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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第58話:『不純物の同期 ー 01/21 12:05 執行開始』

第4部:不純物の同期ノイズ・パージ


 一月二十一日 十二時五分


 午前中の「原色の暴力(金本)」と「存在の解体アルト」で、レオンの魔力回路は過負荷を起こしていた。

 視界の端で、A.I.D.Aが赤い警告灯アラートを静かに点滅させている。

 レオンは軽く自分の額に指を滑らせた。


「……ヴァルプス。

 午後の商談(顧問)に向けて、一度『同期ノード』での排熱が必要だ。

 二十分、地下へ降りる」


 タブレットを持ちレオンの後ろに控えていたヴァルプスが、音もなく歩み寄る。彼の鋭い視線が、レオンの手指を「検品」するように捉えた。


「……承知いたしました。

 あちらの『備品マルヴェイ』は、貴方の不純なストレスを啜るためだけに存在していますから。

 ……時間内に戻らない場合は迎えに参ります」


 ヴァルプスは頭を下げ、魔導昇降機のセキュリティを解除した。

 その無機質な承認は、逃げ場のない慈悲のようだった。


--

 


 魔導昇降機が地下1階に到着した瞬間、十二階の無菌室のような空気から、重苦しい鉄の匂いへと世界が切り替わる。

 

「……マルヴェイ、いるかい」


 地下第一メンテナンス・ラボの扉を押して隙間に身体を滑り込ませながら、レオンはこそりと囁いた。

 室内は薄暗く、天井にはマルヴェイの私物である対電圧魔法の鈴や布が重く垂れ下がっている。レオンが一度足を止めると、暗がりの奥から、好奇心の獣のような気配が這い出してきた。マルヴェイだ。

 マルヴェイはレオンを見ると口の端を上げて静かに歩いてくる。


「お疲れさま、レオン。

 今日は一段と、低俗なノイズに塗れているね」


 マルヴェイはレオンが纏っている「十二階の清浄な香り」と、その奥に隠された「金本のソースの匂い」を瞬時に嗅ぎ分ける。


「……同期リンクを開始したい。

 受け入れ態勢ストレージを確保してくれ」


「いいよ」


 マルヴェイがレオンの目の前に右手を差し出すと、レオンはその手に自身の手を淀みない動作で重ねた。

 重なり合った掌から、精神的廃熱がマルヴェイへと流れ込む。


 幾度かの試行と損害評価を経て、彼らは同期の常時接続フルタイム・アクセスを廃止していた。

 四六時中ノイズを共有し続ければ、レオンの思考精度が落ちるだけでなく、何より管理官ヴァルプスの監視ログに不自然な「魔力の欠落」を残してしまうからだ。

 今では、接触を合図トリガーとして必要な負荷だけを一括転送する、「オンデマンド・パージ(要求時排熱)」という運用ルールが、二人の間の暗黙の契約となっていた。

 一度「常時接続」を解除し、このオンデマンド形式に切り替えてから、レオンの足取りは、実務上の必要性をわずかに上回る頻度でマルヴェイへと向かっていた。

 それは新システムへの興味と運用への期待――あるいは、自壊衝動に似た何かだった。

 十二階では決して許されない「予測不能なエラー」。それを楽しみに地下へ通う自分を、レオンは「未開発のリソースへの投資だ」と正当化していた。


「……昨日よりも、私のドメインを侵食するのが上手くなったね、マルヴェイ」


 レオンの静かな囁きに応じて、マルヴェイの冷たい指先がレオンの掌の熱を吸い上げ続ける。


「レオンこそ……随分と、接続の立ち上がりが早くなった」


 マルヴェイがレオンの指の隙間に自分の指を絡め、同期の深度を深める。

 僅かに眉を寄せ、耐えるように唇を引き結ぶレオンを見上げて、マルヴェイは淡く微笑んだ。


「……ふふ、いいよ、レオン。君の『困惑』がポートから溢れ出している。

 ……おや、ポケットの中にもまだ、処理すべき『バグ(ノイズ)』が残っているようだね?」


 レオンは掌から伝わる同期の熱にわずかに瞳を潤ませながら、空いた手で個別包装された飴玉を取り出した。


「……これは、商談相手の手土産だ。すごく、甘いよ。

 ヴァルプスには、内緒だ。彼は『不純物』を嫌うからね」


 その言葉を聞いたマルヴェイは、待っていたかのように期待を隠さない瞳でじっとレオンを見上げ、誘うようにその唇をわずかに割る。

 廃棄スロット(口腔)を開放し、主からの「投棄」を待つその姿は、あまりに献身的で、あまりに不純の色を見せていた。

 レオンはマルヴェイと一度手を繋ぐのを中断し、事務的な手つきで、それでいてどこか指先に性急さを孕ませて包み紙を剥いた。


「……食べて」


「……あは。君が直接『パージ(投棄)』してくれるなら、私の回路は最高効率でそれを分解してあげるよ。

 ……さあ、レオン」


 レオンは、自分の心拍数が「興味と期待」という定義を超えて跳ね上がるのを感じながら、マルヴェイの顎を掬い上げた。

 剥き出しの飴玉を、その赤い舌の上へと押し込む。

 指先に触れる粘膜の熱。

 マルヴェイは喉を撫でられて嬉しがる猫のように顎を上向け、目を閉じる。

 機嫌良さそうにレオンの手を繋ごうとしたマルヴェイだったが、そこでラボの重厚な鉄の扉を叩く音が響いた。




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