第66話:『不完全な武装解除ー 01/22 03:30執行開始』
第4部:不完全な武装解除
一月二十二日 三時三十分
防御結界を解き、マルヴェイを地下へと帰したレオンは、音もなく寝室の扉を開けた。
室内には、スリープモードへ落とされたヴァルプスの、重く安定した呼吸音だけが満ちている。
レオンは、バルトロメに蹂躙され、マルヴェイに毒を流し込んだ自らの掌を見つめた。
そこにはもう、震えも、汚れも、バルナザールの残り香も存在しない。
ただ、世界を欺くための「沈黙」だけが、皮膚の裏側に張り付いている。
レオンは上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて寝台の端へ放った。
カフスボタンを外す指先が、わずかに躊躇う。
全てを脱ぎ捨てるのは、今のレオンにはひどく億劫な作業に思えた。あるいは、この身体の管理権を持つヴァルプスへの、小さな嫌がらせか。
レオンはシャツのボタンをいくつか外し、その褐色の胸元を晒した。
スラックスは穿いたまま。ミッドナイトブルーの正装と、バルナザールに冷やされた肌。
その不完全な武装解除のまま、レオンは重たいシーツの海へと沈み込んだ。
ヴァルプスを起こさぬよう、慎重に身体を横たえる。
冷え切った身体が、ヴァルプスの独占的な熱に触れる。
途端に、巨躯のアセットが無意識に腕を伸ばし、獲物を囲い込む檻のように、レオンの身体をその胸に抱き寄せた。
「……ん……レオン……」
無意識の呟きに応える言葉を、レオンは持たない。
レオンはただ、ヴァルプスの心拍が刻むリズムに自身のクロックを同期させ、目を閉じた。
傍目には、それはあまりに献身的で、深い情愛に満ちた平穏な光景に見えただろう。
だが、その胸の内で、レオンは昨日の「損害」を静かに確定させていた。
誰にも知られることなく。
※本作は、noteにて先行公開していた記録ログのアーカイブ版です。




