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きっと来る(名前を出すと)(A大学病院・無雑医師の記録)

A大学病院の救急外来は、昼夜を問わず患者が運び込まれる。


救急車のサイレンが響くたびに、医療スタッフは慌ただしく動き、患者の命を繋ぎ止めるために全力を尽くす。そんな日常の中で、特に印象深かったのが、血液難病を抱える40歳前後の男性——Pさんだった。


初めて彼を迎えた夜、担架に乗った彼の顔は蒼白で、唇は乾いていた。


血液検査の結果は深刻で、緊急輸血と点滴治療を行う必要があった。処置の間、彼は一言も弱音を吐かず、静かに耐えていた。その姿と、退室する直前に見せた小さな笑みは、今でも鮮明に記憶に残っている。



Pさんは不定期に搬送されてきた。短いときは月に一度、長いときは半年以上空くこともある。しかしある日、スタッフ同士の何気ない会話の中で奇妙な事実に気付いた。「Pさん、最近見ないね」と名前を出すと、その日の夜に必ず彼が救急車でやって来るのだ。


初めは偶然だと笑い飛ばしていたが、その回数が増えるにつれ、冗談では済まされない空気になっていった。


誰かがその現象を「呼び出しワード」と呼び始め、スタッフ間では半ばタブーのように扱われるようになった。



「Pさ……」と誰かが言いかけると、「いうな!」と別のスタッフが即座に制止する。そんな光景が日常になっていた。それでも、何気なく名前が出てしまうと、決まってその夜に彼が運び込まれてくる。


救急車のサイレンが遠くから聞こえ始めると、「まさか…」という表情がナースステーションに広がった。


医学的な因果関係は全く説明できない。ただ、何度も重なった偶然が、スタッフの間で妙な確信を生み出していった。「これはもう偶然じゃない」という、根拠のないが確かな感覚だった。




ある当直の夜、救急が落ち着き、スタッフが休憩を取っていたときのこと。若い看護師がふと「Pさん、元気にしてるかな?」と呟いた。その瞬間、場の空気が一変した。全員が目を合わせ、何も言わずに時が流れる。


数分後、ナースステーションの電話が鳴り響く。「救急搬送です。患者は……Pさん。」その報告に、誰も驚きの声を上げなかった。予想通りの出来事が、また起こっただけだった。


処置室の準備は淡々と、しかしどこか神妙な面持ちで進められた。



搬送されるたび、Pさんはいつも落ち着いていた。体は弱っていても、表情はどこか穏やかで、「また来ちゃいましたね」と冗談めかして言うこともあった。


その一言が、重い空気を少し和らげた。治療後に病棟へ上がるときも、彼は必ず「ありがとうございます」と言ってから担架に揺られていった。


彼の人柄はスタッフの記憶に深く刻まれていった。単なる患者と医療者の関係以上に、不思議な縁のようなものを感じさせた。



そんなPさんの生活を変えたのが、新薬の登場だった。血液難病に効果のあるその薬は、発売から間もなくPさんにも処方された。治療を始めてから症状は劇的に改善し、救急搬送されることはなくなった。


「もうPさんの名前を出しても大丈夫ですね」と笑うスタッフもいた。あれほど恐れられたジンクスは、こうして静かに幕を閉じた。



今もPさんは、どこかで元気に暮らしているはずだ。あの奇妙な一致は、単なる偶然だったのか、それとも説明のつかない何かだったのか。



医療現場には、医学や科学だけでは割り切れない出来事が確かに存在する——そのことを、この不思議な経験が私たちに教えてくれた。


びっくりする話ですが、名前を口に出すと必ず救急搬送されてらっしゃいました。


それから、本当にPさんの名前を口に出すのを控えるようになり・・・。スタッフみんなで不思議に思っていましたが、たまに名前が出ると救急搬送されてくる・・・。どう言うことなのか、いまだによくわかりません(僕らが何かを感じて口に出しているのかもしれませんが)

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