↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第八幕——〇〇〇(??????)
301/303

73-(1)

 明らかにきくの持ち物だと思われる簪を所持していた。同じものは二つとなく、他人が持っているということは、すなわち盗んだということに他ならない。


 明確な窃盗の証拠だ。


 部屋の床に転がる簪を前に言い逃れなどできる筈もない。


 簪が全員の目の前に晒されたと理解し、再び隠そうと手を伸ばすあざみより先に伊織が簪を拾い上げる。


「返して!」


「お前のでもないのによく言う」


 追い縋ろうとするあざみを一蹴し、拾った簪を文七ときくへ渡した。


「間違いないか確かめてくれ」


 文七は伊織から簪を受けとると、翳してみたり、表裏を何度もひっくり返して意匠を見たりと繰り返す。きくも文七の手にあるそれを一緒に眺める。


「私がきくに贈ったものに間違いないかと存じます」


「きくはどうだ」


「おそらく、そうだと思います」


 確信を以て言い切る文七に対し、きくの答えは曖昧だ。贈られたものを碌に見ていなかったのか、と思えるような反応である。


 文七の名誉の為にも、贈られてすぐに盗られたものとしておこう、と伊織は一人納得することにした。

 文七からの言質も得た伊織は、打ちひしがれるあざみへと振り返る。


「さて、まだ言い逃れでもするか? 言い分の一つくらい聞いてやらんこともないぞ」


 あざみはばつが悪そうに視線を逸らす。黙してなんとかこの場を乗り切るつもりのようだが、それでやり過ごせるほど甘くはない。伊織はあざみの前にしゃがんで視線の高さを合わせる。


「言うことが無いなら別にいい。後のことはふじやの旦那と女将さんが決めることだ」


「あざみ、どうしてこんなことしたんだい?」


「そうですよ、あざみ姐さん。わざわざ私の物を盗らなくったって、あざみ姐さんの人気なら帯も櫛も簪も客に強請れば欲しいだけ欲しいものが手に入るっていうのに」


 伊織の言葉にゆかりときくも続いてあざみに声を掛ける。


 二人の諫めるような言葉の中に癇に障るものがあったのか、もしくは同じ飯盛女に言われたこと自体が癪だったのか。それまで黙っていたあざみが一転してきくたちの方を睨みつけ声を荒げた。


「元はと言えばあんたが人の客を盗るのが悪いんじゃない! 部屋持ちでもない癖に私の客を盗るなんて。身の程を教えてやって何が悪いのよ!」


 口角泡を飛ばすあざみの言葉から察するに、彼女の動機はきくへの恨みからくるもののようだ。


 きくに視線が集まるが、当のきくはあざみの訴えに首を傾げていた。彼女自身には思い当たることはないらしい。その態度が更にあざみを煽ったのか、怒りをぶつけるようにあざみは床を叩いた。突然の大きな音に視線が再びあざみへと集まる。


「人の客を盗ったくせにしらばっくれてるんじゃないよ! 面の皮が厚いのも大概にしなさいよ!」


「あざみ姐さん、待ってください。私、あざみ姐さんの客を盗った覚えはありません。何かの間違いじゃないんですか?」


「間違いな訳ないでしょう! これ見よがしに隣に侍らしておいて。稲鶴屋の若旦那は元々私の客だったの。それを横から奪って。挙句身請けなんて。先に人のものを盗ったのはあんたの方じゃない。盗人に盗人呼ばわりされる謂れはないわ」


 憤りからか、あざみの目には僅かに涙が浮かんでいた。未だ怒り冷めやらないのか、威嚇する獣のように吐き出される息は音を立てる。




 あざみの言い分を鵜呑みにするならば、文七は元々あざみを贔屓にしていた客だった。それをきくが奪い、身請けまで漕ぎつけた。あざみとしては、きくが文七から受け取った贈り物は本来己が受け取る筈のもので、きくのものではない。盗んだのではなくあくまで取り返しただけなのだと言いたいのだろう。きくの身請け話が上がってから盗みが始まったというのも、文七がいよいよあざみの元へ戻ってくる気がない、と突きつけられたように感じてのこと。



 要するに女の嫉妬である。あざみは客だった文七に入れ込んでしまったが故に、その文七に贔屓にされるきくが許せなかった。



 部屋持ちになるまで人気を手にしていようとも、飯盛女である以上客の取り合いと無縁ではない。贔屓にしていた客が心変わりをして別の女の元へ行ったとしても、春を鬻ぐ女にできることは手紙を出して気を引くことが精々。金を出して誰を買うのか決めるのは男の方だ。別の店に行こうとも、同じ店の中でも別の女を買う姿を見せつけられようとも、押しかけて縋ることなどできはしない。ただ受け入れるしかできることはないのだ。


 だからこそ、その不満と嫉妬心を吐き出す矛先が同じ女へと向くのだろう。

73-(1)


お読みいただきありがとうございます。


相も変わらずの遅杉くんです。

いえ、あの、はい。すみません。


書くのも打ち起こすのもギリギリアウトなことばかりで、本当に申し訳ありません。

『(偽)聖女の巡礼』に関してはもう更新から一ヶ月経過しているかもしれない、と今気づきました。

急ぎとりかかろうと思います。いえ、本当に。


短編も書きたいと思っているのですが、果たして公式企画に間に合うのやら。

ちなみにまだ一文字も書いていません。


追記

新たにブックマークいただきありがとうございます。

更新遅刻常連者ではございますが、日々精進していく所存ですので何卒ご贔屓の程、お願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。