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「頼んでも良いのか?」
「勿論。一肌でも二肌でも脱いであげるわ」
「助かります。きくが訊いたんじゃまた今日みたいになりかねませんから」
伊織はゆかりに深々と頭を下げた。
きくに訊き込みが向いていないことは先程の騒動で証明されている。普段店にいない伊織は、飯盛女たちの中でいつもと違う動きをしている者などいても気付くことはできない。女将も頼むだけ頼んで、協力らしい協力は店に安くいられること以外今のところはなかった。
故にゆかりの提案は渡りに船だったと言える。
「まぁ、本当に脱いであげても、いいけどね」
「姐さんっ!」
「ゆかり姐さん、冗談でも勘弁してください」
流し目にするりと袷を寛げ、左肩を露わにしたゆかりをきくと伊織が慌てて制止する。そのあまりの慌てように、ゆかりはけらけらと笑い出した。
「揶揄ってごめんね。でもそんなに慌てることないんじゃない?」
「今日はゆかり姐さんに出せるほど懐は温かくないもんで」
「あら。お武家様は相変わらずしけているのね」
「そんな歯に衣着せず言わなくても」
「傷ついちゃった?」
「まぁ、それなりには」
己の財布の中身を思い出し乾いた笑い声を零す伊織にゆかりはまたけらけらと声を出して笑う。
お腹を抱えていると、くい、とゆかりの袖が控えめながら轢かれる。見れば話に置いていかれていたきくが不満気に彼女を見ていた。
彼女の目が訴えんとすることを察したゆかりはきくへ柔和に微笑みかける。
「少し揶揄い過ぎたわね」
ゆかりは伊織ときくを交互に見て、肩を竦めた。彼女の言動の意味を掴めず伊織は首を傾げ、微笑みの裏にある思いに気付いたきくは彼女の袖から手を放し交差していた目を逸らす。
「座敷についていない私がいつまでもいるのもおかしな話だものね。さっさと二人に訊いてきてあげるわ」
「ありがとうございます、ゆかり姐さん」
「お礼は私が困った時に助けてくれたらそれで結構よ」
「ゆかり姐さんの頼みなら、別に借りじゃなくてもそれくらい」
「そう。なら、何頼むか今から考えておくわ」
「あんまり無茶なものは困るんだが」
頭を掻く伊織にゆかりは近づくと、耳元へ艶めかしい唇を触れる寸でまで近付けた。
「さて、どうだろうね」
息を多く含んだ囁き声は伊織の耳を擽る。目を見開く伊織にゆかりはまたけらけらと笑い、部屋を出て行った。
再び静かになった室内。伊織は照れたことを誤魔化すように煙管に手を伸ばす。
元々この部屋で伊織がきくを叱っていたことなど彼の中からすっかり抜け落ちていた。
きくを紫煙越しに見遣れば、ゆかりの去り際の行為に未だ思うところがあることを隠しもせず唇を尖らせている。正面でいじけているきくをいつまでもそのままにしておくのは客である伊織としてはあまり気分の良いものではない。
おい、と声を掛け、手招きして呼び寄せる。人を呼ぶ呼び方ではないな、と思い直したが、名を呼び直す前にきくは伊織の傍らへと座った。客である彼が機嫌を取るのもおかしな話ではあるものの、どうにかしようときくを見遣れば、傍らに侍る彼女は先程までの不機嫌さを欠片も見せず、いつもの様子でしなだれていた。
「少し早いですが、お酒でもいかがでしょうか」
上目遣いで尋ねられ、伊織は、あぁ、と素っ気ない答えを返してしまう。いつも通りの振る舞い過ぎて、先程の不機嫌さは見間違いかと思えてくる。
「ゆかり姐さん、何か掴んでくるといいんだが」
「そうですね」
廊下を動き回っている男衆へ声を掛けて戻ってきたきくに伊織はあえてゆかりの名前を出してみたが、やはり変わらずいつも通りの振る舞い。
こういうところは流石仕事人と褒めるべきところだろう、と伊織は感心した。
お読みいただきありがとうございます。
睡眠不足は本当に大敵だと思うばかりです。
頭痛に苛まれるのもそうですが、気絶に近い形でいつの間にか眠りに落ちている、なんて状況は本当に困りものです。
寝起きはすっきりしますが、変な時間に寝落ち、変な時間に起きる。
何が言いたいのかと言いますと、言い訳ですね。はい。
すみません。
正しい生活リズムないし睡眠リズムを手に入れられる日は来るのでしょうか。




