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身分違いとなった貴方と私ーー再び出会うことができるまで  作者: ミソラ


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13/13

二人の居場所

最終話です!

ちょっと短い……

 マルクはやはり王宮に着いた途端に気を失った。気がついた時には王宮内にあるノイエ公爵の私室で、横にはぷんぷん怒りながら目に涙を溜めているアリアがいた。


「……いつも怒ってんな」

「マルクがっ、いつも怒らせるんじゃない………!」

「ごめん……」


 マルクは銃創が膿んで高熱を出し、寝たり起きたりを五日間続けていたらしい。まったく記憶がないが。

 そしてその五日間の間に王宮内で起きていた謀反は鎮圧され、ウジェーヌは牢で裁判を待っているという。国王一家も無事に王宮に帰還されたそうだ。


 マルクはリハビリに励んでいるが左手の握力が戻らない。片腕になろうと片足になろうと、海軍での働きに支障はない。実際、そんな兵士もたくさんいる。


 けれど、マルクは決心していた。


 *


「俺、海軍を辞めようと思うんだ」

「え?」

「俺が海に出たら、アリアは泣きながら怒るだろ?」

「…………」

「ただ、海軍を辞めたら英雄じゃなくなってただ(・・)のマルクに戻ってしまう。だから……」

 アリアは両手でマルクの頬をパンッと挟んだ。

「いいの? 後悔しない?」

「……収入の面で。勲爵士として年金は貰えるけど、その……」

(またアリアに相応しくない男に戻ってしまう)

 

「そうじゃなくて」

 アリアのまっすぐな視線にマルクが目を逸らす。海には危険がつきもので、またアリアを泣かせてしまうだろう。だからといって海から離れてマルクになにができるのか。

 どうしたらいいかわからない。

 

「そういえば」

「……ん?」

「マルクはまだ私のことをどう思っているか言ったことがないわよね?」

「え」

 

 たしかに言葉にして言ったことはないかもしれない。だが態度では示したはずだ。アンベールに身元保障をしてもらいアリアの両親に挨拶した。

「はっきり言葉にして。私のことをどう思っていて、どうしたいのか」

 鍛えられた海軍の男の顔が徐々に赤くなってきて、まるで湯気が立っているようだ。その様を見てアリアは「あはは」と笑った。幼い頃からそばにいて、こんなに赤くなるマルクを初めて見る。

 アリアはマルクの目をじっと見て言葉を待った。


「……俺は、アリアが好きだ。ずっと昔から。守りたかったし、これからも守りたい。……俺の力で幸せにしたい」


 アリアが眩しいほどの笑顔でマルクを見た。


「ありがとう、その言葉が聞きたかった。……私はマルクを幸せにしたい。だから私たち二人がどうすれば幸せになれるかを考えたの」

 アリアが夢見る二人の未来は簡単なものだった。

 

「私もただ(・・)のアリアに戻ればいいのよね」

「え……」


 *


 街のあちらこちらで暴動が起きたため、焼かれたり壊された建物が未だ放置されている。王宮内も陸軍が占拠していた区域は損傷が激しく立ち入り禁止となっているため、今シーズン王宮は閉じられることになった。

 

 アリアの父と兄は王宮の秩序回復のため王都に残り、母とシェリアと子どもたちは一旦領地へと旅立った。

 

 今回の争乱を機に、二人は再びただ(・・)のアリアとマルクとなることを望んだが、それは後回しにされた。

 両親の反対と、兄嫁の「素敵だわ、物語の主人公みたいだわ。でも貴族のままでもあなたたちらしく暮らせるんじゃない? 離籍するのはいつでもできるわよ」という言葉のためだった。


 マルクの方も海軍の方から強く慰留された。この度の混乱の中、マルクは身分の差を超えて国民の求心力となった。

 英雄は簡単に辞めさせて貰えないようだ。


 ただ(・・)のアリアとマルクになるには注目度が高い二人だった。


 街の治安が落ち着いてきた頃、二人は貴族街の端っこに小さな三階建ての屋敷を購入した。もっと小さな家でもよかったのだが、多方面から反対された。一代限りとはいえ勲爵士であり英雄であるマルクと侯爵令嬢であるアリアのため、デュヴァル家からメイドが二人と下男が一人、海軍からは警備員を寄越されて思わぬ大所帯となってしまった。

 二人が思っていた未来とは違う形にはなったが、それもまた現実というものだろう。どんな形であれ二人が一緒にいることが大切なのだから。

 

 家の一階の一部はアリアが仕事をする工房と店舗を兼ねていて、二階と三階が住居だ。マルクは結局海軍を辞めることはできず、内乱後ガタガタになった王国軍内部を立て直すため要請され、王宮と軍港に出勤している。

 王宮では次期宮内大臣となるアリアの兄ロイクと軍の橋渡しをし、軍港では鬼上官として士官候補生を鍛えている。

 

 現在、国王軍元帥は気心の知れたアンベール、軍務大臣はその父のノイエ公爵なので『辞めてやる』という言葉とは裏腹に充実しているようだ。

 マルクには言えないが、この先もずっと海軍を辞めることはないだろうな、とアリアは思っている。マルクはなんだかんだ艦と海が好きなのだ。


 *


 数年が過ぎた。

 アリアは得意な刺繍の腕を活かし、オリジナルの図案を作って仕事を請け負ったり教室を開いたりしている。マルクは予想通り海軍を離れることはできず、現在は戦列艦の艦長として海に出ている。


 マルクが海に出て行くたび、アリアは心配でたまらないが『そういう人を好きになったんだ』と笑顔で送り出すようにしている。

 そして夜は祈り、無事に帰ってくれば笑顔で出迎える。


 内乱は鎮圧されたとはいえ、くすぶる不穏な空気は疑心暗鬼を起こす。今でも年に数件、小さな火種が起こる。

 何度か英雄の妻であるアリアの周囲もざわついていたが、現在では清廉潔白であり王宮の中枢と軍の上層部とも緊密な関係を築くマルクの存在が跳ね除けていた。

 そしてなによりも、アリアが自ら下町に買い物に行き、街の人たちに受け入れられていることで堅固に守られていた。


 家の前の緩やかな坂を海に向かって下れば、かつて住んでいたランドール王国の下町によく似た町に出る。懐かしさを感じる港町でアリアとマルクは自分たちの居場所を作り上げたのだ。


 *


「見てマルク。立派なカブでしょう? ジルさんに貰ったの」

「でけぇな」

「スープにしてもいいし焼いてもいいわね。大人用は塩漬けの豚肉と焼いてもらいましょう」

 アリアはメイドにカブを渡した。

 

「柔らかく煮て潰したらアンリは食べてくれるかな?」


 小さな屋敷の窓から、淡い光が漏れ出している。

 落ち着いた色合いの居間にはテーブルとソファと暖かな暖炉。窓辺のロッキングチェアには新聞を持ったマルク。その横に置かれた小さなベッドには小さな命。

 柔らかな金色の髪とスモーキークォーツのような澄んだ黄灰色の瞳の男の子。


 *


 教会に併設された孤児院の壁際で、男の子と女の子が並んで佇んでいた。


 もう寂しくないね

 うん、もう寂しくない


【終わり】

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