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勝手口に回り、三人は庭まで出た。すゞは染五郎に支えて貰ってどうにか立っている状態である。彼女の荷物も彼が持っている。
自然に正面から出ていこうとする二人に、伊織はふと疑問を抱き、そう言えば、と呼び止めた。
「どうやって家に帰るんだ? 手形の持ち合わせはないだろう?」
染五郎は答える為に足を止め、伊織に体を向ける。
「家は異世にございます」
「異世、とはなんだ? どのようにして行く」
「帰りましたらお教え致します」
伊織の好奇心に対し、あからさまに面倒くさそうな表情をする染五郎の顔が目端に映り、すゞは遮るように言う。すゞの対応から伊織は染五郎のことを窺い見、すぐに理解した。
「楽しみにしている」
その一言で会話を収めた。
門を潜り、二人は伊織に一礼すると、夕闇の中に紛れていった。
伊織は二人を門の内から見送り、姿が見えなくなると、家の中に戻った。
これから何しようかと考えていると、彼の腹の虫が鳴く。
「飯、食うか」
そう独り言ちると、夕げの支度を始めた。一人なのだからと大したものを作る気もなく、残り物の一汁一菜で済ませた。
食事を終えると片付けをし、風呂を沸かす。布団を敷き、家のことは彼一人で全てやった。その手際は女中顔負けである。
雨戸を閉めれば、家の中は一層闇で満たされる。伊織の私室には行灯が灯り、小窓からは月明かりが障子越しに差し込む。戸締まりを確認した伊織は行灯の火を吹き消し、床に着いた。
目を閉じればより音を拾うようになるが、伊織の身動ぎで起こる音以外、音がない。
「静かだな」
ぽつりと呟いた彼の言葉も誰に届く訳もない。家には誰もいないのだということを、改めて感じていた。そのまま静寂に耳を傾け、意識が眠りに堕ちていこうとする。
それを見計らったように、カタカタ、と音がした。伊織は体を起こし、眠り目で辺りを見渡すが闇の中には何もない。再び布団に体を沈め、眠ろうと目を閉じる。するとまた、家のどこかで音がした。
鳴屋や九十九神といった妖怪たちが気紛れに動いているのだ。しかもそれがずっと続いている訳でもなく、一定間隔で起こる訳でもない。狙い済ませたように伊織の眠りを妨げていた。
我慢できなくなった伊織は布団から出ると部屋の襖を勢いよく開けた。襖が大きな音をたて柱にぶつかり、反動で跳ね返る。
「うるせぇ!」
怒号が家中に響き、妖怪たちのたてる音は止んだ。
しかし、暫くすればまた小さな音が家のどこかから聞こえてくる。一人ではないことを嬉しく思う反面、面倒に思いながら、伊織は鳴屋たちに反抗するのを諦めた。
お読みいただきありがとうございました。
引っ越してそろそそ半月になりますが、未だ慣れていないようです。
何より、未だに家にテレビがないので朝ドラが見れずに困っています。評判や情報だけはネットニュースで見るので、期待値が上がっていくばかりです。
追記:自分の知らない間にブックマークが増えておりました。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。




