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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第34話:『一月十四日の貸借対照表ー01/14 12:00 執行開始』


第2部:改竄(猛毒のデバッグ)



一月十四日 正午


地下第一メンテナンス・ラボ。


青白いモニターの光に照らされたデスクに、黒漆塗りの三段重の弁当箱が二つ置かれた。

レオンが重箱をひとつひとつ組み外して机の上に並べてから座ると、マルヴェイがレオンの為に銀のフォークを用意する。

マルヴェイは長い指先で、ピンセットのように箸を操り、幾何学模様のテリーヌを一つ口に運んだ。

一方のレオンは、A.I.D.Aに「栄養素の検収」をさせながら、事務的に、しかし優雅にジュレを掬い上げる。


「……レオン、見てよ。このお弁当箱、ヴァルプスが見たら『ボクが作るはずだったのに!』って、重圧で中身を全部蒸発させちゃうんじゃない?」


「何を言っているんだ。これは『外部委託ケータリング』による、時間短縮のためのソリューションだ。ヴァルプスには、もっと高度な『夜の管理業務』があるからね。

……さあ、食べながら、この『1魔貨契約』の条項を煮詰めようか」


食用花と薬草主体の食事を淡々と「燃料」として処理しつつ、エルフと元エルフの悪魔は視線を交わす。

ラボは阻害魔法で外界遮断されているため、ヴァルプスには「CEOがコンサルタントと極秘の資産運用会議中」というダミーログだけが届いている。

レオンとしては特に厳重にしなくても良いのではと提案したのだが、マルヴェイはいつになく真剣な色を瞳にのせていた。


「……このテリーヌ、君の瞳の色に似ているね?味も悪くない……って、そんなことより、これ。これだよ、この『1魔貨契約書』!」


マルヴェイは箸を丁寧に置いてから、レオンが持ってきたヴァルプスの草案を端末にスキャンして、空中に投影した。



ーーーーーーーーーーーーーー



【特定資産譲渡および包括的信託管理契約書:第0114-Rev.02号】

件名:譲渡人個人の全権限ならびに残余価値の移転および終身管理委託について


第1条(目的)

本契約は、譲渡人(レオン・ド・ラ・ノワール。以下「甲」)が保有する、甲の全人格的権利、労働債権、ならびに将来発生しうる一切の残余価値(以下「本件対象アセット」)を、受託者(ヴァルプス。以下「乙」)に完全に譲渡し、乙にその包括的な管理権限を付与することを目的とする。


第2条(譲渡対価および責任の移転)

本件対象アセットの譲渡価格は、一律「1魔貨(1 MC)」とする。

乙は前項の対価を支払うことで、甲の生存維持、健康管理、および意思決定の代行を含む一切の管理責任を引き受けるものとする。


第3条(乙の管理権限と資産保全義務)

乙は、本件対象アセットの価値を損なわないため、甲を「非流動性特定資産」として、乙が指定する最適な保存環境(物理的隔離施設または専有区域)において永続的に保管する専権を有する。

乙は、本件対象アセットの「自己分解リスク(自己消滅プロトコルの発動)」を未然に防ぐため、必要と判断されるあらゆる物理的・精神的介入オーバーライドを行う義務を負う。


第4条(契約の不可逆性および介入条件)

本契約は、甲の事後的な意思表示によって一方的に解除または取消を行うことはできない(不可逆的合意)。

乙による介入は、本件対象アセットの「完全性の維持(生存と健康の確保)」に資する範囲において、甲の承諾なく無制限に執行できるものとする。

本契約の効力は、第三者(血縁者、上位悪魔等)によるあらゆる干渉に優先し、乙は外部ノイズから甲を完全に遮断する防衛権を行使する。


ーーーーーーーーーーーーーー


マルヴェイの翡翠の瞳が歓喜で細まり、彼は椅子をくるりと回してレオンを見た。


「 ……ふふ、あはは!

いや、失礼。あまりにも『誠実』な内容だったから。

うん、問題ないよ。A.I.D.Aに投げても『100%の安全資産』って出るはずだ。

だってこれ、『君という価値が、誰にも、何にも、そして君自身の”迷い”にすら傷つけられないようにする』っていう、最高に過保護な保険契約じゃないか。

安心してサインしなよ。……あ、でも、第3条の『物理的介入』のところだけは、ヴァルプスに『優しくしてね』って言っておいたほうがいいかもね!!」


笑いが抑えきれず、マルヴェイは歯を食いしばりながら口元に骨ばった指をあてる。

頭を前に倒し、淡桃色の髪を振り乱して身体を震わせていたが、数秒後、椅子から転げ落ちんばかりに爆笑した。


「レオン、君の『正妻』、相当イカれてるよ。

これ、契約書に見せかけた『永久剥製はくせい保存同意書』じゃん。よくこれを見て『福利厚生だ』なんて言えるね」


レオンは怪訝そうに眉を寄せ、重箱の隅にあった白苺に手を伸ばした。


「……何がおかしいんだい? 私は管理を委託し、彼はそれを受諾する。ただの所有権の移転だよ。

見てくれ。『資産価値の永続的固定による敵対的買収のリスク排除』。

『受託者への無限のメンテナンス責任付与による福利厚生の最大化』。

……ほら、完璧なリスクアセスメント(評価)が出ている。

……A.I.D.Aが問題ないと言っている以上、これは私の生存戦略として『最適解』なんだ。それに……」


「……あー、もういいよ。君に説明するだけ無駄だ」


マルヴェイは、翡翠の瞳に昏い光を宿し、何もない空間に指先を突き立てた。

空気を引き裂くように、無数の燐光を放つ術式コードが溢れ出し、それらが瞬時に結晶化して半透明のキーボードと、虚空に浮かぶ多重ホログラムモニターを構築していく。

マルヴェイは、実体化したその青白い光の鍵盤を、まるで鍵盤楽器を掻き鳴らすような猛烈な速さで叩き始めた。


「レオンさぁ…十月までやりたいことあるんでしょ?」


「あ、うん。仕事は続けておきたい」


「……君のその『ポンコツな合理性』が世界を滅ぼすよ。

よし、決めた。私がこの『A.I.D.Aお墨付きの地獄』を、もう少しだけ『事務的』に、ヴァルプスが悶絶する形にリフォームしてあげよう」


レオンが白苺の甘味に静かに目を輝かせている間に、マルヴェイは口の端を歪めて指を動かす。


「これじゃ『面白くない』んだ。

ヴァルプスの思い通りにパッキングされるなんて、私のプライドが許さない」


マルヴェイは、レオンに見えない角度で、契約書の第5条に「隠しパラメータ」を書き加えていく。


「レオン、君、本当に私がいなかったら今頃『綺麗な粗大ゴミ』として梱包されてたよ?

よし、A.I.D.Aも……『こっちの作戦の方が、叔父上をハメる期待値が高い』って計算(改ざん)してくれた」


「マルヴェイ、君のアドバイスのおかげで、より『透明性の高い』契約になったよ。

……ヴァルプスも、この私の英断を、きっと喜んでくれるはずだ」


「『英断』か。レオン、君のそのポジティブなバグ、本当に最高だよ。

……さあ、この『改訂版』を持って、ヴァルプスのところへ行こう。そしてちゃんと君が、お話をしてくるんだ」


「わかった。最終版をエクスポート(書き出し)してくる」


レオンは栄養補給を終えて純白のハンカチで手元を拭いたあと、席を立ち、メタリックシルバーのネクタイを整える。

重箱を片付けようとするレオンを制し、マルヴェイは手を振ってさっさと出て行けと追い払った。

レオンが腕輪越しにA.I.D.Aと会話をしながら歩き出す様子を見送って、マルヴェイは端末を弄る。


「レオンとマルヴェイが弁当を食べさせ合っている」フェイク写真を作り、ヴァルプス宛で送信予約を入れてから、マルヴェイは大きく伸びをした。





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