『案件重複拒否:専務バルナザールの鉄血承認』①
第1部:管理官の密やかな夜の「成果報告」
深夜の静かな宿。北国の冷気が窓を叩く音さえ止まった一室で、ヴァルプスは意識の同期を「現世」へ戻した。
「……レオン……眠っていますか」
隣に横たわる男の深く規則正しい寝息を確認し、ヴァルプスは安堵の溜息を漏らす。
月の光に照らされたレオンの横顔は、長年の旅路で磨り減った形跡を感じさせないほど穏やかだ。
(……よし、バイタル安定。同調率、良好)
ヴァルプスは寝台脇に置いていた魔導通信機を、音を立てないよう手繰り寄せた。
真っ暗な室内で、通信機の青白いバックライトがヴァルプスの赤い瞳と、黒い巻角を無機質に浮かび上がらせる。
レンズを向け、眠るレオンの顔のすぐ横で、満面の笑顔を作った。
カシャリ
影の魔法で減音されたはずの魔導音が、ヴァルプスの耳にはひどく傲慢に響く。
画面の中のレオンは、かつての峻厳な「聖者」の面影を脱ぎ捨て、ヴァルプスの腕の中で無防備な「ただの男」に成り下がっている。 もし彼が目を覚まし、自分の寝顔が悪魔界の専務室へ『エビデンス』として送信されていると知れば——。
ヴァルプスは背筋に走るリスクに目を細めつつ、指先を滑らせた。
◆
【件名:最重要資産・レオンの検収および現況報告】
バルナザール閣下。
対象は本日も当方のホールドを拒絶することなく入眠。
心拍・呼吸ともに当方の魔力波長への完全な同調を確認しました。
閣下、ボクはこの極上のインフラを、一生誰にも渡さず保守し続けます。
◆
送信ボタンを押す。
満足げに頷いたヴァルプスは、温かなレオンの体温に顔を埋め、背徳的な幸福感の中で眠りに落ちた。
※2026/05/21 大幅修正をしました。
※レオンとヴァルプスはほぼ添い寝と手繋ぎしかできていません。




