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一方、ゆかりの部屋へ避難した伊織たちは、二人の話が終わるのを完全に寛いだ姿で待っていた。
「とんだことに巻き込まれるところだったな。まだとはいえ、犬も食わないというのに」
「そうね」
ゆかりは床に大の字になっている伊織にくすくすと笑い声混じりに相槌をする。彼のだらけきった姿などしばらく見た覚えのないゆかりはどこか懐かしさすら感じていた。
対して伊織は横になったままぼんやりと部屋の中を見渡す。考えてみればゆかりの部屋に入ったことも、しっかり見た事と改めて思った。きくの馴染みになって久しいこともあるが、部屋持ちの部屋は私的な場所なので、客である伊織が入ることはそもそもない。
「意外と質素なんですね」
「なぁに? あれこれ物を飾っていると思ったの?」
「まぁ、ゆかり姐さんは人気者ですからね」
上体を起こした伊織は鏡台を見つめる。鏡台の上には少しの化粧品と髪飾りがいくつか出ているくらいで溢れかえっているという程ではない。出ているものもしまいきれないというのではなく、着けるのに迷って出したものというくらいだろう。
「客からの貰い物は絶えないのでは?」
「言うほどではないわよ。使わないものは押し入れに収めているだけ。来る人によっては奥から引っ張り出す、なんてこともしているわ」
「押し入れあるのは便利ですね。部屋持ちの部屋にはみんなあるんですか?」
「あったと思うわ」
「なら、部屋持ちが一番盗んだものを隠すのが容易いとも言えますね」
「一応私のところも見ておく?」
ゆかりはおもむろに立ち上がると、隠すものはない、というように押し入れの襖を全開にした。上段には布団が収められ、下段には売っていった時の外箱にはいったままの簪などや、箱の無いものを入れているであろう小箱、着物の入った葛籠といったものが整頓して収められている。
「いいですよ、一々探さなくても。ゆかり姐さんがやったとは思っていませんから」
「あら。信頼してくれるのはありがたいけれど贔屓が過ぎない?」
「そうですかね?」
「実は私が下手人だったらどうするの」
「どうも何も理由がありませんから」
「理由?」
「えぇ。きくとゆかり姐さんの客はまず被っていませんから嫉妬ということもない。きくの持っていた物が羨ましければ贔屓の客にねだればいくらでも手に入る。太い客の一人や二人いるでしょう?」
「そうね。否定しないわ」
「だからありえません」
「昔馴染みだから目が曇っている、なんてことない?」
「そうですね。否定はしません」
どちらからともなく笑みがこぼれる。押し入れは開けたまま、ゆかりは伊織の隣へと腰を下ろした。
「理由が無いのは認めるわ。そもそもやっていないし」
「でしょうね」
会話が途切れ、周りの音が障子越しに聞こえる。廊下に面した障子が開く気配は未だに無い。
「きくとあの文七という男、まだですかね」
「確かに。かかっているわね」
「そのまま盛り上がって、なんてことになっていたりしませんかね」
「ないとは言えないんじゃないかしら。そうしたら伊織はどうするの?」
「どうしましょう。このまま部屋に置いてくれますか?」
「部屋で客取ることはあまりないのだけれど。しょうがないわね」
「ありがとうございます」
ゆかりは煙草盆を引き寄せると伊織の前へ置いた。本来客を取る部屋でもなければ、今日ゆかりに客もついていない。酒も食事も無い部屋で呑めるものは煙草くらいのものである。盆の中にある火鉢には未だ火の残る炭が強弱をつけて光を放っていた。
行灯も灯っていない部屋の中は外からの月明りで薄ぼんやりとしており、炭の火の赤は良く目立つ。
ゆかりが隣にある伊織の肩に頭を預け、伊織もそれを甘んじて受け入れる。しかし伊織の頭に色っぽいことはなく、理由があるのは誰で、誰が下手人なのか、ということばかりだった。
ゆかりの瞼が微睡と共に閉じられようとした時、障子戸が開けられた。
お読みいただきありがとうございます。
先程まで寝ていました。はい。すみません。
頭痛に苛まれ、少し寝て回復しようと思ったら寝過ぎました。
また風邪気味なのか、他に原因の病気があるのか。まぁ、慢性的な寝不足による頭痛なのでしょう。寝起きの今、凄く頭がすっきりしているので。
意欲に対して体が追い付かない。
一日中頭痛が続き、痛み止めも効果が無いなんて。
寝不足の代償としては大きすぎやしないかと思わずにはいられません。




