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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
Q2

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第13話:『破滅の契約、あるいは孤独な支配者』— 開拓(独占)

※本作品の悪魔は、基本的に全員「スーツ」を着用しています。

第1部:リスクの序章


レオンは、昨日からほとんど眠らず、目をこすりながら魔法陣のように複雑に絡み合った「魔力損益計算書」の数値を睨んでいた。

隣ではヴァルプスが、現世の資産家から回収した「負の感情」を精製する装置に向かって、魔力のパウダーを慎重に調整している。その作業の合間に漂うのは、神秘的な静寂ではなく、「納期に追われる共同経営者たち」の張り詰めた空気だった。


その時、レオンの机に置かれた「黒革表紙の魔導タブレット」が、無機質な通知音を鳴らした。


「……あ、メールだ」


レオンが何気なく手を伸ばすと、画面に表示されたのは、灰色のヘッダーに「緊急」とだけ記された、魔王本社からの魔法通信だった。


端末から微弱な紫色の魔力が放出され、部屋の温度がコンマ数度下がる。




【緊急:アセット評価及び運用方針の再定義について】


対象: 被管理体レオン・ド・ラ・ノワール

参照: 専属代理人ヴァルプスの支配権及び機能不全リスク


(中略:支配権回収と地位保留の宣告)


執行: 直ちに 異議がある場合は、悪魔界魔王本社・バルナザール専務執務室にて対面での釈明を認める。




「……なるほどな」


レオンの声は、怒りよりも先に、計算を終えた後のような乾いた冷たさを帯びていた。

要するに、この現場から唯一の現場責任者ヴァルプスを、悪魔界の企業論理で「強制回収」すると言っているのだ。


「おい、ヴァルプス。これ、見てくれ……人事で引き抜くってレベルじゃないぞ。

強制的介入だ」


「……あ、やっぱり来ましたか。

さっきから、魔導VPNのログイン権限が軒並みエラー吐いてると思ったんですよ。

ボクの権限、もう閲覧専用に落とされてますね」


ヴァルプスは作業を中断し、気だるそうに肩をすくめた。しかし、その顔にはいつもの皮肉な余裕が消え、少し青ざめている。


「……『直ちに』って、今のオークションの在庫、お前がいなきゃ洗浄クレンジングできないだろ。本気か?」


「あの人にとっては、ボクらの現場が回るかどうかより、ボクという駒の『所有権パーミッション』を本社に戻すことの方が優先順位高いんですよ。

……効率悪いですよね、本当に」


ヴァルプスは自嘲気味に笑った。


レオンは一瞬、眉を寄せたが、すぐにその感情を押し殺した。 自分がここで怒りや悲しみに沈めば、その負の魔力が契約を通じてヴァルプスをさらに圧迫し、彼の「影」を完全に崩壊させてしまう。


(落ち着け。……私が乱れれば、こいつが壊れる)


レオンは深いため息をつき、極めて事務的な動作でネクタイを締め直した。


「……行くぞ。悪魔界ポータル権限と、本社への入館証はまだ生きてるな?」


「……ええ、一応。でも、あの人、もともと無理な交渉に応じるタイプじゃありませんよ」


ヴァルプスは机の端に触れながら、ため息混じりに言った。


「それに、いくら数字で説明しても、あの人はあなたが『経営者』だと認めたくないんでしょう。

ボクはその『現場』にすべてをかけてきたけど……専務にはそれを一度も認めてもらったことがない」


いつしかヴァルプスはバルナザールのことを父上とは呼ばず、専務と呼ぶようになっていた。

レオンはヴァルプスの言葉を静かに聞きながら、わずかに微笑む。

その微笑みは穏やかだが、瞳の奥は氷のように冷え切っていた。


「だからこそ、だ。いまは君の言う通り、感情で片づけられる問題じゃない。

この魔導タブレットに詰まった『実績』を、彼にぶつけるんだ」


レオンは立ち上がると、迷いのない手つきで上着のポケットに姫が持たせてくれた「ハーブの粒」を押し込んだ。


「ヴァルプス、ちょっと待て。専務に、今すぐ取り次いでもらう。

これ以上、この通知を無視していては、ただでさえ少ない時間が無駄になる」


「……わかりました、主さま。……でも、無理だけはしないでください」


「分かっている。……行くぞ」





第2部:黄金の取引



悪魔界のビジネス街の象徴、グランド・ゼロ・パレス。


天を突くような黒真珠色の外壁は、現世のどの超高層建築物よりも冷たく、傲慢にそびえ立っていた。


自動扉が音もなく開くと、そこは重力さえも均質に管理された無機質なロビーだった。行き交うのは、仕立ての良いスーツに身を包み、感情を数値化したホログラムを浮かべたエリート悪魔たち。彼らの「効率」こそが正義である空間に、現世の執着と血の匂いを僅かに纏ったレオンとヴァルプスが足を踏み入れる。


「……相変わらず、ここは空気が薄いな」


レオンは無表情のまま、受付の魔導センサーに入館証をかざした。


「認証:被管理体レオン・ド・ラ・ノワール。及び、権限保留中のヴァルプス」 不快な電子音が静かなロビーに響く。


周囲の悪魔たちの視線が、一瞬だけ「故障した備品」を見るような冷ややかさで二人を刺した。


「主さま、見てください。あっちの受付嬢の目。

ボクがクビになるのを、今か今かと賭けてる顔ですよ」


ヴァルプスがいつもの調子で耳打ちするが、その足元の影は、ビルの強力な魔力供給に反応してノイズを激しく散らしている。レオンはヴァルプスの肩に、重すぎず軽すぎない一定の圧で手を置いた。


「余計なことに魔力を使うな、ヴァルプス。

……今の私の『損益分岐点』は、君の影を無事に持ち帰ること一点に絞られている。

それ以外は、ただのノイズだ」


「……厳しいなぁ。でも、その冷たさ、今のボクにはちょうどいいかも」


二人は、専務執務室直通の高速エレベーターに乗り込む。


加速する重量圧の中で、レオンは懐の魔導タブレットに指を這わせた。そこには、数千人の絶望を洗浄して得た魔力の純度と、現世のマーケットを独占しつつある驚異的なROIの数字が、青白い光を放っている。

「愛」も「慈悲」も、ここでは通貨にならない。 それを誰よりも知っているのは、かつての騎士だった。


最上階。 重厚な黒檀の扉が開くと、そこには広大な宇宙のような空間を背に、巨大な机に座る「システムそのもの」——バルナザール専務が、待ち構えていた。


「……アポの時間通りだな。レオン・ド・ラ・ノワール」


専務の冷徹な声が、執務室の空気を一瞬で凍土に変えた。




--




重厚な執務室の奥。

宇宙のような虚空を背負って座るバルナザール専務は、手元の魔導書から視線を上げることなくそう言った。

圧倒的な体躯。黒褐色の肌に映える黄金の瞳が、書類の束を透過してレオンの心臓を直接値踏みするように光る。


「……お招きいただき、光栄です。専務」


レオンは一歩前へ出た。隣のヴァルプスは、バルナザールの存在感に圧せられ、いつも以上に影を乱している。

因子3%の血の繋がり——その根源的な恐怖と敬意が、彼を「現場の相棒」から「怯える子供」へと引き戻そうとしていた。

レオンはそれを察し、ヴァルプスの視界を遮るように半歩前に立ち、魔導タブレットを机の上へと静かに滑らせた。


「Q2の暫定報告書です。

現時点でのROIは、契約上の最低義務(100%)を微増で上回る105%を達成。

現世の市況は不安定ですが、この水準は維持できる見込みです。

……確認を」


専務は、ようやく顔を上げた。


「ふむ……。君は本当に飽きないな。

これほどの数字を、あのドブ板のような現世で叩き出すとは」


専務は指先一つ動かさず、視線だけでタブレットのデータをスクロールさせる。


「……素晴らしい。死のオークション、記憶のデリバティブ取引。

本能派の理念をこれほど正しく『利益』に変換できるヒト種族は、長い歴史の中でも君が初めてだ」


「ありがとうございます。

……ですが、専務。この数字の裏付けは、ヴァルプスという個体の『現場判断権』に依存しています。

今回届いた通知——彼の支配権を本社が回収するという決定は、この事業における最大の不確実性リスクとなります」


レオンは、努めて感情を排した。 ここで「ヴァルプスがかわいそうだ」と言えば、専務は笑って彼をスクラップにするだろう。


「……リスク、か」


バルナザールは、背もたれに深く身を預けた。黒い巨角が、天井の闇を切り裂くように優雅な弧を描く。


「おやおや。勘違いしないでほしい。

私は、君という『資産』を保護するために、この決定を下したのだよ。

……君の言う通り、ヴァルプスはよく働いた。だが、稼ぎすぎた。

今の彼が保持する魔力量は、本来のスペックを逸脱している。


……暴走し、君を傷つける前に、私の『影』として一度回収し、初期化するのが最も合理的な保全メンテナンスだ。……身体は資本だぞ、レオン」


専務の声は、どこまでも柔らかく、慈愛に満ちていた。 しかし、その内容は「ヴァルプスという人格の抹殺」を、福利厚生のように語る冷酷なものだった。


「……専務。私の身体(資本)を心配してくださるなら、方針の変更を提案します」


レオンは、冷え切った指先で自分のネクタイに触れた。


ポケットの中のハーブの香りを糧に、彼は「騎士」ではなく、バルナザールと同じ土俵に立つ「交渉人」として、不敵な笑みを浮かべた。


「初期化は『損失』です。

彼がこれまで現場で培った『ノウハウ』と『私との同期率』は、本社では再現できない簿外資産だ。

……彼をスクラップにするというなら、私は今この瞬間、すべての事業を停止し、全アセットを自己破壊(清算)させます。

……損をするのは、閣下、貴方の方だ」


バルナザールの黄金の瞳が、一瞬だけ鋭く、楽しげに細まった。 執務室の空気が、ミリミリと音を立てて震え始める。


「……ほう。私に、赤字を飲めと言うのか?」





第3部:専属契約



バルナザールの黄金の瞳が、面白そうに細まる。その瞬間、執務室の重力が倍化した。

背後のヴァルプスの影が、ノイズを撒き散らしながら「システム上の悲鳴」を上げそうになる。レオンはわずかに奥歯を噛み締め、ヴァルプスへ流れる負の感情をせき止めた。

今の自分は、騎士でも人間でもない。一桁の誤差も許さない「計算機」だ。


「赤字ではありません。専務。貴方にとっての『管理コストの外部化』を提案しているのです」


レオンは、魔導タブレットをフリックし、あらかじめ用意していた【認可証・改訂案】のホログラムを机の上に展開した。


「……おやおや。勝手に書き換えたのか。

 君は本当に、私の寛容さを試すのが好きだね」


「寛容さではなく、合理性に基づいた提案です。

……専務。貴方が彼を『直轄(道具)』として手元に置くたびに、私の機嫌……失礼、出力される魔力の品質は、同期不全によって著しく低下する。

これは我が事業における『最大の不確実性リスク』だ」


バルナザールは、ホログラムに浮かぶ『レオン・ド・ラ・ノワール個人事務所への移籍』という文字を眺め、優雅に鼻で笑った。


「彼を私の個人事務所へ移し、運用権を私に委託してください。

そうすれば、今後発生するあらゆる運用ミス、及び個体の破損リスクは、すべて私という『資産』が負うことになる。

……貴方は、『リスクなしで配当だけを受け取る投資家』に回れる。悪い話ではないはずだ」


「……」


バルナザールは沈黙した。 執務室を満たすのは、ヴァルプスが必死にこらえる「ノイズ」の音と、レオンの静かな呼吸だけだ。


「……ヴァルプス。君はどうだ」


専務が、レオンの背後で硬直しているヴァルプスに、不意に水を向けた。


「私から切り離され、このヒト種族の『私有物』になる。

……それは、誇り高きバルナザールの因子を持つ者として、死よりも惨めな隷属だと思わないか?」



ヴァルプスの肩が、びくりと跳ねた。 彼はレオンの背後から一歩踏み出し、黄金の瞳を見上げる。

彼の瞳には、恐怖と、過剰摂取した魔力による狂乱が混ざり合っていた。


「……専務。……ボクは、最初から惨めですよ」


ヴァルプスは、震える手で自分の胸元をなぞった。


「……この主さまは、ボクが壊れることまで収支計画(予定)に入れて、その上で『壊させない』と、本気で計算を狂わせてくるんです。

……そんな変態的な経営者に仕える方が、ボクにはお似合いだ」


ヴァルプスが、レオンの隣で不敵に笑う。 足元の影のノイズが、一瞬だけ消えた。 レオンの「冷徹な理性」が、ヴァルプスの「絶望的な献身」と、完全に同期した瞬間だった。



「……ふむ。同期率300%オーバーか。

確かに、今の君たちを切り離すのは、黄金をドブに捨てるようなものだな」


バルナザールは、ため息混じりに椅子を鳴らした。 彼は机に置かれた「ペン」——契約を物理的に上書きする魔導具を手に取った。


「いいだろう、レオン。

君の言う通り、私は『配当だけを待つ株主』になってやろう。

だが忘れるな。

……損失が出た瞬間、私は君たち二人を、まとめて損切り(廃棄)する」



専務が、ホログラムの認可証にサインを書き込む。

その瞬間、ヴァルプスの足元を縛っていた本社のシステムログが消え、新しい【レオン・ド・ラ・ノワール個人事務所】の認証コードが二人を包み込んだ。



--




執務室の外。

無機質な黒曜石の廊下に出た瞬間、レオンは壁に手をつき、深く息を吐いた。冷たい汗が背中を伝い、指先が震えているのを感じる。深い呼吸をするたびに、胸の中の焦燥感がさらに膨らんでいった。


バルナザールとの交渉が今もその胸に重く圧し掛かっている。それは死の気配、虚無のようなもので、まるで命を削られるような感覚だった。今ここに立っている自分が、どこか他人事のように感じられる。


ネクタイを緩める指先は、今さらになってひどく震えていた。手のひらに伝わるのは、血が滲み出したような冷たさと、胸の中に広がる焦燥感。

努めて冷静に息を整え、ヴァルプスの体調を気にする。


「……死ぬかと思ったぞ。……ヴァルプス」


息を整えるように、レオンは言葉を絞り出した。その言葉が空気の中に溶ける前に、さらに一度深く呼吸を吸い込む。


彼の中では、バルナザールとの交渉が一気に強く圧し掛かってきた。死の気配、虚無、全てが目の前に立ち現れていたのだ。それを乗り越えて、今ここにいる自分がどこか他人事のようにも感じられた。


「お前の反応を見てる方が、よっぽど怖かった」


ヴァルプスの笑い声が、ひときわ軽やかに響く。


「あはは……。主さま、顔色が芋の乾物みたいですよ」


ヴァルプスは軽やかな笑い声を上げたが、その言葉にどこか冗談めかしながらも、どこか少し寂しさが滲み出ているように感じられた。


彼の足元の影が、レオンのものとぴったり重なるように静かに収束しているのを見て、レオンはその変化に気づいた。かつてのようにノイズを撒き散らすことなく、影は静かに彼の存在と一体化し、互いの存在を確かめ合っているかのようだった。


「……主さま。さっきの『個人事務所』の話、本気ですか?

履歴書、書き直さなきゃいけないんですけど」


ヴァルプスが、少し照れくさそうに言う。彼の視線は少しずれて、レオンの反応を待っている。

レオンは肩の力を抜くことなく、言葉を続けた。


「今日からお前は、本社の備品じゃない。私の、専属だ」


その一言には冷徹さが漂っていたが、同時に、ヴァルプスへの深い信頼と暗黙の契約の意味が込められていた。


「文句はあるか?」


レオンは、言葉に力を込める。振り返らずに、でもその表情には確固たる意志が感じられる。それは、目の前の存在を「所有」する、という宣言のようでもあった。


ヴァルプスは一瞬、視線を伏せてから、まるで陽光に触れたように目を細め、その後、改めてレオンの顔を見上げた。


「いいえ。……最高の条件です。……社長」


その言葉に、どこか意外なほどの礼儀正しさと、何かを受け入れる覚悟が込められていた。


「社長」と呼ばれたその瞬間、レオンは微かに眉をひそめる。だがすぐにその表情を押し殺し、ポケットから汗ばんだハーブのタブレットを一粒、無意識に口に放り込んだ。

苦味と清涼感が、凍りついた理性を少しずつ溶かしていく。それを感じながら、レオンはふっと目を閉じる。その瞬間、何もかもがふわりと軽くなる――と同時に、彼の内側で固まっていたものが、再び重くなるのを感じた。


自由を勝ち取ったのではない。

今、二人はもっと深い意味で「選択肢」のない場所に向かって進み始めている。

地獄というシステムの中で、彼らが向かうのは、より険しく、孤独な航路だ。どんな結末が待っているかを知りながら、それでも進んでいくしかない。


「……私たちだけだ」


レオンは遠くを見つめ、心の中でその言葉を繰り返した。


「私たちだけだ。」その瞬間、全てが後戻りできない場所へと進み始めたことを、ようやく実感する。彼の心の奥で、未だにあの交渉の余韻が残り続けていたが、それをどうしようもなく、受け入れていく覚悟ができていた。


二人だけの航路が、これからどんな結末を迎えるのかを知りながら、進んで行くしかないのだ。






第4部:残滓カスの契約



重厚な扉が閉まり、レオンとヴァルプスの足音が次第に遠ざかる。 その時、バルナザールは窓の外に広がる地獄の夜景を眺めながら、手元のワイングラスを揺らした。


「……行かせてもよろしかったのですか、専務。

あんな無茶苦茶な『条件書き換え』を認めて」


背後の影から、副官ワセリが姿を現した。

彼は眼鏡を押し上げながら、呆れたようにため息をつく。


「ヴァルプスは、閣下の因子の純粋な継承体ではないとはいえ、貴重な『観測対象』です。

それをあんな、いつ壊れるかもわからないヒト種族に売り払うなんて。

損益計算が合いません」


バルナザールは、黄金の瞳を細め、低く笑った。


「ワセリ。君は数字には強いが、『熟成』という概念が欠けている。

……いいか、ヴァルプスという個体は、私の管理下ではこれ以上育たん。

サリクスが遺したあの器に、私の因子を強引に混ぜて生かしたのは、壊したくなかったからだ。

……だが、私の影を模倣させるだけでは、あれは『予備の部品』止まりだ」


バルナザールは空中に、レオンの魔力波形を表示させる。


「だが、あのレオン・ド・ラ・ノワールはどうだ? 私も驚いたよ。

かつて私が3歳のあの子を抱き上げていた頃よりも、今のヴァルプスは生命力(魔力)に溢れている。

レオンが生涯をかけて磨き上げた『執着』こそが、あの子を育てる最高の肥料なのだ」


「……確かに。

ですが専務、あの子の魂にこびりついた閣下の『残滓』

……あれをレオンがその洗浄能力で取り除こうとすれば、契約そのものが不安定になるのでは?」


「逆だよ、ワセリ」


バルナザールは愉快そうにワインを飲み干した。


「あの『残滓』は、単なるゴミではない。

ヴァルプスというシステムの根幹に深く打ち込まれた、私への『回線』だ。

レオンがあの子を救おうと清らかな魔力を注げば注ぐほど、その循環は『カス』を介して加速し、私の元へ最高の配当を届ける。


……そして、面白いのはここからだ」


バルナザールは窓硝子に映る自分の角に指を添えた。


「ヴァルプスを抱き、魔力を通わせるたびに、レオンの魂には私の因子の毒が逆流していく。

……彼が『残滓』を洗い流そうと足掻くほど、レオン自身の魂は地獄の理に染まり、変質していくのだ。

……いずれ彼は気づくだろう。自分が守ってきたはずの小悪魔こそが、自分を悪魔へと変えるための、最も甘美な『罠』であったことに」


「……では、最初から彼を『こちら側』へ引き込むおつもりで?」


「ああ。私がサリクスに成し得なかった『密着する安らぎ』を、あの子に与えてやりたくてね。

……レオンが人間を辞め、私の永久資産パートナーとしてヴァルプスと一つになる。

その時、宝石姫という極上のブランドもまた、我が部門のポートフォリオに加わるというわけだ」


バルナザールは不敵に微笑み、闇を見つめた。


「さあ、レオン。

君がどこまでその『汚れた手』で、私の影を洗い流せるか――特等席で見せてもらおう。

君が私と同じ『孤独な支配者』として、こちら側に堕ちてくるその日まで」



ーーーーーーー


【外部的勝利】ヴァルプスの所有権奪還

達成度: 成功


現在、レオンとヴァルプスは、バルナザールとの交渉において「ヴァルプスの所有権」を奪還し、影の管理権をレオン専属の資産に書き換えることに成功。


バルナザールが「配当を待つ株主」として位置づけられることで、レオンはヴァルプスの運用権を実質的に掌握し、他者の影響から切り離すことに成功。


この段階では、ヴァルプスがレオン専属の「資産」として再設定されたため、外部的な勝利は達成。



--


【技術的勝利】独占的不可欠性の証明

達成度: 進行中


レオンが「人間エルフ」であること、そしてヴァルプスの能力がレオンと深く連携していることを証明することは、依然として続いている重要な課題。


交渉では、レオンがヴァルプスと同期し続けることで、魔力洗浄が可能であることを暗に示しているが、バルナザールに対してそれを完全に認識させるためには、魔力の不可欠性を明確に証明する必要がある。


現在、レオンはバルナザールに対して「ヴァルプスの過剰な魔力」が暴走し、彼の力を制御するためにはレオンとの強固な絆が必要であるという点を打ち出している。


この点については、レオンが勝利条件に達するためには、さらに証拠を積み重ねる必要があり、バルナザールに完全に理解させる段階には至っていないと言える。



--


【精神的勝利】帰還不能(闇落ち)の完遂

達成度: 成功


レオンは「汚れた手で、守りたいものを守り抜く」という覚悟を決め、琥珀を握ることを決意。

この点については、物語全体の中で、レオンが自らの「闇」を受け入れ、その覚悟を固めた段階。

レオンはすでに、物語の中で自己の犠牲と背徳を受け入れる準備が整い、自らが地獄に足を踏み入れたことを感じている。

精神的には、闇落ちを完遂し、覚悟を決める部分は成功。



※本作は、noteにて先行公開していた記録ログのアーカイブ版です。

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