『コンサルティング・デビル 』①
第1部:変装の王
一二月二六日、午前七時。
霧歪む朝は、街全体が異様な静寂に包まれていた。
昨夜までの狂乱の残響は、雪とともに吸い込まれ、通りには人影も足音もほとんどない。
レオンは歩きながら端末を操作し、世界情勢を確認する。
彼の総資産は、もはや「個人の貯金」などでは計れず、一国の国家予算や巨大プラットフォーマーの時価総額に匹敵した。
公式に動けば、市場は「裏で繋がった」と誤解し、アメリアの公共資産としての清廉な価値を揺るがすことになる。
だから今、レオンは「王」ではなく、影で行動する存在である。
隠蔽魔法で角を隠し、黒い眼鏡と地味な黒スーツ。隣には、同じく角を隠した灰色のスーツ姿のヴァルプス。
表向きはどこにでもいる「監査役」に変装している――バルナザールに接触する口実として、これ以上に都合のいい立場はない。
周囲数百メートルは、ドローンや魔導衛星、潜伏する警備スタッフにより厳重に監視されている。
本来ならば、これほどのリスクを冒すべきではない。しかし、やるべきことは決まっていた。
徹夜明けにもかかわらず、レオンの顔色は整い、透き通っていた。
「……逃げなかったね」
ぽつりと、ヴァルプスが呟く。名前は出さなかったが、二人の頭に浮かんだのは同じ男の顔だった。
重厚なオーク材の扉の前でレオンは足を止める。
「……あと五八分」
ヴァルプスが袖を払って時計の文字盤を冷たく叩く。
この一時間が、バルナザールの全人生を精査する最後にして唯一の猶予だった。
「確認に、行こうか」
レオンの声には、勝者の慢心も救済者の慈悲もない。
ただ、滞った勘定を締めに行くだけの、冷徹な執行人の響きがあった。
扉の向こうでは、破産予定者がまだ自分を“選ばれる側”だと思い込んでいる――
それで十分だった。
※本作は、noteにて先行公開していた記録ログのアーカイブ版です。




