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『1魔貨の聖騎士 ― 自分を1魔貨と定めたCEOを、悪魔は契約で管理する』  作者: 暮夜すと
【シーズン2:本決算発表会編】Q1

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『不夜城の除夜:偽証の代償』③

第3部:自動化された神罰


 十二月三十一日。二十三時三十分。


 執務室の静寂を破り、レオンの魔導端末に無機質な通知が跳ねた。


『資産純増 +5.2%』 


 画面に踊る数字は、年越しに浮かれる世界の喧騒を嘲笑うかのように増え続けている。

 レオンとマルヴェイが開発した自律型精霊演算回路は、休息も倫理も不要だ。

 世界中のニュース、SNS、財務データ、バルナザールの秘密チャット――あらゆる情報を貪り、解析し、軍資金を安全かつ残酷に逃がす。アメリアの聖域からの余剰魔力も、システムは冷徹に換金し資金に変える。


「……十億魔貨? いい、端数は精霊に処理させておけ」


 通信相手に指示だけ投げつけて、レオンは画面に視線すら向けず、端末基盤を叩く。

 金、情報、法、そして他者の感情。

 そのすべてを自動制御下に置いたレオンは、もはや一企業のCEOではなく、運命をプログラムする神の領域に足をかけていた。


-- 


 放置しすぎて冷えた珈琲を啜ったあと、机の引き出しから四角錐の黒い魔法石を取り出す。四角錐の黒い魔法石を両手で覆い、瞼を震わせて目を閉じる。


 ■ 基幹資産『アメリア』:生体同期ログ(Vital Synchrony)

 [体温:36.4℃ / 魔力残量:98.3% / 精神波形:安定]


 閉じた瞼の裏に映るアメリアのログは、無事を知らせている。

 アメリアは今や「人類共有のエネルギー源」だ。

 一月一日、世界中の人々が「新年の祈り」を捧げ、魔力消費がピークに達する。

 今頃アメリアは二四時間最大稼働で世界中に魔力を供給する「ハブ」として、施設の奥で光り続けている頃だろう。

 レオンの任務はインフラの管理者として、アメリアの「出力」が安定しているか、投資家たちに「新年の安定稼働ログ」をリアルタイムで配信し続けなければならない。


 除夜の鐘が鳴り響く直前、端末を操作し続けていたレオンは一瞬だけ手を止め、アメリアの「瞬きの暗号」を受信する。

 瞬きのように明滅する端末の光。


 ――『私は、ここにいる』


 短くも確かな生存報告。レオンも同じく隠しログを送信した。


(……アメリア。あと一分で、私たちの『選択の新年』が始まる) 


 レオンが深く椅子に背を預けると、すぐにヴァルプスが気遣うように寄り添った。

 ヴァルプスはレオンの手を、自分の両手で包み込む。


「レオン……あけましておめでとう、ございます」


 ヴァルプスが掠れた声で囁き、縋るように力を込めた。

 自由を得たこの地獄の年末を、レオンの側で生き抜いたのだという確信に、ヴァルプスの顔はすこしの不安と、誇りが滲んでいた。


「……ああ。 おめでとう、ヴァルプス」 


 自律型・精霊演算回路は金を稼ぎ続け、書類は完璧に整理された。そして叔父に相対するための舞台装置が確実に整いつつある。


 午前零時。 

 新たな年の幕開けを告げる鐘の音とともに、レオンの「地獄の年末」は幕を閉じる。

 バルナザールからのpingが一瞬、止む。


「除夜の鐘の音さえ、新たなシステムの稼働音にしか聞こえない……」


 繋いだ手の温もりを離し、レオンはゆっくりと立ち上がった。 その顔には、数日間の疲労を微塵も感じさせない、狂気のような透き通った笑顔が浮かんでいた。


「さて――仕事の続きをしよう」


※本作は、noteにて先行公開していた記録(ログ)のアーカイブ版です。

※2026/05/18 大幅修正をしました。

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