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『1魔貨の聖騎士 ― 自分を1魔貨と定めたCEOを、悪魔は契約で管理する』  作者: 暮夜すと
【シーズン1:バルナザール決算編】Q1

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『聖域の収穫、あるいは無垢な署名』②

第2部:悪魔のゆりかご


 その日は宝石姫を狙う狩人の追撃の手からなんとか逃げおおせ、森に身を潜めた夜のことだった。

 レオンは疲れ果てながらも、隠蔽の魔法を設置して野営の準備をし、いまは仮眠を取っていた。

 野営地の隅、倒木に隠れるようにして、ヴァルプスは魔導通信機を小さな手で握りしめていた。


「閣下……助けてください」


 通信機に呼びかける子供の声は、鼻声で、あまりにもか細かった。


「主さまが……レオンが壊れてしまう。

 ボクが抱きしめても、あの方はありがとうって笑うだけで、ちっとも安らいでくれないんです。

 ボクの腕が細すぎるから?

 ボクが悪魔として力が足りないから?

 ……もう、どうしたらいいか分からない」


 青白い通信光が、ヴァルプスの涙で濡れた頬を照らす。


 数秒の沈黙の後、ノイズ混じりの吐息と共に、バルナザールの低く、地響きのような声が返ってきた。


『……嘆かわしい。この通信機は、君の嘆きを聴くために渡したものではない。あくまで君という……サリクスの残した資産を守るため緊急用なのだが』


「――閣下!あ、あの」


『ヴァルプス、よく聞きたまえよ』


「……はい」


『いいか。彼は、自己犠牲を餌に生きているだけの男だ。

 ひとを守ることに酔い、契約した小悪魔さえエスコートしてしまう。そんな男に、純粋な愛など与えようとするから、君は拒絶されるのだよ』


 バルナザールの声はどこまでも冷たかったが、そこには確かな教導の響きがあった。


『彼が望んでいるのは、安らぎではない。

 自分が身を捧げることで、誰かのために生きていけるという免罪符だ』


「そんな。じゃあ……ボクはどうすればいい……のですか」


『管理しろ』


「管理、ですか」


 通信機の向こうで、バルナザールが小さく息を吐く音がした。それは笑いなのかため息なのか、ヴァルプスには判断がつかなかった。


『お前が子供という出で立ちで健闘すればするほど、彼は自分の孤独という天国に、より深く登っていくことになる。

 共に堕ちてもいいと言いながら、結局はお前を突き放し続ける。

 ……救って、やりたいのだろう?』


「……閣下。もし、ボクが変われたら。

 主さまがボクを慈しんだことを、後悔じゃなくて……必要なことだったと思えるくらい、ボクが強くなれたら。

 もし、ボクがレオンにとって手放せないものになれたら、レオンはもう、ボクを甘やかしたことを恥じなくていいはず」


 沈黙の後、バルナザールが低く笑った。


『……そこまで自分で気づいているなら、話は早い。

 ヴァルプス、私がお前に『上級悪魔』への進化を許可しよう。

 だが、それには対価がいる。

 例えば……高純度の魔晶石、もしくは強い生命エネルギーを変換し、その身に取り込み続ける必要がある。

 そして、レオンくんを一生飼い慣らすという覚悟も必要だ』


 通信期から、獲物を狙う蛇のように、シュウ、という音が聞こえた。


『私が手を貸してやろう。

 経営を学べ。法律を学べ。そして、レオンの理性を契約という名の檻で包み込め。

 ……お前が完璧な管理者になった時、彼はお前自身を見つめるだろう』


 ヴァルプスは、震える手で涙を拭った。

 その瞳から子供の光が消え、バルナザールに似た計略的な光が宿る。


「……わかりました。ボク、やります。

 主さまに、ボクなしでは生きられない『呪い』をかけてあげる」


 その言葉が落ちた瞬間、茂みの影から宝石姫が姿を現すのは、それから数分後のことである――。




※2026/05/21 大幅修正をしました。

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