『雪消えの光、角の輪郭』②
第2部:言葉と輪郭の先
レオンは静かに、自身が描き上げたヴァルプスの角に視線を落とす。
白紙のなかに立ち上がったのは、少年時代の黒く小さな角ではない。
力強く、鮮やかな色を帯びた二本の角。
少年の頃とは比べものにならないほど立派になったそれを見つめながら、レオンは小さく目を細めた。
違和感の正体が、ようやく分かった気がした。
変わったのだ。
確かに、驚くほど。
だが、それは「別人になった」という意味ではない。
どれほど大きくなろうと、この角の癖も、こちらを見据える目の色も、根本にある頑固さも変わっていない。
自分が戸惑っていたのは、喪失ではなく更新だったのだ。
レオンは鉛筆を置き、丁寧に、紙面の上の角の輪郭を指の腹でなぞる。
「こんなに……きれいだったのか」
言葉は、画板を見つめるレオンの唇から無意識に零れていた。
「この角のカーブ、まるで芸術品のようだ」
思わず口にしてから、自分でも少し可笑しくなった。
「いや、本当に。すごく素敵だ」
カサリ、とソファの方から微かな音がした。見れば、ヴァルプスが弄っていた端末を完全に止め、無意識に息を呑んだように、赤の瞳をわずかに見開いてこちらを見つめている。
最近見せるようになったすまし顔が、レオンの予想外の言葉によって完全にフリーズしていた。だが、火がついてしまった仕事師の観察眼は止まらない。
「根元からの流れが、綺麗だな」
レオンは画板と、ソファの上のヴァルプスを真っ直ぐ見比べる。その視線には、かつての戸惑いはもう微塵もなかった。
「左右のバランスもいい」
「……」
「表面の色も好きだ。昔から思っていたが、その翡翠の筋もいい」
「……」
「ここまで見事に育つとは、思わなかった」
「レオン」
「なんだ?」
「……いえ」
ヴァルプスは一度だけ、視線を伏せた。
「描いてみて、初めて分かった」
レオンは大きくため息を吐く。それから、再び画板へ視線を落とした。
「……好き」
レオンの言葉に、ヴァルプスは視線を泳がせる。
「……そうですか」
それだけ答えて、端末へ視線を戻した。
しかし画面は、しばらく一度も更新されなかった。
※2026/06/16 完全新規の話を新しく書き下ろして挿入しました。
タイトル変更『光の檻、未完の再会』→『雪消えの光、角の輪郭』
※本作は、noteにて先行公開していた記録のアーカイブ版です。




