そういう診療科ではない!(フィクション)
研修医が来てから続いた急変と死。
誰も声に出さなかったが、病棟全体が“異変”を感じていた。
A大学病院血液内科。
七月の病棟は、珍しく穏やかな日々が続いていた。急変も少なく、外来も落ち着いている。患者たちの経過も比較的安定し、スタッフの間には「こんなに静かな日々があるなんて」と笑顔すら見られた。
しかし、ある二人の研修医が病棟に配属されてから、空気は一変した。
研修医の到着
「今日からよろしくお願いします!」
明るい声で挨拶したのは、背の高い研修医と、眼鏡をかけた少しおとなしい研修医。
彼らは元気いっぱいで、看護師たちにも丁寧に頭を下げた。
「若い人が入ると雰囲気も明るくなるね」
B看護師がそう言ったのは、ほんの最初の一日だけだった。
次々と起こる急変
彼らが来て三日目の夜。
普段安定していた白血病の患者が突然の呼吸困難を訴え、酸素飽和度が急激に低下した。スタッフ総出で対応し、一命はとりとめたものの、その翌日には別の患者が急変した。
「立て続けなんて珍しいな……」
無雑医師が眉をひそめる。
A看護師も、記録用紙に震える手でペンを走らせながらつぶやいた。
「ここ数週間、何もなかったのに」
そして、その夜。二人の研修医が深夜のカンファレンスで口にした。
「血液内科って、やっぱり厳しいですね」
「亡くなる患者さんがこんなに多いなんて……」
その言葉が妙に胸に残った。
止まらない「連鎖」
数日後、病棟ではさらに二人の患者が続けざまに亡くなった。
片方は回復傾向にあった患者で、誰もが「もう少しで退院だね」と話していた矢先だった。
「……偶然にしては重なりすぎる」
B看護師が夜勤中に小声で言う。
「でも、病棟って時々こういう連鎖あるよね」
Aも同意はしたものの、心のどこかで「違う」と感じていた。
まるで、何かが“引き金”になっているような。
看護師たちのざわめき
「ねえ、気づいた?」
ある夜、C看護師がナースステーションで声を潜める。
「二人が病室を回った後って、不思議と患者さんの容体が悪くなるのよ」
「やめてよ、そんな言い方……」
Aは苦笑しつつも、心臓がざわめくのを止められなかった。
偶然なのか、それとも。
D看護師は黙ってカルテに記録をつけ続けていたが、ふと顔を上げてこう言った。
「……そういうもの、引き寄せる人っているから」
誰も返事をしなかった。
そして
研修医が配属されて一か月。
病棟は、かつてないほど重苦しい雰囲気に包まれていた。
亡くなった患者の数は、普段の倍以上。
「たまたま」「症例が重なった」と言い聞かせても、皆の胸に不気味な感覚が残った。
やがて二人の研修医は次のローテーションへ移動する日が来た。
「短い間でしたが、ありがとうございました!」
元気に頭を下げる二人を、スタッフたちは笑顔で見送った。
その日の夜。
病棟は嘘のように静まり返った。
急変もなく、亡くなる患者もいなかった。
「やっぱり……偶然だったのかな」
Aがぽつりとつぶやく。
Bは小さく笑った。
「そういう診療科じゃない、ってことよね」
けれど――その場にいた全員が、偶然という言葉に心から頷くことはできなかった。
まぁ、これは・・・フィクションなのか、ノンフィクションなのか・・・。




