第40話:『カウントダウンの送信ボタンー01/15 07:15 執行開始』
第2部:カウントダウンの送信ボタン
一月十五日 午前七時十五分。
青白い朝の光が差し込む前、室内はわずかな灯の光だけが床と机を照らす。
レオンは昨夜のシミュレーションを思い返しながら、プリントアウトされた「DPA計画」の紙を手に取った。
ヴァルプスは傍らで静かに待機し、指先を軽く魔導タブレットに触れたまま、視線をレオンに送っていた。
レオンはわずかに胸の奥でざわつくのを感じながらも、すぐに冷静な目線に切り替える。
レオンは、十日前にA.I.D.Aと眺めた「あの美しいカーブ」を脳裏に再生した。
オスカルへのメール、その末尾にある『送信』の文字にカーソルを合わせる。送信すれば、計画通りに予算が動き出す──自分の想定通りに。
背後でヴァルプスが淹れた珈琲の苦い香りが、昨夜の月光花の甘い残滓を塗り潰していく。それはレオンにとって、私情を切り捨て、冷徹な『機構』へと戻るための儀式のようだった。
レオンは一度、ヴァルプスに目をやり、レオンは微かに口角を上げた。
その微笑みは誰にも見せない、冷徹なCEOの仮面の裏に隠された、静かな勝利の合図だった。
指先で送信ボタンを押す前、レオンはもう一度、モニターに映るグラフを確認する。資産の流動性、リスクヘッジ、利益の最適化──すべてが予定通りに収束している。
「……よし」
小さく呟くと同時に、エンターキーが叩かれた。画面に浮かぶ「送信完了」の無機質な文字。
それはレオンにとって、自分という資産を解体し、十月の消滅へと向かうカウントダウンの開始を意味していた。
背後ではヴァルプスが、影の中で静かに魔導タブレットを閉じ、主の背中を見つめている。
彼が「承認」したのは、レオンの自由ではない。その自由を管理下に置くための「システム」だ。
レオンは目の前の数字と計画に目を戻し、深く息を吐いた。
「……これでいい」
一月十五日、運命の「Approved」に向けた、冷たいCEOの長い一日が、静かに幕を開けた。




