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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第39話:『デジタルな檻の起草ー01/15 5:30 執行開始』

第1部:『デジタルな檻』の起草


一月十五日 午前五時三十分。


ド・ラ・ノワール事務所、CEO執務室。


ポータルを抜けた先の空気は、月光花の甘い残り香を瞬時に奪い去るほど、乾燥し、機能的で冷たかった。

プラベートラウンジのクローゼットを開けて、レオンはヴァルプスをちらりと見上げた。


「……一度、着替える」


「はい」


昨夜、その腕の中で震えていた男は、今はもう鏡の前で、隙のないCEOへと再起動リブートを完了させている。ヴァルプスは静かに、レオンの喉元に指を滑らせた。数時間前、自分が狂おしいほどに求めたその素肌を、今は無機質なリネン生地で塗り替えていく。主の体温が指先に焼き付いている。それを未処理のログとして奥へ押し込む。冷淡な、事務用の微笑を張り付けた。


レオンはヴァルプスを直視しない。視線をわずかに逸らしたまま腕を広げ、着替えを済ませると、小さく礼を言って歩き出した。

執務机の引き出しからバインダーを取り出す。数秒の沈黙ののち、レオンはそれをヴァルプスに差し出した。


「……ヴァルプス。これからこれを叔父上に送る。相談ではない。CEOとしての決定事項だ。

……だが、君は私のバックアップだ。この投資計画に、不備がないか――管理者の目で検収してくれ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


オスカル叔父上


お疲れ様です。

1月も半ばを過ぎ、2月の本決算に向けた最終調整フェーズに入っております。


さて、今期の着地見込みについてご報告です。

アメリア基金の運用益が想定を大幅に上回るペースで推移しており、このまま決算を迎えた場合、法人税負担が過度に膨らむ懸念があります。


そこで、キャッシュを税として流出させるのではなく、来期以降の安定運営に資する戦略的な先行投資として、今月中に一括で損金処理を行う案を検討しています。


■ 投資対象

『デジタル・プレゼンス・アーカイブ(DPA)計画』


■ 目的

CEOの稼働率に依存しないガバナンス体制を構築し、

突発的な執務不能・長期不在時においても、市場および関係各所に対し

「意思決定の連続性」を示し続けるためのインフラ整備。


■ 主な内容(概要)

・高精細映像/ホログラム機材一式

 (対外向けメッセージ・声明を即時展開可能な基盤)

・有事想定下における市場介入シナリオおよび広報資材の事前制作

・バイオメトリクス連動型・意思決定自動化サーバーの構築


いずれもアメリア基金のレジリエンス(復元力)強化を目的としたものであり、

今期中に発注を完了させることで、節税効果と実務的な備えを同時に確保できます。


叔父上。

私はこの2月までに、「私が前面に立たなくともアメリアが回り続ける形」を

制度とインフラの両面から完成させるつもりです。


クリエイティブおよび実装の詳細については私の直轄で管理しますので、

まずは財務上の投資枠の確保について、至急ご承認をいただければ幸いです。


最終的な統制責任が叔父上にある形は、これまでと変わりません。

その前提で進めさせていただければと思います。


寒暖差の激しい折、どうかご自愛ください。


CEO レオン・ド・ラ・ノワール


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ヴァルプスは書類に書かれた内容を読み、僅かに目を細めた。指先で紙の端を軽く押さえる。口の端を歪め、呼吸をわずかに止める。──この冷たい文章の裏に潜む、主人の意志を確かめるためだ。


「どこまでも、独りで消える準備がお上手ですね」


「……資金調達用、だよ」


ヴァルプスはレオンにそっと近寄り、指先を紙に触れたまま、わずかに息を詰めて視線を泳がせる。レオンは一瞬だけ、その熱い視線に胸の奥がざわついた。だがすぐに自分を抑え、計算通りの冷ややかな目線で応えた。

「揺れるのは許されない──すべては予定通りに進めるためだ」と思考を固める。


ヴァルプスの指先が紙の上でわずかに震える。息を止め、レオンの微かな反応を確かめるように視線を泳がせた。

ヴァルプスにとっては度し難いメール内容ではあったが、彼はレオンから予約金を受け取ったことで「自分はレオンの唯一無二のパートナー(バックアップ)である」という強固な確信と心の余裕があった。


「……いいでしょう。この『デジタルな檻』は、私があなたを回収するまでの、ただの『アーカイブ用の一時保管庫』として承認しましょう」


ヴァルプスはレオンのシャツの襟を、絞め殺すような慈しみを持って整え、囁いた。

影に収納してある小箱を思い出し、ヴァルプスは柔らかく微笑む。


「どこまで遠くへ行こうとも、最後にあなたが帰還ログインする先は、ボクという場所だけなのですから」



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