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1魔貨の聖騎士 ― 価値ゼロCEOと悪魔の強制執行監査契約  作者: 暮夜すと
【シーズン1:バルナザール決算編】Q1

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第9話:『光の檻、未完の再会』— 鑑賞(資産評価)

※Q1はレオンのどん底精神を上げていくシーズン。次回のQ2からビジネスBLファンタジー。


第1部:鉛筆と記憶の間



雪消えの淡い日光が部屋に広がる午後。


窓から差し込む光は、レオンの画用紙に柔らかく落ち、その白さを残酷なほど鮮やかに際立たせていた。空気はけだるい冷たさを孕み、吹き抜ける風がカーテンを緩やかに揺らす。その穏やかな静寂の中で、レオンはただ無言で、目の前の白い空間を見つめていた。


彼の指先は、自分でも制御できないほど微かに震えていた。 真っ白な紙を見つめるたび、脳裏にはかつて「感覚共有」の腕輪を通じて流れ込んできた、あの暴力的なまでの多幸感がフラッシュバックする。 喉の奥を焼くような甘い菓子の味、自分のものではないはずの、けれど自分以上に高鳴っていた小さな心拍――。 その鮮烈な記憶が、現在の静止した時間と衝突し、耳鳴りのような不快感を呼び起こす。


「君を……描かせてもらえないか?」


絞り出すような声で、レオンはその言葉を口にした。言葉が出るたびに、胸の奥で痛みが生まれる。かつてなら、ただの命令として出ていたその言葉が、今は必死に理性を保とうとする自分の精一杯のお願いに変わっていた。


「嫌だったら、断ってもかまわない。

ただ……終わるまで時間はかかると思う。君が待つことに耐えられるかは分からないけれど、試してみてほしい」


彼の瞳には、過去の彼を受け入れる覚悟と、目の前にいる存在への深い敬意が交錯していた。


ヴァルプスは一瞬、眉をひそめた。その微かな動きさえ、今のレオンには自分を裁く天秤の揺れのように見えた。だが、悪魔の赤い瞳はすぐに冷徹な凪を取り戻す。


「もちろんです、レオン。貴方の望むままに」


その声は、深淵から響くように穏やかで、容赦のない信頼に満ちていた。


ヴァルプスは音もなく椅子に座り、レオンを見据える。その姿は、かつての華奢な少年の面影を美しい骨格の裏側に隠し、強さと脆さが危うい均衡で同居する「青年」へと変質していた。





第2部:描かれた強さ、失われた温もり



レオンは目を細め、鉛筆を手に取った。

紙の上に軽く触れるように、最初の線を引く。その線が形を作り始めると、心臓が締め付けられるような感覚が襲ってきた。


最初は躊躇いがあった。それでも、次第にその手のひらに流れる感覚が馴染み始め、レオンは手を止めずに、ヴァルプスの顔へと視線を向けた。


目の輪郭を描くたびに、胸に鋭い痛みが走る。ヴァルプスの目は、あの無邪気で柔らかだった日々のものとはまるで違っていた。あの頃の輝きは、今では遥かに遠く、冷徹な視線が心を貫いてくる。レオンはその目を必死に描こうとするが、どこまで描いても、あの「魂の震え」は感じられなかった。


無理に追い求めるほど、その目からますます遠ざかっていくような気がした。


上級悪魔になってからヴァルプスの額からは魔紋が消えていた。力を使うときに現れるとは聞いているが、それは視覚的な意味ではレオンを寂しくさせるものであった。


次に、首筋、肩、腕と視線を伸ばす。首元には、かつてレオンの指が触れたことのあるあの滑らかな皮膚が広がっていた。しかし、今のヴァルプスは、あの頃のやわらかな線を超えて、引き締まり、逞しく、力強くなっている。レオンはその肩を描きながら、確かに変わった「彼」を感じ取っていた。

そして腕、筋肉のラインを描くたびに、レオンは無言の痛みが胸を刺すのを感じる。あの時の温かい指先の感触が、今のヴァルプスの冷たい外見に無理に合わせられないことに、必死で向き合っていた。


その次に胸に手が進む。広く、強さを感じる筋肉、その下に確かな鼓動を感じる。しかし、レオンはその鼓動を無視して描き進む。手を進めるたびに、痛みが深く、冷たく染み込んでくるようだった。


腰、筋肉の張り、無駄のない流れが描かれていく。その一つ一つを描くたびに、レオンは違和感を覚えた。これは、あの「彼」ではない。どれだけ手を加えても、今のヴァルプスがそこにいるだけで、レオンの中で何かが崩れていくのを感じた。


足、そしてつま先まで。全身を描き進めるたびに、レオンはさらに自分の中で何かが壊れていくのを感じる。ヴァルプスの強さ、冷徹さ、その存在そのものを描こうとしているのに、全てがレオンを圧し潰すように感じられる。


(彼はもう、あの時のヴァルプスじゃない……)


でも、なぜだろう。描けば描くほど、過去に戻りたいと思う自分がいる。それは、ただ過去のヴァルプスを失いたくないからだろうか? いや、違う。今のヴァルプスがあまりにも遠くて、手が届かない気がするからだ。


温かさを求める自分がいる。

無意識に指先が、かつてのヴァルプスの温もりを探して動くが、それはもう届かない。

でも、手を進めるたびに、心の中でひときわ深い痛みが募る。

それはただの懐かしさではなく、今、目の前にいる彼との「距離」を自覚する痛みだった。


過去のヴァルプスがどれほど温かかったかを思い出す度、今の冷徹な姿があまりにも遠く感じられ、レオンはただその深い「隔たり」を描き続けていた。


痛みが深く冷たく染み込んでくる。彼の筋肉に触れるたび、冷たい感触が指先に伝わり、無意識に温かさを探す自分がいる。しかし、もうその手は温もりを感じることはない。―どこまで描いても、あのヴァルプスはもう、いないのだろうか。


その距離の重みが、レオンの胸を圧し、痛みとして刻み込む。あまりにも遠くて、手が届かない。

彼は肩を震わせた。けれど、その震えが過去の温もりを求めるものなのか、それとも今のヴァルプスを受け入れようとするものなのか、その感情を言葉にできずにいた。


レオンは目を閉じて深呼吸をし、鉛筆の音だけが響く静かな部屋で、過去と現在の隔たりに圧倒されていた。何度も振り返りたいと思いながら、それがもはや不可能だと、心の中で繰り返す。


描き進める手が無意識に硬くなり、鉛筆が紙を押しつける感覚に力が込められていく。その硬さが、今のヴァルプスそのものであるかのように感じられ、鉛筆が紙を切り裂くように進んでいった。


温かさを求め、手は止まらない。しかし、その動きが、過去のヴァルプスを埋葬するかのように、彼の思い出を塗りつぶしていくことを、レオンは痛みとして感じていた。





--





レオンは、鉛筆を進めながら、ヴァルプスの角に目を向けた。その黒い捻れた角は、少年時代のものとは比べものにならないほど大きく、力強くなっていた。薄く翡翠の線が、その黒い角を彩るように浮かび上がり、ヴァルプスの成長を目にするたびに、レオンの胸に新たな感情が湧き上がる。


(これが契約の力か……)


心の中で呟きながら、レオンはその角を一線一線描き進めた。


今のヴァルプスは、かつての小さな少年ではない。それは確かに彼の「成長」そのものであり、その変化には驚くべき力が宿っていることを、レオンは認めざるを得なかった。


描きながら、レオンはふと、自分の胸が少しだけ楽になるのを感じた。


ヴァルプスの変化を前にして、無意識のうちにその力を称賛する気持ちが芽生えていた。彼は確かに、どこまでも強く、冷徹に変わった。それが悲しいのか、誇らしいのか、今のレオンには分からない。でも、確かなことは一つ。彼はもはや、あの頃のヴァルプスではないのだ。


「成長したな、ヴァルプス」


レオンはその言葉をつぶやきながら、鉛筆を少し止めた。あの頃、彼はまだ力に震えていた。ただの少年だった。今、目の前にいるのは、確実に別の存在だ。


レオンはその変化を感じる一方で、心の中に言いようのないものが湧き上がる。それは誇らしさでも、悲しみでもなく、ただただ「遠くなった」と感じることだった。


それでも、ヴァルプスが成し遂げた力を讃える気持ちは否応なく胸に湧き上がってきた。

彼は強く、強靭に変わった。

でも、その成長が何を意味しているのか、レオンにはまだ答えが出せない。

レオンは思わず深いため息をついた。その表情には、少しだけの驚きと、少しだけの誇りが混じっていた。

レオンは静かに、ヴァルプスの角に視線を向ける。

彼の目の前に広がるのは、少年時代の黒く小さな角ではない。


今、そこにあるのは、力強く鮮やかな色を帯びた二本の角。深く渦を巻くその形状は、まるで時の流れを拒絶するような不変性を放っている。


その美しさはただの外見のものではなく、ヴァルプスの存在そのものから来る力強さを感じさせた。変わらないもの。それがどれほどの力を持つのか、レオンはその角に触れるように目を凝らした。


その角を見つめるうちに、レオンの心にひとすじの光を灯した。

彼が探し求めていた『変わらぬもの』を、ようやく目の前に見つけた気がした。

その角の美しさに、レオンは心の奥底から静かな高揚感を覚えた。


失われたものを取り戻すような感覚が、胸に温かさを広げる。


鉛筆を握る力を弱め、丁寧に角の輪郭を重ね、慈しむようにゆっくりと線をなぞる。その優しさを込めて描く度、レオンの心は少しずつ温かくなるような感覚に包まれた。そして、最後の一筆で角を描き終えた。


「こんなに…きれいだったのか」


呟くようにそう言うと、レオンは無意識にその言葉に自分でも驚く。彼が感じたのはただの美しさだけではない。何か、深い不変の力がそこに宿っているように感じられた。


何かに逆らうことなく、ただ静かに在るその力強さに、レオンは心の中でひとしずくの喜びを見つけた。

無意識に口元が緩み、静かな高揚感が浮かんだ。変わらないものを見ていることで、レオンは確かに何かを取り戻しているような気がした。


自分の内側で、長い間失われていた感情が、静かに目を覚ます。

そして、その瞬間、レオンは気づく。

ヴァルプスの角は美しい。美しさは、ただ見た目だけのものではなく、彼が持つ不変性そのものから来るものだ。そしてその不変性が、レオンの心の中にひとつの光を灯した。


彼がいつも探していた「変わらぬもの」を、まさにいま、いま、目の前で見ている。


レオンは言葉を探すが、それは簡単ではない。心の中に膨らんだ思いを、どう表現すればいいのか分からなかった。無意識に、言葉にすることをためらってしまう。ヴァルプスに対して、何を言えばいいのか、どんな言葉がふさわしいのか──。

けれど、その心の動きが確かに、レオンの内側で響いていた。


「この角のカーブ、まるで芸術品のようだ。すごく、素敵だよ」


レオンの言葉は、思いのほか力強く響き渡った。その言葉は、レオンがヴァルプスに対して持つ純粋な敬意と、何よりもその変化を称賛する気持ちの表れだった。


ゆっくりと、そして確信を持って発せられた言葉が、ヴァルプスに届くことをレオンは願った。




第3部:変わりゆく視線、交わらぬ距離


ヴァルプスはただ静かに、レオンの手が鉛筆を動かすたびに視線を送っていた。


表情は一切動かず、その目の奥ではレオンが筆を進める度に浮かび上がる感情を感じ取っていた。過去のヴァルプスを失いたくないという思い、それを描くために必死に手を動かすレオンの内面に、彼はすでに気づいている。


(彼は、やっぱりまだあの頃のボクを求めているのだろうか…)


心の中で呟きながらも、ヴァルプスはその表情を崩さない。レオンが変わったことに気づくのは驚きではない。だが、彼が求めるものが何か、どれほど自分に依存しているのか。そんな思いが頭をよぎる度に、ヴァルプスの心は一瞬だけ冷たく、わずかな期待を抱く。


(レオン、君は本当に変わった。

けれど、その変化がどれほどの深さを持つのか、ボクにはまだわからない)


その言葉はヴァルプスの心の中で反芻されるものの、外に出ることはない。しかし、彼の内心ではその思いが繰り返され、彼がかつてレオンに与えた支配力が今も彼の中で生きているのか、それとも依存へと変わったのかを確かめたくてたまらない。


(あの頃のボクに戻りたいわけではない。

ただ、今のボクをどう思っているのか、それだけが気になる)


レオンを試すことなく、ただ静かに待っているだけで、レオンがどれだけ依存してくるのか。それを確かめたくてたまらない自分がいる。試すという言葉に少しだけ皮肉が混じり、ヴァルプスの心にわずかな冷笑が浮かぶ。


(君がどれだけボクに依存しているのか、確かめさせてもらおう)


その決意を固めると、ヴァルプスは再び無言でレオンを見守り続けた。彼の瞳には冷徹さと、密かな期待が隠されていることを、レオンはきっと感じ取れないだろう。それでもヴァルプスは、何も言わずにその静かな観察を続けるだけだった。


鉛筆が紙の上を擦る音が深くなる度に、ヴァルプスの心も揺れ動く。しかし、それは決して表に出さない。ただ、視線でその震えを捕えるのみ。レオンが描く線が、彼の記憶を掘り起こしているのを感じる。首筋、肩、腕――触れたことのある場所が次々と描かれていく。


(レオンの指が触れたあの頃とは違う。

今のボクはもう、あの時のヴァルプスじゃない)


少年の姿の頃はまだ未熟だった。今の自分は強く、知識も増え、冷静な心を得た。それでも、何かがかつての自分に重なる気がして、ヴァルプスは少しだけ目を細める。


過去と現在が交錯する瞬間、彼はその違和感に一瞬だけ捕らえられ、けれどすぐに無理やり意識を戻す。


(過去のヴァルプスに戻ることはない。

けれど、レオンがその記憶を求める限り、この関係は続くのだろう)



--



レオンの視線がヴァルプスの頭上に向けられる。


ヴァルプスの角と紙を、レオンの視線が行き来する。その瞬間、ヴァルプスは微かにその目線を感じ取った。レオンの表情がわずかに和らぎ、目がわずかに見開かれ、日の光の煌めきを捉えたのを見て、ヴァルプスはその瞬間、どこか胸の奥が温かくなるのを感じた。それは、思いがけない反応だった。


レオンが唇を動かし、音にならない言葉を紡いだのがわかった。彼は気持ちを落ち着かせるように口を引き結び、それから深いため息をつく。その表情には少しだけ驚きと誇りが交じったように見えた。


レオンが静かに、ヴァルプスの角に視線を向ける。その瞳には確かな慈愛の色が重なっていた。その瞬間、ヴァルプスの胸に微かな違和感が走る。


「こんなに…きれいだったのか」


レオンは淡く微笑んだ。レオンの青い瞳に羨望が交じる。ヴァルプスの肌がぞくりと泡立つ。


「この角のカーブ、まるで芸術品のようだ。すごく、素敵だよ」


レオンの言葉が力強く響いた。


ヴァルプスは無意識に息を呑み、少しだけ目を細めた。

レオンが放った称賛は、ヴァルプスにとって予想外のものだった。


(褒められることが、こんなにも心を動かすものだとは――

いや、違う。それはただの感情の迷いだ。

どうしてボクは、貴方の一言にこんなにも動揺しているのだろう?)



感謝や喜びを感じる前に、彼の胸に突き刺さったのは、拒絶に似た息苦しさだった。

けれどすぐに、その感情を押し込める。彼の心に響くその言葉を素直に受け入れたくない、という反発が、すぐに冷徹な表情に変わった。




第4部:見つけた救い、繋がる依存


(……やめてください、レオン。そんな風に、貴方の力だけでボクを見つけないで)


ヴァルプスは無意識に喉元に手をやる。そのしぐさは、自分の支配が揺らぐことへの不安を無意識に表していた。レオンが依存し、過去を嘆き、震えている限り、ヴァルプスは「管理者」としてその全てを支配してきた。しかし、今のレオンの瞳には、かつてのレオンのような、自律した力強い感嘆が宿っている。レオンが今、自分一人の力で「救い」を見つけてしまったのだと、ヴァルプスは直感的に感じ取った。


「……そうですか。そんなに気に入っていただけたなら、光栄です」


ヴァルプスは鉄のように冷徹な微笑を浮かべた。だが、その内側では不安が荒れ狂い、一瞬、呼吸が乱れそうになった。レオンが自立し、過去の呪縛から解き放たれるということは、いつか彼がヴァルプスの手を離れ、自分自身の道を歩き出すことを意味している。


「でも……主さま。

貴方がこの角を芸術品と呼ぶのなら、ボクは一生、この形を変えることは許されないのでしょうね」


ヴァルプスは椅子から静かに立ち上がり、ゆっくりとレオンの方へ歩み寄る。彼の歩みは冷徹で、どこか獲物を追い詰めるような威圧感を帯びていた。目を合わせず、背後から彼に近づき、肩に冷徹な指先を置く。


「貴方が定義したボクは、貴方の手で守り続けてもらわなければ困ります。

……ボクを、ボク一人で『完成』させないでください。

貴方の視線がなければ、この角も命もただのガラクタに過ぎないのですから」


レオンはその言葉を受け止めると、少し後ろに引いた。無意識にヴァルプスから距離を取ろうとするその動きは、どこか躊躇っているようにも見えた。


ヴァルプスは冷徹な表情で、レオンを見守りながら続ける。


「貴方がどう感じているのか、ボクはよくわかります。

でも、それを拒んだら、貴方が見つけた『救い』は、すぐに崩れてしまう。

それがボクの『役目』なんです」


その言葉が静かに、レオンの心に響く。ヴァルプスの声は冷たく、そして重い。その音が、静かな圧力となって、彼の心に重くのしかかる。


彼の言葉は、表面上は単なる忠告のように聞こえるが、その裏には新たな依存を背負わせる呪縛が隠されていた。レオンに自己肯定感を与えるようでいて、その実、「ボクの美しさを守る責任は貴方にある」という無言の命令が込められている。


ヴァルプスの目がわずかに細まり、沈黙が長く続く。その静けさが、レオンの心に重くのしかかる。

目に冷徹な意志が宿り、まるで暗黙の圧力を加えるように、レオンを試すように見つめ続けた。


「……ヴァルプス?」


レオンは少し戸惑いながら振り返る。彼の瞳には、先ほど感じた「光」を確かに受け入れたはずだが、ヴァルプスの言葉によって生まれた暗い執着への困惑も同時に見て取れる。ヴァルプスはその「困惑」を見て、ほんの少しだけ呼吸が楽になるのを感じた。


(……ああ。そうだ。それでいい。

貴方はボクを褒め、ボクを敬い、そしてボクなしではいられないままでいてください)


レオンの心の中で芽生えた「光」を、ヴァルプスは自分の「闇」で塗りつぶす。それは一つの共犯関係。お互いに、冷徹で計算された駆け引きの中で生きる関係だ。


レオンは少し後ろに引くように、僅かにヴァルプスから距離を取った。

無意識に彼からの圧力を避けようとしている。しかしその動きは、決して完全に逃れるものではなかった。レオンは自分の心がどこに向かっているのかを確かに感じ取っている。


(この距離で、少しでも心が軽くなるのだろうか?)


その答えが見つからず、レオンの心の中で迷いが増していく。

自分の手で「救い」を見つけたはずなのに、ヴァルプスの言葉が彼を引き戻し、再び囚われの身にしているような気がした。果たしてこのまま、ヴァルプスの手の中で生きるべきなのか、それとも。


その答えを見つけるために、レオンはほんの一瞬の間だけ立ち止まり、ヴァルプスを見つめ返す。


その瞳に、迷いが揺れ動いていることを自覚したまま、レオンはしかし、ヴァルプスから目を離さなかった。


——この決断が、果たして自分を成長させることになるのか、否か。


(……私は、見つけてしまったから)


ヴァルプスは一瞬、窓の外の光に目を向けた。光は、どこか遠くて、手の届かないもののように感じられた。それでも、再びレオンに目を戻すと、そこに見えるのは、二人を繋げる揺るがない線。


その線は、決して途切れることがないように思えた。




※本作は、noteにて先行公開していた記録ログのアーカイブ版です。

※ 収集家の物語:短編集(450歳時代)

第16話:『揺らぐ境界、触れ合う魂』関連 レオンとヴァルプスのねっとりフェチ回

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