第109話:『調和する属性 ー 01/26 20:00 執行開始』
第3部:調和する属性
ニードルが、六本の腕で奥の棚から三本の反物を引きずり出してくる。
霧の中で、それらは生物のように脈打ち、独特の光彩を放っていた。
「……さて、ガワの『属性』を選べ。 一千五百万の予算だ。
……お前の『魂の残滓』に馴染む、最高級の概念色を用意してやったぞ」
ニードルは反物を指さしながら、空いた手で顎に手を当てる。
「おまえの褐色肌は魔力を蓄積しやすい性質を持っている。
スーツの色が肌と干渉すると、プロトコルの同期率が下がる。
……今、ここでスキャンして、肌のメラニン量とプロトコルの発光色(青)が最も調和する波長を決定しろ」
レオンはひとときの休憩を得て荒い呼吸を整えながら、提示された三色を見つめた。だが、彼が口を開くより早く、左右から「助言」という名の包囲網が敷かれる。
「レオン。右端の『静寂の灰』はどうでしょう。
……顧問の暴力的な魔圧を、砂が水を吸うように『無音』へ変える。
……決算の場で、あなたがどれほど罵倒されても、そのスーツだけは『沈黙』を貫き、あなたの尊厳を守り抜くでしょう」
ヴァルプスが、レオンの耳元で甘く、しかし逃げ場のない声で囁く。
間髪入れず、マルヴェイが反対側から鏡越しに鋭い視線をぶつけた。
「……いや、私は中央の『真夜中の紺』を推すね。これが最も『魔力変換効率』が高い。
……レオン、君はただ立っているだけでいい。顧問が激昂すればするほど、その怒りは魔力へと変換され、A.I.D.Aの演算リソースを潤す。怒られれば怒られるほど、我々のシステムが強化される。
……これほど『合理的』な勝利はないだろう?」
二人の視線がレオンに突き刺さる。
それは「どちらが良いか」という問いかけではなく、「どちらの地獄(機能)が、よりCEOとしての責任を果たせるか」という、冷徹な詰問だった。
銀糸に縛られたレオンには、提示された色が本当に別のものなのか、それとも自分を惑わす幻覚なのか、その判別すら曖昧になり始めていた。
「……どちらも……機能的で、いいと思う……」
レオンが絞り出すように答えると、二人は当然の結論であるかのように、深く、満足げに視線を交わした。
「「では、その中間――『生き残るための黒』で決まりですね」」
息の合った唱和。それはまるで、最初から用意されていた正解を読み上げるかのようだった。
ニードルの巨大な裁断バサミが、空を裂き、漆黒の反物を迷いなく断ち切った。




