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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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第124話:『宣戦布告と深夜の「利息」 ー 01/27 15:00 執行開始』

第1部:宣戦布告と深夜の「利息」


 十二月某日。

 レオンの個人端末が、深夜の静寂を切り裂くように震えた。

 届いたのは、一通の宣戦布告。


 件名:【強制提案】貴殿の「化けの皮」の補修、および現場兵站について

 差出人:株式会社クリンチ・ワークス サカグチ・テツヤ


 拝啓、元・死に損ないの冒険者。

 先日の会見映像、反吐が出ました。あのライティングでは、貴殿の「角」が安っぽいセットに見える。

 四百六十年も生きて、自分をゴミだと思っている男のツラをあんな「素人仕事」で晒すのは、私の二十年に対する冒涜です。


 二十年前、飽きたガムのように私を捨てた利息を、仕事で返してもらう。

 明日午前、伺います。拒否権は、二十年前に貴殿が買い叩いた私の人生に含まれています。



--



「拒否権は、ない、か」


 画面に踊る傲慢な一文を、レオンは三度反芻した。

 レオンにこれほどまでに純度の高い「呪い」をぶつけられる人間は、記憶の中では一人しかいない。


 かつて、経営破綻しかけていた零細制作会社を「買い叩いた」のはレオンだ。

 救済ではない。ただの退屈しのぎだった。


「自立できたようで、何よりだ」


 レオンの薄い唇が、わずかに弧を描く。

 それはかつてパトロンとして見せた傲慢な微笑みか、あるいは、自分という「ゴミ」をこれほどまでに高く見積もる男への、皮肉な感謝か。


 記憶の底、怒りに任せて自分に三脚を投げつけてきた青年の顔が浮かぶ。

 二十年前、手放したはずの「玩具」が、今は自分を縛り上げるクリンチとなって戻ってきていた。



--



 一月二十七日 十五時


「では、段取りを始めましょうか」


 画面の向こうで、サカグチ・テツヤが冷たく言い放つ。


 モニターには、歪な均衡を保つ四つのウィンドウ。

 中心に、全ての「餌」であるレオン。

 右に、手入れの行き届いた銃器のような冷徹さを纏うテツヤ。

 そして下段には、レオンという素材をどう「料理」するかしか考えていない二人の怪物が並んでいた。


「明日一月二十八日。

 星読神系統・天球図教会アストロ・カテドラル

 滞在許可は四時間ですが、使い物になるのは日没直前の『マジックアワー』のみ」


 テツヤは、血の通わない予算書をスワイプする。


「ドネーション(寄付)の名目で口は塞ぎました。

 本来商用不可ですが、現場では『清掃ボランティア』のていで動きます」


「……相変わらず、手際がいいな」


 レオンが呟くが、テツヤは視線すら合わせない。


「褒め言葉は不要です、主演。

 バーソロミューさん、十六時までは一般客がいます。

 三脚を立てた瞬間に警備員に叩き出されますよ。

 端末でアングルを『盗む』程度に抑えておいてください」


「——ああ、美しい」


 右下のウィンドウで、バーソロミューが恍惚とした声を漏らす。

 彼は提示された大聖堂の見取り図ではなく、レオンの「骨格」を眺めていた。


「この角度の西日は、残酷だ。だが、その残酷さこそがレオン様を聖性へと昇華させる。

 ……光で嘘をつきましょう」


「……チッ、甘いんだよ」


 左下から、石を削るような声が割り込んだ。バルトロメだ。

 彼はずっと、レオンの喉元だけを凝視している。


「光で装飾してどうする。観客が観たいのは『救い』じゃない。

 高潔なエルフが泥を啜り、中身が『悪魔』だと暴かれるその瞬間——崩壊の音だ」


 バルトロメの視線が、画面越しにレオンの皮膚を焼く。


 レオンの背後、画面には映らない「影」の温度が、数度下がった。

 ヴァルプス。

 まだ一言も発していない。だが、バルトロメがレオンの「崩壊」を口にした瞬間、自分の首筋を撫でる冷気を、レオンは感じていた。


 レオンは、ゆっくりと椅子の背に身を預けた。


「——いいだろう」


 誰に向けた言葉でもない。

 だが、全員が息を止めた。


「光で嘘をつけ、バーソロミュー。

 そして——バルトロメ」


 レオンは、わずかに喉を鳴らす。


「両方だ。

 ……叔父上が最も『信じたくなる絶望』を、そのマジックアワーに閉じ込めろ」


 テツヤはそこでレオンに視線を投げる。そのあと目を伏せ、画面の向こうで使い古したデジタルペンを耳に挟み、手元のタブレットをスワイプした。


「……最終版を各員に共有しました。

 明日の入り時間は変更なし。

 何かあれば俺の携帯へ。二十四時間受け付けます。以上です」


 唐突に画面は切れていく。レオンは特に気にしたふうでもなく、なにもない宙を見つめた。


 思考に浮かぶのは撮影の話ではない。

 もっと根本的な、自分の生き残りの話だ。


 光を落とした室内で、その「かど」だけが、不自然な影を落としている。


 ——明日は、ロケハン。

 だが、あの教会で崩れるのは。

 果たして「演出」だけで済むのだろうか。


 ヴァルプスが背後から近寄ってきた気配を感じる。

 レオンは椅子を回して、あえて彼を向き直り、口を開いた。


「ヴァルプス。そういうわけで、明日は教会を見に行くことになった」 


「……はい」


 ヴァルプスは、レオンの表情を伺っている。彼は軽く警戒するものの、レオンの唐突な発言には慣れていた。

 一月二十二日に聞かされたレオンの叔父オスカル隔離策——映画制作。

 ヴァルプスは、その情報を淡々と収集していた。


 レオンは努めて冷静な顔で、太ももの上で両手を組む。それからヴァルプスを見上げた。


「……一緒に、くる?」


「同行して、よろしいのでしたら」


「演技をすることになるから、多少、君の想定外のことが起こるかもしれない」


「……かまいませんよ」


 ヴァルプスは軽い期待をこめて見下ろす。彼は観察という欲のままにレオンの青い瞳を覗き込む。

 レオンはヴァルプスの言葉に少しだけ表情を緩め、今度はわずかにヴァルプスの視線から逃げるように視線を落とした。


「あとね、五月二十日に権利移譲となる一魔貨契約……私そのものを売り渡すための契約についてだけれど。

 ……契約の締結場所も、同じ教会がいいと思っていてね。

 星読神の教会なら、悪魔でも問題にならない。

 神父が一人いれば、形式は整う」


 ほんの少しの柔らかさを含んだ口調と声音に、ヴァルプスは顎を上げてレオンを見下ろした。


「……なるほど。契約の証人ですか」


 レオンが自分の資産移転を整えていることに、ヴァルプスは言いようのない心のゆらぎを感じた。

 端末をポケットに収めると、ヴァルプスはその場に片膝をついた。管理官としての事務を終え、一人の執着者としての儀式を始めるかのように。

 レオンとヴァルプスの視線が、ほぼ同じ高さで交差する。


「現世でのしきたりは、正直どうでもいいのですが。

 ……あなたが、ボクのものになると、実感してくださるのであれば」


 ヴァルプスはそっとレオンの手に手のひらを重ねた。その手は冷たく、レオンは目を細めた。

 事実をヴァルプスに告げられるたび、心の奥に本来の願いが小さく灯る。

 レオンは逃げる代わりに、自らの指をヴァルプスの冷たい指に絡ませた。それは契約への同意というより、自身の所有権を放棄した受刑者のような、静かな指の動きだった。






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