『聖域の収穫、あるいは無垢な署名』④
第4部:システムの構築
「これで足りるのかしら……」
彼女は少し不安げな表情で、櫛から自らの髪の毛をつまみあげ、その身に宿る希少な魔力の触媒を自らの手で採取していった。そしてヴァルプスは、定期的に差し出されたそれらを、丁寧に魔力変換し、解し、吸収していった。
純度の高すぎるエネルギーが、ときおり小悪魔の体内で劇薬となって暴れた。全身を作り変えられるような灼熱と痛みに、ヴァルプスは何度も声を殺した。 レオンに隠れて、木の洞のなかで耐えるヴァルプスの横に浮かせた銀の鏡ごしに、バルナザールが指揮棒を揺らした。
『ヴァルプス。一時間後、講習を続けるぞ。それまで安静にしていたまえ。 次は「対象の思考停止を促す交渉術」の講義だ。ちゃんとテキストを用意しておくんだぞ』
「……はい」
ヴァルプスは荒い息を吐きながら、バルナザールが送ってくる経営学と心理操作の課題をこなすべく、端末を握った。
--
「宝石姫ちゃんの素材、もうちょっとマイルドにならないかなあ……粒子化するのめちゃくちゃ時間かかる……」
そんなことを呟きながら、ヴァルプスが疲れ果てた顔で宿の客室に戻ると、そこには何も知らないレオンがソファで眠っている。 ヴァルプスはごそごそレオンの膝上に滑り込み、乗り上げてその顔を見上げた。うっすらと目の下に隈が浮かんでいて、なにやら魘されるように眉間には深い皺が寄っている。
「レオン」
小さな手でレオンの頬に手を添える。すこし指先でくすぐってみる、だが、彼は起きなかった。
「いつか、その谷底みたいな皺が消せたらいいなあ」
ヴァルプスはレオンの胸元で丸くなり、そこで勝手に寝る準備をする。 彼の胸元は暖かくて、ヴァルプスはぎゅっと頬を押し付けて目を閉じたのだった。
※本作は、noteにて先行公開していた記録のアーカイブ版です。
※2026/05/21 大幅修正をしました。
※2026/09/26 大幅修正をしました。




