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『1魔貨の聖騎士 ― 自分を1魔貨と定めたCEOを、悪魔は契約で管理する』  作者: 暮夜すと
【シーズン2:本決算発表会編】Q1

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『書き換えられた聖域 』②

第2部:不夜の爪痕


 十二月二十七日 十四時。


 白鏡宮。

 リアクター・ルームの扉が開くと、低く一定の駆動音が空気を震わせた。

 光は白すぎて、影の輪郭をすべて削ぎ落としている。


 レオンは一歩だけ足を踏み入れ、立ち止まった。

 この部屋では、立ち位置も呼吸の深さも、すべてが記録される。


 ――見られている。


 その事実を確認してから、彼はゆっくりと歩き出した。


 中央制御台の向こうで、アメリアは白い長椅子に身を預けている。

 白い金属と光に囲われた姿は、祈る聖女にも、分解待ちの装置にも見えた。


 彼女の視線が、レオンの胸元に落ちる。

 整えきれていない襟。

 失われたネクタイピンの跡。

 そして――わずかに残る、甘く乾いた、誰かの手の匂い。


 アメリアの指先が、ほんの一瞬、震えた。

 レオンはそれを見たが、何も言わない。

 ただ、彼女の首元へと手を伸ばす。

 その動作は、監視用モニターに映る角度を正確になぞっていた。


「……出力は、安定しているね」


 レオンの声は、極北の氷海のように冷たい。

 監視モニターに映る――「傲慢なCEO」と「静かなリアクター」という構図を、彼は完璧に保ったまま、制御デバイスへ指をかけた。

 アメリアの瞳が激しい嫉妬と困惑で揺れ、魔力波形も乱れ始めた。

 渦巻く感情が魔力波形を乱し、警告音が一段高く鳴り響いた。

 その瞬間、遠く離れたラボで、マルヴェイが恍惚とした表情でエンターキーを叩く。


『……閣下。今、世界からこの十分間を消してあげよう』


 監視モニターの映像が、コンマ一秒の違和感もなく、以前の録画データへと差し替わる。


「――今だ。アメリア」


 レオンの指先が、生体認証ポートを強く押し込む。

 冷酷なCEOの仮面が微かにずれ、一瞬だけ、切実な共犯者の瞳がアメリアを射抜く。


「……いいかい、アメリア。

 私が倒れた瞬間――それがお前の合図だ」


 声を、ほんのわずかに落とす。


「私という『資産』を、バルナザールから強奪してほしい。

 世界が君をなんと呼ぼうと、君こそが、私の魂を買い取る唯一の執行人エグゼキューターだ」


 首筋から流し込まれる『光のマスターキー』の衝撃に、アメリアの背が大きくしなる。

 データという名の情熱が、二人の間で激しく還流する。

 それは、魂を切り売りしてまで手に入れた、唯一無二の反逆の種火だった。


 ハックが終了する直前、レオンは突き放すように手を離す。

 視線は、合わせない。


「あとで、問いますからね」

 

 ぽつりと言ったアメリアの言葉に、レオンは視線を揺らせた。


「……すまない」


 マルヴェイの手によって、アメリアの瞳に溜まった涙は即座に

『冷却システムの結露による液体飛散』

という無機質なエラーコードへ変換され、バルナザールの端末に送信された。


--


 深夜。執務室に戻ったレオンは、独り琥珀色のグラスを傾けていた。

 鏡に映るのは、マルヴェイに過去の記憶の一部を渡し、アメリアの嫉妬を煽り、自らを切り売りして作り上げた「完璧な虚偽」の姿だ。


 レオンは自分の唇をなぞりながら、目を伏せた。

 十月の「死」の儀式。その先に待つ、別の檻。 自由を手に入れるために、自分という存在を粉々に砕いて、敵にも味方にも分け与える。


「……間違って、いないよな?」


 グラスを飲み干す。

 十二月二十八日の朝を見据える。

 レオンは静かに、闇の中で次の「仕事」へと思いを馳せた。


※本作は、noteにて先行公開していた記録ログのアーカイブ版です。

※2026/05/18 大幅修正をしました。

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