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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第48話:『聖域の侵食 ー 01/18 14:15 執行開始』

第2部:聖域の侵食


 一月十八日 十四時十五分


 静寂が支配する深層アーカイブ室。

 青白いホログラムが、二人の影を長く壁に落としている。

 重厚な断熱扉が、音もなく背後で吸い込まれるように閉じる。

 瞬間に、ラウンジの冬の陽光は遮断され、視界は「管理された闇」に塗り潰された。


 そこは、レオン・ド・ラ・ノワールというシステムの最深部。壁一面を埋め尽くすのは、規則正しく明滅する青いサーバーラックの列だ。空調が吐き出すのは、塵一つ許さない無機質な冷気。吸い込む息さえも凍りつくようなその空間。時間の流れすら、青白い光に飲み込まれているかのようだった。

 唯一の光源は、レオンが構築したDPA計画(自己消滅)の最終ホログラムが描く、冷徹な幾何学模様だった。


「……落ち着くね、レオン。

ここには『ノイズ』も『体温(お母様)』も届かない」


マルヴェイは、藍色の長袍をひるがえし、冷たいコンソールの端に腰掛けた。スリットから覗く白い脚を軽く組み替え、レオンの視線を誘うように、ゆっくりと指でコンソールを叩く。

翡翠の瞳が、青いサーバーの光を反射して、実体のない幽霊のように浮き上がる。レオンの視線を捉えて離さない。


レオンのA.I.D.Aが異変を察知し、軽いアラート音が響く。


『──警告(Warning)。

 マスター・レオン。

 一月十七日の『休止』で進捗率に4.2%の乖離が生じました』


 青いクリスタル――レオンのA.I.D.Aの浮遊端末――が激しく明滅し、上下に揺れる。まるで冷徹な事務官のように、レオンの失策を淡々と糾弾していた。

そこに、マルヴェイの自律型精霊演算回路ーC.O.L.L.A.T.E.R.A.Lが、赤いノイズを被せながら宙に顕現する。


『ハルシネーション(推論)を提示。

……レオン。このままでは、貴方は管理官の「優しさ」という名の繭の中で、未完のまま窒息シャットダウンします』


「そうだよレオン。

君は昨日、彼に抱きしめられて『安寧』を得たつもりだろうけれど、システムは正直だ。

……君は今、無能なCEOに成り下がっている」


マルヴェイは翡翠の瞳を細めた。


「……だから、リスクを分散させよう、って提案だ」


レオンの心が、理性と本能の間で揺れる。無意識に唇を舐め、指先が軽く震い、視線はサーバーの青い光に吸い込まれた。


マルヴェイの指先が、空中に「単一障害点」という赤いアラートを浮かび上がらせた。


「私を君の『常駐型・同期ノード(分身)』として、今すぐこの場で悪魔に書き換えておくれ。

そうすれば、君がどこに幽閉されようと、私の龍脈パスを通じて君の意志は外の世界と同期し続ける。

……ヴァルプスくんの『独占』を無効化する、唯一のバックドア(救い)だと思わないかい?」


レオンは押し黙る。

自身の「計画」が、ヴァルプスの過保護という名のバグによって停滞した事実は、何よりもレオンの理性を苛んでいた。


「あとね、レオン。

君は私に『絶望』という高価な報酬を払ったけれど、そのせいで私の脳はもう、君なしでは動かなくなってしまった。

君がいつか消える時、長い寿命を残した私を放り出すのは、ビジネスとして『不誠実な投げ出し』だよ」


自分の「誠実さ」が未払いの負債を放置しているという事実に、レオンはマルヴェイを見つめ返した。

マルヴェイの翡翠の瞳が、湿った熱を帯び、レオンの理性の奥深くまで侵入するようだった。





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