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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第八幕——〇〇〇(??????)
292/303

70-(4)

「お邪魔でしたでしょうか」


 立っていたのは文七ときく。控えめながらも二人手を繋いでいるところを見るに和解はできたらしい。彼の声で起きたゆかりはぼんやりとした目で文七たちを見て、こてん、と首を傾げた。眠気が抜けていないのか、状況が掴めていないようだ。隣の伊織に顔を向ければ、おはよう、と声を掛けられた。


「もう動いていいですか。腕が痺れたんですが」


「あぁ、ごめん」


「ゆかり姐さん、しゃんとしてください。ほら、しっかり」


「うん」


 ぼんやりとした口調で、再び舟を漕ぎそうになっているゆかりの肩を揺さぶりながら伊織はなんとか起こそうとするが、半端に眠りに落ちかけていたせいかなかなか意識が現に戻ってこない。


「出直しましょうか」


 文七がゆかりの様子を見て提案してくれる。一瞬受け入れようと思った伊織だが、ゆかりときくを交互に見て、いや、と断った。このまま文七たちが立ち去った場合、ゆかりは余計にこのまま寝かねない。それほどにうつらとしている。


 対して文七の後ろにいるきくは、いつまでも廊下にいたくないのか、辺りを気にしながら小さく唇を尖らせていた。部屋持ちでもない女と客が部屋持ちの部屋の前にいる姿など目立って仕方がないのは確かだ。


「部屋に戻ろう。そちらは話がついたのだろう。ならここで油を売っていないで話を詰めるべきだ」


「承知いたしました。その、お手をお貸し致しましょうか」


「大丈夫だ。何とか連れて行く」


「へえ」


 伊織は煙管盆に置いていた己の煙管を懐にしまうと、ゆかりの腕を引いた。未だ微睡んでいるゆかりは腕を引かれたことで一瞬伊織を見るもすぐに首をもたげてしまう。動こうとしない姿にため息を吐くと、引いた腕を己の肩に掛け、そのまま立ち上がった。自然、ゆかりも立ち上がらされる。そのまま半分引きずるように伊織はゆかりを元いた座敷の部屋へ連行した。




 廊下の途中、柱の横に並び立つ毛倡妓の姿が目端に映る。いつも一階で見かけていただけに、不意を突かれ、一瞬立ち止まってしまう。


 相変わらず他の人には見えていない。


 反応しては怪しまれる、と伊織は何事もなかったかのように毛倡妓の前を通り過ぎる。


 すれ違う瞬間、毛倡妓が何か呟いているのが耳に入った。小さな声でぼそぼそと何か言っているのは確かだが、何を言っているのかまでは分からない。


 立ち止まって聞き直したいところだが、今は連れがいる状態だ。伊織は渋々諦めた。


 毛倡妓は常に同じ場所にいるわけではないらしい。




 後ろ髪を引かれながらも部屋に入ると、少し歩いたお蔭か、ゆかりの目が覚めていた。気の抜けた姿を店の客である文七に見られたことを恥じ入り、耳や頬を赤く染める。上座の伊織の隣に座るも、対面にいる文七を見れず顔を逸らす。


 下座の文七ときくは廊下から引き続き手を重ねている。目を合わせては互いに微笑み合い、二人だけの空間を作っていた。目の前でそんなことを繰り広げられている伊織はすぐにでも部屋を出ていきたい気持ちでいっぱいだったが、膝の上で拳を握りしめてなんとか耐える。



 きくを買ったのは伊織だ。客である伊織が後から来た文七に譲るのは格好がつかない。男の矜持に関わることだ。


 先程暫し譲っていたいたのは緊急事態だったから仕方がない、と心の中で言い聞かせ、己をなんとか納得させる。一時譲るのと帰るのは、全く違う。




 伊織がわざとらしく咳払いをすると、それぞれ別の方向を見ていた三人が一斉に居住まいを正し伊織を見た。


「きくからも話があったと思うが、きくの櫛やら簪やらが無くなり、その下手人を見つける為にこのところ俺が続けて買っていた。祝言前のお前たちの仲を裂く気は微塵もない」


「はい、伺いました。手前の勘違いから無作法を致しまして申し訳ございませんでした」


「分かってくれたならいい」


 一先ず文七の誤解が解けたのは確認できた。これでようやく盗難の話に入ることができる。


「とはいえ、正直手掛かりはない。文七、お前の方で心当たりのようなものはないか。文を貰ったとか、他に贔屓にしていた女がいたとか」


「他など、そんな。残念なことではございますが、心当たりはございません。手紙は何人かからございましたが、贔屓にしていた訳ではございませんので。単に形式として送ったものかと」


 伊織が、そういうものなのか、と問うようにゆかりに視線を投げかければ、そうねぇ、と考えるように口元へ手を当てた。


「贔屓の客に繋げる為に送ることは、無い話ではないわね。若旦那みたいな羽振りの良さそうな方なら特に」



 要するに、協力者が増えても手掛かりはまるで増えなかった、ということである。

お読みいただきありがとうございます。


遅刻常習犯がお送りしております。はい。すみません。

更新遅延もここまで続くと、正確に更新できていることの方がレアなのでは思えてきてしまう程で。

謝罪の言葉も軽くなってしまっている気がします。


労働とは本当にままならないというか、なんというか。

仕事の後、あれこれ創作活動してみたり、撮り溜めした番組を見たり、料理の作り置きをしたり。あれこれやっていた日々が今や遠い昔に思えるほど、最近は帰って寝るだけの日々です。

世間に対して斜に構えたり、穿った見方をしたり、鬱屈とした気持ちを持つことはさておき、心身健康でなければ趣味に取り組むことは叶わないということが最近身に染みています。

こんなにも休みが無い日々が定期的に発生するとは。


正直心が折れそうです。

本屋にすら行けていないことが一番のストレスかもしれません。

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