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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第148話:『欠損の再構築 ー 01/29 19:30 執行開始』

第3部:欠損の再構築ロス・リビルド


 十二階のプライベートラウンジを、柔らかな残光のような間接照明が満たしていた。

 墨色の巨大なソファ。その一角に、レオンは沈み込むように身を預けていた。

 ジャケットは近くの椅子に脱ぎ捨てられ、緩められたネクタイが白いシャツの襟元で力なく垂れている。

 レオンの指先は、この数分間で三度目となる「パンケーキの黄金比」という記事のスクロールを終えたところだった。


 電子音が小さく鳴り、重厚なドアが滑らかに開く。

 ヴァルプスが、1階のカフェテリア「ラ・フォンテーヌ」のロゴが入った紙袋を手に、足音もなく入室してきた。


「……遅いぞ、ヴァルプス」


 レオンはソファの背もたれから顔を上げ、端末を横にソファに置いて声を絞り出した。

 わざと低く、不機嫌そうに装ったその声には、隠しきれない「期待」が滲んでいる。

 レオンはヴァルプスから紙袋を受け取り、手早い手つきで袋から温かみを帯びたショコラティナを取り出す。

 途端、洗練されたラウンジの空間に、バターとチョコの甘い匂いが広がった。

 レオンは密やかにうきうきとしながら、カプチーノをこぼさないよう慎重に、だが流れるような所作で小さなペデスタルテーブルの上に二つ並べた。


「……ヴァルプス?」


 レオンは無表情に立つヴァルプスを見上げて、怪訝そうにしながらソファのシートを軽く叩いた。それは当然のように、横に座って共に食べろという指示であった。

 ヴァルプスは一瞬だけ、眉間に険しい影を落とした。だがそれは、瞬き一つの間にいつもの無表情へと塗り替えられる。


(……この聖域に、下俗なノイズを持ち込む羽目になるとは)


「……少々、予想外の横槍が入りまして」


「横槍?」


「……物資の一部を、戦略的に譲渡する必要が生じました」


「物資?」


「……結論から申し上げますと。

 タルト一基を犠牲に、主力物資の八割を救出したとお考えください」


 ヴァルプスの声は、どこか戦地から敗走してきた騎士のような、悲痛な響きを帯びていた。

 ヴァルプスは、後手に組んだ手に力を込めた。カイウスに奪われた際、タルトの箱を掴んでいた指先の微かな震えを、主に見せるわけにはいかなかった。それ以上のことは言わず、ただ深く、口を引き結ぶ。


「……立ち話は効率が悪い。

 座れ、ヴァルプス」


 レオンは有無を言わさぬ口調で、再び隣のシートを叩く。

 ヴァルプスが躊躇いながらも、主の隣に腰を下ろす。迷わず、レオンはパンをヴァルプスの口元へ突き出した。


「タルトの損失分は、このショコラティナの糖分で補填すれば良いのではないだろうか」


 ヴァルプスは一瞬、目を丸くした。

 受け取るか逡巡していると、レオンの目が据わる。パンが口に押し込まれる危険性を考え、諦めたようにそのパンを受け取った。


「……承知いたしました。

 では、失われた二割のカロリーを、こちらで再構築いたします」


 カプチーノを一口。そして、パンを一口。

 香ばしい香りが鼻を抜け、確かな甘みと口腔内に広がった。

 サクサクという軽い咀嚼音だけが室内に響き、張り詰めていたヴァルプスの肩の力が、ようやく数ミリだけ抜けていく。


「……味は?」


「……悪くありません。さすがは、うちのカフェテリアなだけある」


 ヴァルプスが食べている様子を横目に、レオンはほんの少し微笑む。

 そうしてはじめて、思い出したように自分もパンに齧りついた。






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