第3話 次元管理局について
――――――――――――
「ヴァリアント王国直属の3大組織のうちの1つ、『王国治安維持総局』。代表は王国設立者の1人であるトリアモート・レウン・ライニングとされている。」
「トリアモートが組織を細分化した。そのうちの1つが最近設立された『次元管理局』。ちなみに正式名称は『次元異獣対処局』。その局長がこの私ニーナだね! そこそこ偉いんだよ!」
先程の真面目な態度からは考えられないようなドヤ顔を決める。
その顔からニーナの隠しきれないお茶目さを、藍は感じとった。
「大まかにはわかりました。その次元管理局……? は何をする組織なんですか?」
その瞬間ニーナは立ち止まり、真剣な眼差しで藍を見つめ、左手で小さなひし形の次元を作り出す。
次元は異様なほどに黒く、すべての光を飲み込んでしまうのではないか、と錯覚してしまうほどだった。
「この世には2つの次元がある。1つめは魔術で生み出すことができるこの黒い次元。私の場合は特化能力だけどね」
「2つめは気味が悪いほどに明るい赤とオレンジが斑らに混ざり合った異空間。その名も『異獣空間』」
「私たち次元管理局は『異獣空間』から這い出でてくる化け物『異獣』を対処しているの」
ニーナは小さな次元を握りつぶし、次元はそのまま離散する。
クルッと藍の方に振り向くと左に巻かれた小さな縦ロールがニーナに合わせて揺れる。
「さて、他に聞きたいことはあるかな?」
ニーナの説明でただ1つ、理解ができない単語があった。それは『特化能力』。
藍は特化能力がどういうものなのかを考えようとしたが、どうせ目の前に博識者がいるのだから考えるだけ無駄だと、そのまま素直に聞こうとする。
「『特化能力』ってなんですか?」
「あ〜それはね……」
ニーナは俯き小さな縦ロールを左手でいじりながら「うぅー……」と目を固く瞑り、唸り声を上げる。少し待った末に、ニーナは答えを出したのか、口を開く。
「いまは……いいかなぁー? 魔術とかを使うのは基本軍人だけだしぃ……」
少し気まずそうに「あはは」と作り笑いをして、再び歩き出す。
先ほどのような和やかな空気感は消え、気まずい空気が漂う。
教えられないのか、教えたくないのか、はたまたどちらでもないのかは藍にはわからなかった。このままわからない状態でいるのもなんだかモヤモヤしてくる。
特化能力と魔術の関係性、そしてそれらがどう軍人というカテゴリーに関係するのか脳をグルグルと回転させ、頭が痛くなる。
結局、何ひとつ紐解くことができずに、ただただ頭が痛くなっただけだった。
――――――――――――
ニーナがどこへ向かい歩いているのかはわからない。ただ無機質で不気味な廊下を歩き続ける。2人の間には会話はなく、藍は気まずさを感じていた。
「ついたよ」
そういい、ニーナは白く重量感がある扉を開ける。その先には無機質な廊下とはうって変わって、色々鮮やかで賑やかな食堂。
「ようこそ! 食堂へ! ちょうど今はみんな訓練中で人が少ないから、今のうちにご飯を食べようと思ってね!」
ニーナは藍の手を引き、カウンターまで誘導する。
カウンターには少し年老いた女性や男性が忙しなく調理をしていた。ある人は大きな木ベラで鍋をかき回し、ある人は大きなボウルに切った野菜を積み上げていた。
忙しない中ある老婆がこちらに気付き手を止め近づいてくる。
「おやまぁ、いらっしゃい! 今日はどうしたのぉ?」
「早めに食事をいただきたくて!」
「あらっ! 今は準備中でねぇ……和食しかないんだけどそれでいいかい?」
「藍は大丈夫?」
ニーナは振り向き、首を傾げて確認をする。
和食といわれても、そもそも味がわからない。だけど不思議と嫌な感じはしない。
「大丈夫です!」
そう快く返事をした瞬間、後ろから地を震わせるような叫び声が聞こえた。それが人ではない何かなのは間違いない。
藍は驚き咄嗟に後ろを振り向く。目に映ったのは赤とオレンジが斑らに混ざり合ったようなひし形。
――もしかして異獣空間!?
「伏せて!」
ニーナは片手で藍の体を床へと激しく叩きつける。冷たいタイルが頬にあたり、痛む患部を冷やしてくれる。揺らぐ視界の中なんとか状況確認をしようとあたりを見渡す。
異獣空間からは3体のおぞましい形をした化け物もとい異獣が這い出でてくる。異獣は灰色の体に龍のような尻尾、背中には棘のようなものがラインに沿って生えていた。
異獣によって体は所々違い、頭が歪んでいたり、足の長さがバラバラになっていたり、体全体が溶けたような異獣もいた。
「グラビティ・エッジ!!」
ニーナがそう唱えると白く発光した三日月型の刃が複数現れる。光の刃は熱を持っているのか、周囲の空気が少し暑くなったような気がした。
片手を勢いよく前へと突き出し、それと同時に光の刃はそれぞれの異獣に向かって飛んでいく。
光の刃は異獣の胸を貫くと、焼けているのか、シリコンが焦げたような異臭がする。
異獣は怯むことなく本能のまま襲いかかる。
「オーロラベール!!」
3体の異獣を囲むように虹色の透明な壁が現れる。
だが異獣たちは臆することはなく、壁に体をぶつけ、無理やり割ろうとする。壁は徐々にヒビが入り、あまり持たないことを藍は察してしまう。
「あはは……これはちょっとまずいかな」




