『聖域の収穫、あるいは無垢な署名』①
※主人公450歳時代の評価損(罪悪感)と、不良在庫(収集癖)が招いた結果の話なので、ふんわり読んであげてください。
第1部:管理官の指先
深夜。
月光すら届かぬ重厚な寝室で、微かな衣擦れの音だけが響いている。
寝台の上、レオンは浅い呼吸を繰り返しながら眠りの淵を漂っていた。その眉間には、消えることのない微かな皺が刻まれている。
レオンの傍ら、ヴァルプスが、音もなく身を起こした。
かつて愛らしかった少年の面影は、今や完成された悪魔の造形へと脱皮している。彼はレオンの乱れた前髪を、迷いのない、事務的なまでに洗練された手つきで整えた。
「……第三条、魔力調律」
ヴァルプスが低く呟くと、彼の指先から淡い魔力の糸が伸び、レオンの肌に吸い込まれていく。それは管理という執着。
レオンの眉が僅かに解れる。ヴァルプスの中で五分という時間が正確に刻まれた頃、レオンは彼の胸の中へと自分から顔を埋めるように身を捩った。
ヴァルプスはそんなレオンを静かに抱き寄せ、ゆっくりと目を閉じる。
室内には静寂が満ちる。
――その静寂を、遠く離れた場所から覗く者がいた。
「……だいぶ慣れたな」
バルナザールは、上質なヴィンテージの酒を揺らしながら独り言ちた。
手元の鏡には、暗闇で寄り添う二人の姿が浮かび上がっている。傍らの卓上には、レオンの筆跡で署名された「上書き契約書」の写しが置かれている。
「今でこそ、あのように管理官として振る舞っているが……。
五年前のあの日。あの律儀な騎士の孤独に当てられ、泣きながら私に電話してきたのは、どこのどいつだったかな」
バルナザールは、懐かしむように鏡面に魔力を投げ、指先を右に流す。幾枚もの写真をめくるように、バルナザールは過去を漁る。
それは、レオンだけが知らない、五年という空白の教育期間の記録。
「……久々に、答え合わせをしようか」
その呟きは、五年前のあの日、通信機の向こうから聞こえたヴァルプスの泣き声へと重なっていく。




