第78話:『墜落 ー 01/23 11:00 執行開始』
第4部:墜落
A.I.D.A.の機械的な承認音が、十二階の静寂に規則正しい穴を開けていく。
金本が残したソースの匂いと、アルトが透過させた床下の冷気。そのカオスな境界線に、極彩色のノイズを纏ったグリッチ・ピクセルが滑り込んだ。
「レオン様。これからの時代、経営者の『顔』は最大の資産です。
SNS用の次世代視覚演出、テスト運用しても?」
「……ピクセルの、好きなように。
……テスト承認」
レオンの声には、もはや一ミリの熱量も残っていない。その虚無を、ピクセルの指先が冷酷に「バズ」へと変換していく。
「黄金のホログラム、オーバーレイします。
蓬莱の成金趣味を皮肉る、最高にパンキッシュな演出ですよ。
……いいですか?」
「……承認」
「ついでに、大衆への『愛』を。
ハート型のエフェクト、指先の動きに同期させます。
……いいですね?」
「……承認」
レオンの死んだような指先が、空中で不格好なハートをなぞる。
その瞬間、彼の端正な輪郭は、悪趣味なほどに輝く黄金の光冠に包まれ、無数のピンク色のハートが空間を埋め尽くした。
蒼銀の騎士は、一瞬にして「金色の道化」へと変貌を遂げる。
「完璧だ! これこそが『神の受肉』だよ!
……レオン様、最後に一つだけ。この演出が『生きた人間』に耐えうるか、世界規模のネットワーク負荷テスト(SNS投稿)を。
……よろしいですね?」
「……承認」
レオンは無感動に承認サインを宙に刻む。
ピクセルの指が踊り、最後の一打が放たれた。
十一時。
#CEO稼働ログ
#L'Éclat基金
#LEON_KAWAII
そのタグと共に、金ピカでハートを作るレオンの姿が全世界の網膜に焼き付けられる。
A.I.D.A.のホログラムが、レオンの背後で狂ったように数値を更新し始める。
11:00 CEO試験運用開始(SNS射出)
┌───────────────────────────┐
│ TIME │ SNS-BUZZ │ INDEX(AJB)
├────┼──────┼──────┤
│ 11:00 │ ▒░░░░░ 10K │ ↘︎ 98.2
│ 11:01 │ ▒▒░░░░ 150K │ ↘︎ 85.5
│ 11:02 │ ▒▒▒▒░░ 2.0M │ ⬇︎ 60.1
│ 11:03 │ ▒▒▒▒▒░ 15M │ ⬇︎ 32.4
│ 11:04 │ ▒▒▒▒▒▒ MAX │ ☢︎ LIMIT-LOW
└───────────────────────────┘
(※AJB:アルジャン・ブルー指数。11:04にストップ安を記録)
SNSの拡散量を示すグラフが天井を突き破るのと引き換えに、アルジャン・ブルーの時価総額は数千億魔貨の単位で蒸発していった。
「騎士」が「道化」として消費される。そのコストは、一国の国家予算に匹敵した。
五分後。
市場はこの「狂気」を、アルジャン・ブルーの破滅と定義した。
社内魔導チャット『レトス』:ログ抜粋
【11:00 - 11:04:尊厳の垂直落下】
秘書室: CEOが全身24Kで発光、羽虫とハート作ってます。ロビーでは臓物が煮込まれています。
社員A: 新しい光学迷彩のデモンストレーションか。
広報デスク: 尊厳スコア垂直落下中! インプレッションは過去最高。プレスリリースどう書けばいいの?「神(成金)へアップデートされました」でいい?
法務部: メイ先生から「全奇行を蓬莱との戦略的協定として登記せよ」と無理ゲー指示。天井見つめてます。
社員B: 株価が垂直落下してる。これ、全資産投売りの合図だ!
一般エンジニア(運用): 金ピカホログラムの「成金ノイズ」で帯域が死んだ! 仕事にならない! CEOが承認したから、このノイズを消せない! 助けてマルヴェイさーん!
シス基L1: @一般エンジニア 騒ぐな。帯域の優先順位(QoS)が12階に全振りされているだけだ。仕様だ。諦めろ。
CISO: うるさい。帯域が足りないなら、自分のフロアの空調ログでも削れ。焼き切れるまでが業務だ。




