」


 これは謙遜やフォローでは無い。

 東雲頭取は過去二回の事件の手口から、怪盗がダミーとすり抜けを駆使していることを予想していた。だがそれは時間をかけて検討した結果導き出せたものであり、答えに即座に辿り着いた上に見事に怪盗とやりあっていた美月のことを本気で称賛していたのだ。


「そうだ、それよりももっと凄いのは奏さんですよ。良く本物の美月が分かりましたね」

「私も知りたい」


 怪盗の変装は完璧であり、外部からスキルを使っても見破ることは出来なかった。普通に見分けようとしても、実の親である頭取でさえも分からなかったのだ。


「ええと……別に理由は無いですよ?」

「え?」

「え?」


 因果応報?スキルによるものでもない。

 今日渡したプレゼントは控室に置かれており、本物だけが持っている物、というのも無かった。

 二人だけしか知らない特定の合図のような目印があったわけでも無い。


 奏の目でも二人の美月は全く同じに見えた。

 だがそれでも奏は何も問題なく本物の見分けがついた。


「だって美月さんの方が綺麗で可愛かったじゃないですか」

「はぅ!?」


 奏と美月が出会ってから、まだそれほど多くの月日を過ごしたわけでは無い。

 だが、それでも奏は本物の方が圧倒的に見目麗しいと感じたのだ。


「はっはっは!親ですら欺いた私の変装を見破るのは愛の力ということか。これは一本取られたな」


 その話を聞いていた怪盗が地面に抑えつけられながらも奏達に言葉を投げる。


「それを言われると親としてお恥ずかしいところです。あなたを捕まえられなかったらとんだ大恥をかくところでしたよ」

「それはどうかな」

「む」


 突如怪盗の体から閃光が放たれ、周囲が一瞬目をつぶった隙に怪盗はその場から消えていた。


「なんだと!?」


 スキルを封じ、体を押さえつけられていたにも関わらずに拘束から脱出する。

 それはまさに物語に登場する怪盗そのものであった。


「楽しませてくれたこと、感謝するぞ」


 その声は頭上、といっても屋上では無く高さ数メートル程のところから聞こえて来た。

 見上げるとそこには怪盗がつけていた能面が浮かんでいる。


「だが勝負は私の勝ちだ。これにて盗みは完了となる」


 ここまで追い詰めておいて結局盗まれてしまう。

 これでは東雲頭取の責任問題になってしまう。


「お父様!」

「大丈夫さ。怪盗は盗みに失敗したからね」

「なんだと?」


 しかし頭取は余裕の表情を崩さない。


「盗んだ物を確認すれば分かることだ」

「ふん、何を言っている。あれは間違いなく本物だった。一部を返してやるからその目で確認してみろ」


 能面付近から盗んだ現金の束がどさりと落ちる。

 東雲頭取はその中から一つを手に取った。


「返してくれてありがとう。本物も混じってたから助かるよ」

「なんだと?」

「何処で見てるのかな。まぁいや、ほら見てごらん」


 東雲頭取は札束の一つを手に取り分解する。


「ば、ばかな!?」


 上下だけが本物で間がただの紙、というお約束の偽束だった。


「盗みをやるくらいだから鑑定スキルを持っているんだろう?だが、急いでいる状況であの場の札束全部を鑑定する余裕はないはずだ。だから手前に少しだけ本物を置いといて、残りは全部偽物さ」

「ぐうっ……!」


 頭取は敢えて屋上で待ち受けて怪盗の罠にはまっているように見せかけて油断を誘っていた。それが無ければ怪盗も用心してより多くの札束を鑑定していたかもしれない。


「まぁそれでもほんの少しばかり盗まれたのは本当だから、出来れば返して欲しいんだけどね」

「…………良いとも」

「?」


 その場に残りの札束が全て吐き出され、山のようになっている。


「どういうことだい?」

「なぁに、確かにしてやられたが、私の目的はすでに達成しているのだよ」

「金が目的では無かった、と」

「そうさ、私は銀行の金など簡単に盗めることを世間に知らしめたかったのだよ」

「なんだと?」

「おあつらえ向きにマスコミも集まっている。銀行の脆弱さはこれで日本中に知れ渡ることになった!」


 奏は怪盗の言葉を聞いて周囲を見渡した。


「(ぴえ!?)」


 なんと警察が包囲する範囲が何故か小さくなっており、マスコミがすぐ近くまで迫りカメラを向けていたのだ。 


「聞け!日本人よ!スキルのあるこの時代、現金などいとも簡単に盗み出される不安定なものだ。現金主義にこだわることは危険だと知れ!」


 それが怪盗の本当の目的だった。

 現金が安全でないことを証明し、現金を日本中から駆逐すること。

 キャッシュレス社会を妨害する日本人の保守性を打ち破りたかったのだ。


 だが気持ち良く宣言する怪盗を、頭取は一蹴する。


「愚かだな」

「なんだと?」

「よくもまぁ恥ずかしげもなく簡単に盗み出されるなどと言えますね。貴方は盗みに失敗したではないですか」

「確かにな。だが、金庫に侵入して中の物を奪い去ることには成功した。今後似たような行動を起こす人物が現れてもおかしくないだろう」

「ふっ……まだ気付かないのですか」

「何?」

「成功した、ではなく成功させてもらった、の間違いでしょう」

「……」

「貴方が何のスキルを持っているか把握するために、わざと盗ませてあげたのですよ」

「……」

「銀行の警備は万全です。現金は簡単に盗める?そんなわけないでしょうが」

「……」


 全ては東雲頭取の手のひらの上だった。


「(か、格好良い!)」


 怪盗の言葉を全て否定し、堂々と渡り合う頭取の姿を、奏はキラキラした目で見つめていた。強大な敵を真っ向からやりこめるという、男心をくすぐる堪らないシーンだったからである。


 尤も、頭取の言葉が本当かどうか・・・・・・など、誰にも分からないのだが。


「はっはっはっ!完璧にしてやられたな!」


 怪盗は頭取の言葉が嘘である可能性に気付いていないのか、気付いていて敢えて触れていないのかは分からないが、そのことを口にすることは無かった。


「認めましょう。今回は完全に私の負けです」


 そして変にごねることはせず、堂々と負けを認める。


「しかし東雲嬢だけではなく父親もここまで聡明とは、ここの銀行に手を出してはならなかったかな」

「出来れば何処にも手を出さずに出頭してくれると嬉しいのですが」

「無粋なことを言うな。怪盗は捕まえるものだろう?」


 出頭して来る怪盗などあまりにも情けない幕切れだ。


「またいつかお相手して貰えると嬉しいな。私としてはむさくるしい男ばかりでは無く東雲嬢のような綺麗どころとやりあう方が楽しいからな」


 美月が狙われるかのような物言いに、それまで傍観に回っていた奏が割って入る。


「美月さんに手を出したら許さない!」

「はぅ」


 力強い宣言を聞いて、美月はうつむき奏の服の裾をぎゅっと握る。


「これは強敵だな。ナイト君がいるなら東雲嬢へのアプローチは止めておこう」

「な、ナイトって言うな!」

「?」


 顔を赤くして妙なところで怒る奏。

 以前にナイトを内藤と聞き間違えたことを思い出して恥ずかしくなってしまったのだ。


「そうだ、代わりに君が相手してくれないか。私の渾身の変装を見破った君のことも気になっているのだよ」

「ぴえ!?」

「か、かか、奏様に手を出したら許しません!」

「美月さん!?」


 奏がターゲットになりそうな発言が飛び出し、今度は美月が奏を守るべく前に出た。


「はっはっは、実にお似合いじゃないか。面白い、実に面白い。まぁ私も忙しいのでお会いすることは無いとは思うが、機会があればまたいずれ遊びましょう」


 能面がクルクルと回り出す。


「それでは諸君。また次回、どこかで」


 そして能面はポンと小さな音を立ててその場から消えて無くなった。


 怪盗が消え、警察は付近の捜索を続け、銀行スタッフが札束を集め、奏達はどうにか無事に終わったことを安堵する。


「(なんとかなったのかな?)」


 否、まだ終わっていない。

 怪盗騒ぎは終結したように見えて、あまりにも大きな問題が今この瞬間も奏に降りかかっていたのだ。


「すいません、インタビューをさせて下さい!」

「そちらの男性はお嬢様とどのようなご関係で!」

「本物を見破った理由を今一度教えてください!」


 マスコミたちの猛烈なプッシュだった。


「ぴええええええ!」


 怪盗との会話を敢えて聞かせるために、頭取はマスコミを近づけていた。

 ゆえに、奏が偽の美月を迷わず選んだシーンも、選んだ理由を告げるシーンも、美月を守るべく怪盗に啖呵を切ったシーンも、その全てがカメラに収められていたのだ。

 絶世の美少女を怪盗から勇敢に守り切った少年。

 マスコミが殺到するのは当然の流れであった。


 奏、全国デビューする。


「(誰かタスケテ!)」

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