4話 ?¿ ?藍の守護者¿ ?¿
「みんな! 今のうちに逃げて!」
藍を抑えていた片手を放し、両手を突き出して力むと「オーロラベール」と唱え、障壁を2重、3重……と何層も重ねていく。
ニーナの掛け声に合わせて、偶然そこに居合わせた一般隊員たちが避難誘導を始め、調理員たちは隊員に従う。
ただ1人の少女を除いて。
「藍!! 早く逃げて!」
だがニーナの声は藍には届いていなかった。呼吸が乱れ、冷や汗が垂れる。体温は異様なほどに上がり、思考がままならなくなる。藍は死を身近に感じ取ってしまいパニックになっていた。
「藍! 藍!」
その瞬間、床には人ひとりを簡単に飲み込めそうなほどに大きな次元が現れる。藍は次元の中に落ちていき、視界は大きく揺らぐ。
「へ?」
最後に聞こえたのはニーナの唖然とした声だった。
次元を通り抜け、ふかふかの白いベッドに放り出される。なんとか受け身を取り、その場に座り込む。
揺らぐ視界をなんとか抑え、辺りを見渡す。丸い椅子に鉄の机、桃色の医療用カーテン。そして椅子に座る茶髪の女性。
そう、ここは医局。慌てた様子で駆け寄るカレンは藍の状態を察したのか、両手をかざし魔術をかける。
「アニマシェル」
ドクドクと大きな音で鼓動する心臓と、乱れた呼吸は徐々に落ち着いていく。もうしばらくすると体温も徐々に下がっていった。
「落ち着いたか? 何があった」
「しょ、食堂に異獣が!」
「そうか」
カレンは慌てることなく振り返り、鉄の机へと向かう。机には一本の小さなマイクといくつか並べられたスイッチがついていた。スイッチを押し、マイクの位置を調整し、両手を広げ、机に寄りかかる。
「緊急放送だ。食堂にて異獣空間が発生。直ちに向かえ」
「今誰が戦っているか、わかるか?」
カレンは振り返り、再度状況を確認する。間違っていなければ戦っていたのはニーナだけだったはずだ。
「ニ、ニーナさんです」
「そうか、なら問題ない。アイツが苦戦するのは神級クラスの異獣だけだ」
カレンは少し口角を上げ、藍を見つめる。それが信頼なのだと感じ取った。
神級クラスがどれほどの実力かは藍にはわからなかった。だが神という神々しい字がニーナの実力をなんとなく掴み取らせる。
――――――――――――
ニーナside
「藍! 藍!」
懸命にかける声は藍の耳には届かず、むしろ藍のパニックは増していく一方だった。その瞬間、床に現れた次元が藍を飲み込む。
「へ?……藍!」
ニーナは焦り、次元の中へと飛び込もうとするが、その寸前で次元は閉じてしまう。転けそうになるところを、床ギリギリでなんとか受け身を取る。
――なんで次元が!? やっぱりあの子!
ニーナの意識が異獣から藍へと移ってしまい、魔力で作り上げた障壁が緩み、徐々に離散し始める。
「っ!」
異獣は脆くなった障壁を破り、一直線にニーナへ襲いかかる。後ろはカウンター、逃げ道のないことを瞬時に理解し、慌てて魔術を唱えようとしたが遅い。ニーナは負傷を覚悟し、当たりどころを変えようと体勢を変える。
「大丈夫かい! お嬢さん!」
食堂の扉を開け、横から颯爽と助けに来たツーブロックの青年は、ニーナの同期であり、第1部隊隊長の紫玲紫苑。
通常の片手剣より少し長いバスタードソードを両手で強く握り、
「レイザー・ゲイル」
と唱え、紫苑のバスタードソードにまとわりつくように暴風が吹く。
暴風によって、紫苑の紺色のマントと古代紫色の髪が爆音を立ててはためく。
すぐそばにいるニーナの紺色のスカートと、杏色の髪も激しく揺れる。
「はぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!」
紫苑は金色の目で近くにいる異獣を捉え、暴風と共に異獣の腹に狙いを定めて斬りつける。
バスタードソードが腹を深く切り裂き、暴風が内側から異獣の肉を抉る。
異獣から橙色の体液が吹き出し、紫苑とニーナの軍服や、顔に飛び散る。
異獣の腹はミンチ状の肉片へと変わり果て、異獣の下半身と共に床へと転がり落ちる。
「まずは1体」
紫苑は顔についた体液を拭い、再度戦闘態勢へと入る。
同時にニーナも体勢を整え、紫苑の隣に並び、戦闘態勢へと入る。




