第41話:『三者三様の『Approved』 ー 01/15 9:00 執行開始』
第3部:三者三様の『Approved』
午前九時
朝の柔らかな光が差し込むテラスで、オスカルは白磁のカップを口に運んだ。端末が微かに震え、レオンからの『DPA計画』という名の献上図を映し出す。
「……おや。アメリア基金の余剰を、自身の『アーカイブ化』に充てると」
オスカルは端末の内容を静かに追った。
否定する理由はない。構造としては合理的だ。
「『CEO不在時の意思決定の連続性』……成立している」
わずかに指を止める。
レオンは、自身の機能を維持したまま、将来的な不在にも対応しようとしている。
――前提は、正しい。
オスカルは迷いなく承認ボタンに触れた。
『Approved(承認)』
「これで、連続性は確保される」
視線を窓の外へ移す。
冬の庭園は、静かに整えられていた。
「……合理的だ。よく整えられている」
窓の外に広がる冬の庭園を見つめながら、オスカルは静かに目を細めた。
「君がどのように選ぼうと、帰る場所は維持される」
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九時四十五分
魔導端末に通知が飛んできたのを確認し、バルナザールは鷹揚に端末をつまみ上げた。
「……ほう、予算が動いたか」
目の前の数字は、まるで迷路の設計図のようだ。
レオンが自ら“監視とアーカイブのためのインフラ”を求めたかのように見える。
皮肉交じりに端末を操作し、承認の確認を行う。
計画の裏にある真意には触れず、ただ効率的な作業として処理。
裏で何かやっているのは分かる。だが、契約違反も異界干渉も見つけられない。
悪魔界契約ではない“現世ロジック”が混ざっている気配はあるが、証拠はなし。摘発できる根拠がない。
無意識のうちに小さな興奮が胸をかすめる。
「レオンくん……相変わらず、よく出来た子だ」
彼の中ではすべて「愉悦」のルール内に収まる。
それでも、レオンの巧妙さを密かに認めていた。
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九時五十分
二人の大人が「 Approved 」という現世の刻印を終えたその刹那。
世界魔力システムの深淵、光さえ届かない基幹アーカイブの奥底で、一人の少女が伏せていた睫毛を持ち上げた。
本来届くはずのないデータが、静かに彼女の領域を侵犯する。
「レオンさん、また可愛い嘘を……」
アメリアは、穏やかな、それでいて全てを透視するような瞳で、暗闇の中に浮かぶレオンの言葉をなぞった。
彼女にとって、それは「予算の承認」などではない。
自分が独り待つ『あちら側』への、最上級の招待状。
「ねえ、アゼルフィードさん。悪魔って死ぬのかしら?」
傍らでバイタルデータを測っているエルフの研究員を見上げて問いかけると、白衣姿のエルフは一拍置いてから、無表情に口を開いた。
「悪魔は死にません。そういう理ですから」
「ふーん…」
質問に答えたと作業に戻るアゼルフィードから視線を外して、アメリアは手を伸ばして自分の爪を見る。
「でもいいわ。承認してあげる。
……あなたの愛の受託契約、私が世界で一番正確に、執行してあげるから」




