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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第80話:『収奪 ー 01/23 11:30 執行開始』

第6部:収奪

 

 

 事務所の重厚な石造りの壁を突き抜け、外から「暴動」の怒号が響き渡る。


「レオンを出せ!

 俺たちの資産をパンの脂に変えたペテン師を引きずり出せ!」


 一階の社員食堂「ラ・フォンテーヌ」や広場前では、どて焼きを食っていた野次馬と、全財産を失った投資家たちが入り乱れ、カオスな地獄絵図が完成していた。

 事務所の外壁が、投資家たちの怒号と物理的な石礫いしつぶてで振動し始めるなか、金本が呼んだ業者のトラックが事務所の前の広場に列をなしていく。


 ド・ラ・ノワール事務所、管理官室では、警備と連携して搬入経路を確保し、保健所の許可(魔導保健局)を確認し、現場を仕切る対応に追われていた。


 『――こちら――ヴァルプス!

  外界とは隔絶されたが、一階の「パンの行列」が物理的な防壁バリケードとして機能している!

  投資家どもはソースの匂いで戦意を喪失中だ。警備兵、現在の位置を維持しろ!』

 

 ヴァルプスは、十幾つもの通信ウィンドウを空中に並べ、オーケストラの指揮者のように指を走らせていた。

 ヴァルプスの隣の秘書が「CEOは現在……その、金ピカになってハートマークを射出する公務の最中です」と、死ぬような思いで嘘をついている。


「……四階、警備兵舎! 一階のデモ隊に催涙弾は使うな! 弾薬コストに対して鎮圧のROIが低すぎる!

 代わりに、さっきCEOが承認オートパスした『1魔貨パン』の一億個の在庫を、焼きたてから順にバラ撒け!」


『……は? ヴァルプス閣下、聞き間違いでしょうか。

 「パン」を……装填リロードしろと?』


 通信機の向こう、四階の防衛ラインでは、フル装備の警備兵たちが呆然と立ち尽くしていた。彼らの手元にある重厚な「広域鎮圧用ランチャー」の弾倉には、本来なら催涙ガスやゴム弾が詰まっているはずだった。


「聞こえなかったか! 揚げたてだ! カロリーで暴徒の機動力を削げ! 食わせてる間に包囲を完了しろ。

……ええい、喉に詰まらせるなよ、訴訟リスクだ!」


『了解……。「1魔貨パン」、全門装填。

……おい、安全装置セーフティを外せ。……いや、トングで掴むな、射出機に入れろ!

ターゲット、一階ロビー、暴徒の口角を狙え!!』


 シュバッ、という風切り音と共に、事務所の外壁から「焼きたての凶器パン」が次々と撃ち出される。直後、殺気立っていた怒号が「アチッ!」「……待て、これ……モチモチしてるぞ!?」という困惑の声に上書きされていった。


 けたたましく鳴る内線。ヴァルプスは肩と耳で魔導端末を挟み、別のログも同時に処理する。


「はい、秘書室……。ええ、メイ先生。

 はい……はい、CEOが承認しました。ええ、……もう、好きにしてください」


 レオンから少し目を離した間だけで、こうなるとはヴァルプスは思ってもいなかった。

 父親の手先と疑っていた弁護士と連絡を取り合いながら、処理できることから手をつけていこうとするが、レオンが承認印を刻むたび実務が増えていく。


 天井のすぐ向こうにあるじはいる。だが、今のレオン様は1魔貨のパンを咀嚼するだけの『承認機械』だ。この一二階へと続く最短の距離が、今は冥府への境界線よりも遠く感じられた。


 足元の透過床――狭間のサーバー室からアルトの涼やかな声が響いた。


『ヴァルプス殿。心拍数が140を超えていますね。非効率な動悸です。鎮静用のパッチを当てましょうか?』


「……黙れ、エルフ!!

 ボクは今、主さまの尊厳と世界経済とパンの配送ルートを、この『1魔貨』の予算内で同時に守っているんだ!!」


 ヴァルプスが叫ぶのと同時に、一階からはパンを貪り食う暴徒たちの「……美味い、これ……」という、拍子抜けしたような感嘆の声が警備通信越しに漏れ聞こえてきた。 


「……パンの脂(ROI)がついに怒号コストを上回ったぞ」


--


 市場がパニックに陥る中、メイ・D・アイアンの指先が冷徹にキーを叩く。

 暴落した株を、メイが裏でレオンの個人口座バックドアを使って猛烈に買い戻し始める。


 モニターに映るレオンの金ピカの姿を見つめ、メイは薄く笑った。


「……0点。でも、市場のパニック指数(VIX)は100点ね。

 あなたが金色の道化ピエロとして死んだ目で踊る1秒ごとに、あなたの個人資産は十億魔貨ずつ増殖しているわ。

 ……さあ、世界中の『恐怖』を、1魔貨単位で買い叩いてあげる」


 メイは吠えたくなる気持ちを抑えて通信機に手を伸ばした。


「ヴァルプス管理官、完了しました。あとは……世論バズの反転を待つだけです」


『了解した、メイ先生。……あとの汚い仕事プロパガンダは、あの広報の羽虫に任せましょう』


 メイの打鍵音と、ヴァルプスの怒号。二つの異なる「規律」が、暴落という濁流の中で一つの堤防を築き始めていた。


社内魔導チャット『レトス』:ログ抜粋


11:30:【メイの逆襲(自社株買い開始)】

社員B: ……待て、底値で凄まじい買いが入ってる。

これ、CEOが自ら「道化」を演じてパニックを演出し、浮動株を一掃する『焼却バーン作戦』じゃないか?

社員C: なるほど! あえて恥を晒して短期投資家を振り落としたのか。深い、深すぎる……!


シス基(主任): 全演算リソースを11.8階へ転送完了。現在、地下1階は「論理的沈黙」を維持。



 

 

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