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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン2:オスカル最終承認編】Q1

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122/166

第117話:『沈黙の招待状 ー 01/27 9:00 執行開始』

第2部:沈黙の招待状


 午前九時。ド・ラ・ノワール事務所の最上階執務室。

 朝方、「腹筋一回」に心血を注いでいた男――レオンは、ホログラムディスプレイの前に座っていた。


--


 件名: Re: 【親展】デイリー・エグゼクティブ・サマリー(07:00)

 差出人:バルナザール・特別顧問


 レオン。

 昨日の面会は見事な「沈黙」だった。

 君が一切の言葉を排し、代わりに「あの香り」で私を迎え撃ったこと、その意図は十分に受け取った。

 二十一日に私が刻んだ「熱」を、君は一滴の汗も見せず、あの冷たい森の香りで凍らせてみせた……実に唆るよ。


 さて、昨日の君の「回答」を踏まえて聞く。

 君にとって「沈黙」とは、拒絶の盾か? それとも私への「招待状」か?

 今日のサマリーの末尾には、君がいま好きな「色」を添えてくれ。


--


 件名: 【親展】デイリー・エグゼクティブ・サマリー(09:00)

 差出人: CEO レオン・ド・ラ・ノワール


 バルナザール顧問。


 昨日は失礼いたしました。

 ご質問の件ですが、昨日の『沈黙』は単なるオペレーション上のリスク管理(ニンニク臭漏洩防止)によるものです。他意はありません。

 好みの色は、現在のポートフォリオの安定性を示す『金』を推奨いたします。


 本日の業務に入りますので、以上です。


--


 一月二十七日 九時五分


 執務室の窓際で、レオンは送信完了のサインが明滅するホログラム画面を閉じ、深く溜息をついた。


「……なんだか。顧問からの返信が詩的だな。

 ……私も、詩の勉強をするべきだろうか」


 隣で魔導タブレットを操作していたメイが、眼鏡の奥で冷たく光らせる。


「……どうやら、あの案内状を『招待状』として、脳内で完全に再定義されたようですね」


 ヴァルプスが影の中からレモン水の入ったグラスを差し出す。


「レオン。あまり不必要なやりとりは控えたほうがよろしいかと。

 あなたが提示した『金』が、顧問の脳内でどのような色彩に読み替えられたか……想像に難くありません。

 とはいえ、当面は顧問のモチベーション(誤解)も維持されます」


 レオンは冷たいレモン水を一口飲み、顧問の「投影の詩」に対する困惑をようやく中和した。


「……モチベーションか。……なら、いいんだが」


--


 背後に控えるヴァルプスが、懐中時計の蓋を音もなく閉じた。

 促され、レオンは重厚な自動扉を抜ける。十一時の予約まではまだ余裕があった。


 事務所の裏口で魔導端末を操作していたマルヴェイが、レオンの姿を見つけて微笑む。

 彼は健康診断と、自身の悪魔化した身体の調査のため同行するよう依頼されていた。


 レオンのパーソナルスペースに近寄ろうとするマルヴェイの前に、ヴァルプスの長身が立ちはだかる。


「……こんにちは、ヴァルプスさん」


「……こんにちは、マルヴェイさん。本日はよろしくお願いします。

 本日は共同戦線ですが、レオン様のパーソナルスペースは私の管理外です。

 一歩、お下がりください」


 ヴァルプスは一礼したあと、レオンとマルヴェイの間に存在を固定するように位置どってから、片手を上げた。

 石床から四つの質量が染み出すように具現化する。それは人間というより、ヴァルプスが意志で鋳固めた盾たちだった。


 漆黒のタクティカル・スーツ。表情を消したフルフェイスバイザー。内部は個を捨てた『デッドロック』。

 バイザーの青い光はLVA認証システムと同期する外部端子で、彼らにとってこの重装備は「聖域を蹂躙する正装」だった。


 膝を突く四つの「質量」を見下ろし、レオンは満足げに目を細める。


「……カイ、リン。それにベルとギブスか」


 ヴァルプスの部下たちを、レオンは迷わず個人名で呼ぶ。

 その瞬間、リンのバイザーが明滅し、ギブスの肩が僅かに震える。


「……レオン」


 ヴァルプスの声が低くなる。


「再三申し上げています。同期にノイズを混ぜないでください。

 精密機器が熱暴走しては、十一時に間に合いません」


「いいじゃないか……好きなものを好きだと、言わせてくれ」


 ヴァルプスの瞳が一瞬暗くなる。それは他人――部下だからこそ、心を開くレオンへの感情だった。


 同期に微細な遅延が生じる中、部下たちは硬直する。

 その隙間を、レオンは優雅な足取りで通り抜けた。

 ヴァルプスが端末を操作すると、四人のバイザーに強制冷却信号が送られる。

 だが一度灯った「熱」までは消し去れない。

 マルヴェイは、名前を呼ばれただけで壊れそうになる部下たちを見つめ、口角を上げながらレオンの後に続いた。





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