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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第二幕――○○(??????)
34/280

9-(1)

 翌朝、伊織はいつもより早く目が覚めた。雨戸を開けて回り、庭に出て顔を洗う。賄場に行けば、昨晩伊織が片付けたまま一寸も動いてはいない。家の中は昨晩同様、彼一人である。九十九神がいることにはいるが関わり合わない為、実質一人に違いはない。


 竃に火を入れ、朝げの支度を始める。手際よく出来上がったのは昨晩と代わり映えのない一汁一菜。茶を淹れろ、と言いそうになり、慌てて口をつぐむ。仕方無く湯呑みに白湯を注いだ。


 居間に持っていくのも面倒になり、板間でそれらを掻き込むように口に流し込む。


 食事の片付けもそこそこに済ませ、伊織は直ぐに出仕の支度をした。


「行ってくる」


 誰もいない家に声をかけ、家を出た。





 足は奉行所と少し違う方向へ向かっている。しかし、足取りに迷いはない。伊織が向かったのは、町人の暮らす長屋の一つである三遊(さんゆう)長屋。


 藩内にいる庶民の殆どは農村に暮らしている。しかし城下町には、江戸ほど多くはないものの長屋が複数存在している。そこには御店(おたな)に通い奉公しているものや棒手振、長屋に小さい(たな)を構えている者達とその家族が暮らしている。


 三遊長屋の真ん中にある井戸端には長屋に暮らす女達が集まっていた。ある者は米を研ぎ、別の者は子供のぼろを洗う。女たちの手は忙しなく動いているが、口はそれ以上動いている。その横、通路のどぶ板の上では、長屋の子供たちが楽しそうに駆け回っている。


 何とも騒がしい朝の長屋である。



 長屋の入り口の門を入りにくそうにしながら伊織は潜った。井戸に近づけば、お喋りに勤しんでいた内の一人が彼に気がつき、顔を上げる。突然喋るのを止めた彼女につられ、他の女たちも顔を伊織に向けた。


 一人が伊織の顔を見るや、持っていた着物を桶の中に落とし立ち上がった。濡れた手を腰に下げていた手拭いで拭きながら、伊織に近づいてくる。


「これは、花菱様。わざわざこの様なところに、よくお出でくださいました」


「久しいな、ふさ。息災か?」


「はい。お蔭様で」


「佐吉はいるか?」


「おりますが、呼んで参りましょうか?」


「いや。入れてもらえるか?」


「はい」



 ふさは洗濯物をそのままに長屋の奥に進む。右側奥から二つ目が佐吉たちが暮らす棚である。


「あんた、花菱様がいらしてるよ」


 障子戸を開け、土間からふさが声をかける。部屋の奥にはこんもり膨らんだ布団が敷かれ、その上で二人の子供がはしゃいでいる。子供が布団にぶつかる度に布団の中から呻き声がした。しかし、布団から人が出てくる気配はない。


「あんた、いい加減におしよ」


 ふさはなかなか出てこない佐吉にしびれを切らし、部屋に上がると掛け布団を無理矢理剥がす。佐吉は丸くなったまま呻き声をあげる。まだ動こうとしないので、ふさは敷き布団を佐吉の下から引き抜いた。佐吉は布団から転げ落ち、そのまま転がり、土間の手前で仰向けになって止まった。


 伊織と佐吉の目が合う。


「これは旦那様。おはようございます」


「ああ」

お読みいただきありがとうございました。


昨日が二十日であることをすっかり忘れて、更新が今日になってしまいました。

環境が変わり約一か月。なかなか慣れません。

そして早々、周囲に自分の趣味がバレました。隠すだけ無駄だったのでしょうかね。


みせと書いてたなと読みます。店子たなこというのは、聞いたことあるかと思います。

ややこしいと思いますが、慣れていただければと思います。

打っている自分が、一番慣れていない気もしますが。

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