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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第八幕——〇〇〇(??????)
288/303

69-(4)

 伊織の問いにゆかりは首を横に振った。


「二人共ですか?」


「二人共。あざみは『眠い』の一言だけですぐに部屋に引っ込んじゃうし、なつめは『なんで部屋の中なんてあんたに見せなきゃいけないの』って怒られちゃった」



 先程まで聞いていた二人の人柄から考えれば想像通りの返しだろう。



「単に疑われるのが嫌だったのか。もしくは見られたくないものが部屋の中に隠されているのか」


「姐さんたちを疑いたくはありませんが、どちらもありえそうです。私のことを抜きにしても見られたくないものがあるということもありえますし」


「そう? 私は見られて困るものなんてないけれど」


「ゆかり姐さんみたいに清廉潔白な人の方が珍しいと思います」


「そうかしら」


「そうですよ」


「別に私も清く正しい真っ当な人とは言わないわ。その上で部屋なんかに見られて困るものなんてないってこと。部屋持ちだとしてもこの店の中にいて女に秘密を隠しておける場所なんてないってこと」



 飯盛女として時には身を売って生きている彼女たちは血の繋がった家族に売られてここに来た者ばかりだ。店から直接あるいは女衒を通して彼女たちの買い値は売り手である身内に支払われ、彼女たちの手元には一銭も残らない。店を出るには売値と利息を合わせた額を店に払わなければならない。つまり身を売って借金を返しきるまで彼女たちに自由はない。女将やその旦那である店の主が一言口にすれば、彼女たちは簡単に身ぐるみ全て取り上げられるのだから。



「本当に隠したいなら店の外よね。まぁ、心から信じて預けられる人が外にいなければ無理な話だけれど」


「なら贔屓のある部屋持ちの姐さん方の部屋を調べてっも何も出ない方がある話ってことでは?」


「言ったでしょう。信じて預けられる人が必要って。部屋持ちだろうとなんだろうと、その時だけの客に大切なもの託す訳ないじゃない。酸いも甘いも心得ている二人なら猶更ね」


「どこまでいっても客と女ってことか」


「そういうこと。本気になったら辛くなるだけだから」



 女を買う男も、買われる女も、一夜の幻だと。どれだけ甘い言葉と熱を交わそうとも、店の外でも真実になることはほとんどない。店に長くいればいる程、思い知らされることだ。



「つまり協力者の手を借りて盗んだものを隠すことはないだろう、と」


「おそらくね。店の男衆の手をよしんば借りられたとしても、その筋から露呈すると思うわ」


「要するに手掛かりは無い訳ですか」


「力になれなくてごめんね、きく」


 ゆかりは隣に座るきくの手に両手を包み込むように重ねた。あまりにも申し訳なさそうにするゆかりにきくは慌てて首を横に振る。


「そんなことありません、姐さん。こうして手を貸していただけるだけで嬉しいです」


「きく」


 きくとゆかりは二人見つめ合い、手を握り合う。


 なんとも美しい光景を目の前に、伊織はその輪に入れないもどかしさのような寂しさを感じていた。二人だけの空気に耐えかね煙管に火を点ける。煙と共に胸のつかえを吐き出そうとするも、蟠りは胸に引っ掛かったままだ。




 仲睦まじいさまを見せつけられ、寂しいながらも微笑ましく眺めていた伊織が燃えた葉を煙草盆に捨て新しく煙草を詰めている時、襖の外の廊下から荒い足音が近づいてくるのが聞こえた。伊織は葉に火をつけようとする手を止め、きくたちも廊下に繋がる襖へと顔を向ける。


 足音と一緒に男衆たちの制止する声が聞こえ、足音と共に伊織たちのいる部屋の前で止まった。


 次いで、襖が勢いよく開けられる。柱に当たった襖が大きな音を立て、少し跳ね返った。


 男衆に囲まれた中心にいたのは若い男。髷や恰好から商人であることが察せられる。


「きく! どういうことだ!」


 声を荒げる男を前にきくは目を見開いたまま動かない。


 彼女の知り合いらしい。贔屓にしていた客か誰かなのだろう。


 伊織がゆかりに視線を移すと、ゆかりも丁度伊織に移したところで、ばちっと彼女と目が合う。口には出さず視線だけで男は誰か問うたが、ゆかりは首を横に振り、知らない、と声にせずに答えた。

「文七さん」


 きくの口から名前が零れる。



 どういう関係かは分からないが、このところ乱入者に見舞われやすい星の巡りに己があることだけは、伊織にも分かった。

お読みいただきありがとうございます。


風邪をひきました。

夏風邪というやつです。

暑い日が続いた後、珍しく雨天が続くなどの寒暖差にやられました。


本業の間の少し気の抜けたタイミングで一気にきまして、絶賛鼻水と咳に苦しめられています。


少し忙しいくらいが創作するのにいいかも、なんて言っていましたが、体調が万全でないと該当しないということが良く分かりました。

風邪で苦しんでいる時、頭痛でものを考えているどころではなくなるものなんですね。

何もする気が湧かない。そんな日々を過ごしていました。


皆様も体調には十分お気を付けください。

風邪をひいた自分が言っても説得力はないですが……。

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