第81話:『昇華 ー 01/23 12:00 執行開始』
第7部:昇華
十二時
株価が底を打ち、メイの買い戻しが完了したその瞬間、グリッチ・ピクセルの指が「仕上げ」のエンターキーを叩いた。
「――さあ、世界を騙そうか。
真実を、美しい物語に書き換えてあげる」
ピクセルが全世界に放流したのは、一通の「声明」と、マルヴェイが加工した「神々しい映像」だった。
ピクセルの瞳に、世界中のTLが「反転」していく光景が映る。
「……あはは! 見てよ。先刻まで石を投げていた連中が、今はパンを握りしめて泣いている。
『レオン様は自分たちの空腹を救うために、あえて道化になって既得権益(株価)をブチ壊したんだ!』だって。
……人間って、本当に安い物語が好きだよね」
ピクセルの指先一つで、世界は「救済」という名の集団催眠に落ちた。
一階では、パンを頬張る暴徒たちが「……魔力が……満ちていく……これが王の慈悲か……」と、脂ぎった口元を震わせて祈りを捧げ始めている。
「うんうん!すごいごはん(インプレッション)が集まってる!味もいいね」
ピクセルは無表情にホログラムモニターを見つめるレオンの肩に飛び乗り、耳たぶを甘噛みするように囁いた。
「見てよレオン様。
君がひと口パンを噛んだだけで、世界のトレンド(欲望)が書き換わった。
……気持ちいいね。君の『虚無』が数億人の『希望』にダウンロードされる感覚!」
彼は空中に浮かぶ「批判的なコメント」を、指先でパチンと弾いて消し去る。
「『嘘』が『救済』になる瞬間こそ、情報の錬金術の極致だよ。
……さて、メインディッシュ(13:00の爆上げ)の前に、ちょっとだけ隠し味(バズの追い風)を仕込んどくね。
……あはは、最高に美味しいや!」
ピクセルは白い牙を剥き出しにして笑った。
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静まり返った法務部で、メイは軽く眼鏡の位置を調整する。
「……吐き気がするほどの詭弁ですね。
ですが、買い戻した株の含み益が、今の爆上げでルテティアの国家予算を越えました。……法理的には、これが『正義』です」
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「……ボクは、パンを配れと言っただけだ。
……聖体拝領など、不敬にも程があるぞ!
……だが、……レオンの背後に、確かに光が見える……」
ホログラムモニターの群れの前で、ヴァルプスは金色に輝くレオンを見つめ、片膝をついて顔を伏せた。
市場が咆哮した。
「暴落」という名の死の淵から、アルジャン・ブルーのグラフが、獲物を狩る龍のような角度で垂直上昇(V字回復)を開始した。
社内魔導チャット『レトス』:ログ抜粋
【12:00 - 13:00:神話への反転】
シス基L1: 12:00ジャスト。外線復旧。株価、前日比12%で着地。
シス基L2: サーバー、爆発寸前でしたね。お疲れ様でした。
CISO: ご苦労。1階のカフェテリアで一番高いコーヒーでも飲んでこい。私が「ログ」を消しておくから。
社員A: 株価プラス回復。「黄金のレオン」が再定義された。
社員B: どて焼きは「現物資産担保」の象徴だったんだ。
社員C: 彼は天才じゃない。……神だ。
社員D: 信じてた。




