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『1魔貨の聖騎士 ― 自分を1魔貨と定めたCEOを、悪魔は契約で管理する』  作者: 暮夜すと
Q4

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『薪の香りと黒い通知』②

第2部:一世紀半の負債と、一杯の雑味



「……座れ。なにか適当に見繕ってきてやる」


 セリオンはそう言って、カウンターの奥に消えた。 レオンはミッドナイトブルーの重厚なジャケットを丁寧に脱ぎ、椅子の背にかけた。


 レオンはカウンターの前で両手を組み、静かに目を閉じる。

 薪が燃える音と炭の香りはどこにあっても同じはずなのに、いまのレオンにはとても大切なものに感じた。


 やがてセリオンは湯気の立つ木皿をレオンの前に置いた。

 無骨な木の椀に根菜と干し肉の煮込みが湯気を立てている。混ぜられた薬草の力強い香りが、以前より鋭敏になったレオンの鼻腔をくすぐった。

 椀の横には黒胡桃のパンが添えられている。手に取るとずっしりと重く、千切ってみると香ばしい匂いが溢れ出した。

 レオンは煮込み料理を丁寧に口の中に入れ、一口一口を噛みしめる。


 邸宅で出される「完璧な数値の食事」にはない味がする。

 最近のレオンにとって、食事は「エネルギー補給」という経営タスクでしかなかった。


「おいしい……」


 暫く咀嚼し、ゆっくりと嚥下したあとレオンは呟いた。

 この喉を焼くような食事は、鈍っていたレオンの感覚を呼び戻す。


 現世のタブレットの中では、この瞬間もレオンが「非情な経営者」として動かしている。しかし今、この木の椅子に座っているのは、ただ腹を空かせ、懐かしい味に目を細めるひとりの男だった。

 目の前に出された料理をすべて食べ終え、レオンは絹のハンカチで口を拭う。

 レオンは何度か瞬きを重ね、カウンターの木目の上で視線を泳がせた。


 ふと端末の通知を見るとオスカルからの連絡が入っていた。


『第一配当、確認した。

 決算の日は、観測させてもらう』


 レオンは努めて冷静に息を吐き、手首に手を当てた。

 自分の立場を自覚し続けなければ、誰かを傷つける引き金になる。


「……ヴァルプス」


 褐色の肌に絡みつくような、細い網目を含んだ黒銀の腕輪に魔力を流しこむ。そうして、レオンは目を閉じた。


 宿の扉が再び開かれ、来客が吹雪と共に現れる気配がした。


※2026/05/20 大幅修正をしました。

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