第114話:『不純な熱の再構成 ー 01/27 2:50 執行開始』
第4部:不純な熱の再構成
「……飼い犬、だと……?」
レオンは、マルヴェイの靴を掴んだまま、低く、濁った声で繰り返した。
指先に力が入らない。立とうとしても、膝が言うことを聞かない。
視界の端で、マルヴェイが迷わず膝をつくのが分かった。
彼の手が、レオンの震える指先を、骨が軋むほどの強さで包み込む。
――熱。
マルヴェイから流れ込んでくる、執着という名の「不純な熱」。
レオンはそれを拒絶せず、むしろ飢えた獣のように吸い上げた。
ヒュームという聖域を暴かれ、空っぽになった自分の「初期セクタ」を、マルヴェイの熱で無理やり焼き固める。
ほんの一瞬だけ、焼き固めたはずの内側が、軋んだ。
「……いいだろう。見ていろ」
レオンは、マルヴェイに支えられながら、ゆっくりと、しかし確実に立ち上がった。
先ほどまで床に額を擦り付けていた男とは、もう別人の顔だった。
瞳から涙の痕跡を消し、表情筋を「事務的な仮面」として再構成する。
彼はマルヴェイの手を握ったまま、バルトロメを見据えた。
今度は、震えさえもない。
「……私は、死にたかったんだ」
声は、高解像度の合成音声のように平坦だった。
感情はすべて、「過去の故障履歴」として出力される。
「マルヴェイが隣にいて、ヴァルプスが管理し、叔父上が私を愛でて、顧問が私を支配する。
……外側を塗り固められるほど、私は私の死から遠ざかっていく」
一拍。
マルヴェイの手を握る力が、一瞬だけ、機械的な正確さで強まる。
「……もう、戻れない」
わずかに、間が空いた。
「……ヒューム。この名前は、記録だ。
花に囲まれただけの、乾ききった記録」
静寂。
バルトロメが、満足げに喉を鳴らした。
「……合格だ。レオン・ド・ラ・ノワール」




