血まみれのエレベーター(フィクション)
夜勤の深夜三時。
病棟は静まり返り、ナースステーションの時計の音だけが響いていた。
A看護師はカルテを整理しながら、ふと背伸びをする。
「もう少しで夜明け……」
B看護師はうつらうつらしながら記録を書き込んでいた。
「眠気が限界だよ。あと数時間が長いんだよね」
そこに、D看護師が仮眠から戻ってきた。
「……静かな夜ほど、変なことが起きやすいよ」
霊感の強い彼女の言葉に、AとBは一瞬顔を見合わせた。
午前四時。
薬剤を取りに地下の薬品庫へ行こうと、Aはひとりエレベーターに乗った。
扉が閉まり、下へと動き出したときだった。
――ぽたり。
天井から赤黒い液体が一滴、足元に落ちた。
Aは思わず息を呑む。
「……水漏れ?」
だが、光沢を帯びたそれはどう見ても“血”だった。
目を凝らすと、壁の隙間からもじわじわと赤い液体がにじみ出ている。
エレベーターは何事もないように下へと動き続けていた。
「止まって……!」
Aが操作盤のボタンを押すと、ようやくエレベーターは揺れながら止まった。
扉が開くと、目の前はただの地下廊下。
慌ててナースステーションに戻ったAは、蒼白な顔で二人に訴えた。
「エレベーターの中……血が、血がいっぱい……」
Bは笑おうとしたが、Aの表情の真剣さに声を失った。
Dは静かに頷く。
「……見ちゃったんだね」
「見たって……何を?」
「“ここに留まっているもの”。時々、血の跡や水のように見えるものを通して現れる」
朝、施設担当者に報告し、確認が行われた。
だがエレベーターの中も周囲も、何も異常はなかった。
床も壁も乾いたまま、赤い痕跡すらない。
「夜勤明けの疲れで幻覚を見ただけかもしれない……」
Aはそう思おうとした。
しかし帰宅前、もう一度エレベーターの前を通りかかったとき。
扉が閉まる直前、床にわずかに広がった赤黒い染みが、確かに目に入った。
瞬きした次の瞬間には、もう何もなかった。
背筋に冷たいものを感じながら、Aは小走りに病院を後にした。
エレベーターのランプが、まるで血の色のように赤々と灯っていた。
本当は笑い話になったんですけど。本人が見つかるまでは結構大変でしたが・・・(汗




