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103話 対立

 結局。

 その後、宣言通り『ついてくる貴族だけ残れ、それ以外は出ていけ』という態度をリリアーナは一切変えることはなかった。


 それを受けて、貴族たちの反応は三つに分かれた。

 まずは、進んでリリアーナに協力したもの。トアを始めとした北部反乱の時から第三王女派閥であった北部貴族や、その繋がりかつ教会での戦いを経て第三王女に忠誠を誓った貴族たち。

 次に、今の話を聞いた上でリリアーナについた貴族。シンプルにローズの恐怖に慄いた結果傅いた者もいれば、『本当に何かまずいことが起こっているのではないか』と国の危機を感じてリリアーナへの協力を約束した者たちも。


 そして最後に──リリアーナに協力しなかった、大半の貴族たち。


「どういう、ことだ……」


 教会の外で、彼らは気付く。


 ──彼らにとってはこの状況が、一番まずいということを。


 当初の予定では、リリアーナが自分達の戦力を求めていることを盾にこちらの要求を通すつもりだった。教会の混乱によって揺らがされた自分達の基盤や権力をそれによって回復、保障させるつもりだった。

 だが、目論見は外れてこうなったとなれば──自分達には、ただ権力基盤と、更には居場所も失ったというデメリットだけが残り。


「ふざけるな……! こんな、こんなことがあって良いはずがない!」


 これまで、彼らの全てを支えていた特権。それが失われる恐怖。

 更には、血統魔法を持たない出来損ないの王女と思われており、彼らの中では今でもそうであるリリアーナに、


『──要りませんわ。そんな腰抜けの皆様は』


 と、あんな公衆の面前でこき下ろされたことによる羞恥と怒り。リリアーナが自分たちの思い通りに動かなかったことによる混乱。

 ここから冷静さを取り戻すすべなど彼らはこれまでの人生で培ってきたわけがなく、狼狽え、怒り、顔を真っ赤にして叫び喚く。


「ふざけるなッ!! このような仕打ちを我々にするなど、何かの間違いに決まっている──!!」




「……ええ、その通りよ」




 ──そんな彼らに、手を差し伸べるように。

 美麗な声が響いた。声のした方を向いて……貴族たちが目を見開いた。


「ライラ殿下。……何故、ここに」

「あなたたちならもう、分かってるんじゃない?」


 問いかける貴族たちに向けて、ライラは皮肉げ笑って──こう、告げてきた。


「追い出されたのよ。私も、リリアーナ(・・・・・)に」




 ライラが語る。


「これから第三王女派は一枚岩で活動しないといけない。その上で、力も権力基盤も失った王女なんて百害あって一理無し。どうせ何もできないだろうから、貴族たち同様追い出してしまえ──ってことよ。

 まぁ当然ね、私の立場を考えればむしろ今まで教会内に置かれていた方が異常だもの。処刑しないあたり甘っちょろいけど……私にとっては助かったわ」


 その言い分を、貴族たちは大人しく聞く。

 違和感もなかった。だって──王位を争う王族同士なんて、仲が悪くて当然だから。仲良くあれる意義なんて、彼らにとっては到底思い付かないから。


「で、では。リリアーナ王女は……」

「ええ。『あなたたちの見立て通り』、嘘をついているわ」


 続けて、ライラが『真実』を話し始める。

 曰く、リリアーナが語った出来事は全くの嘘。

 教皇も、中立貴族もユルゲンも裏切ってなどおらず、この国に第一王子の暴走以上に妙なことなど起こっていない。

 教皇はただ、責務を果たすことなくいなくなっただけ。中立貴族もユルゲンも、リリアーナにとって邪魔になってきたから排除したくなっただけであり。しかし何も理由なく粛清するのは外聞が悪いから、『結託してこの国を滅ぼそうとしている』なんて話をでっち上げて公然と討伐しようとした。


「当たり前よね。一つだけならいざ知らず、トラーキアとフェイブラッドが全く同時に裏切るなんて有り得る? どちらも創成期からこの国に貢献してきた名家、それが二つも反旗を翻すなんてあるわけないでしょう」


 ライラの問いかけに、貴族たちは頷く。そこに疑いを差し挟むものはいない。


「確かに……そんなことが起これば、それこそこの国の終わりでしょうぞ」

「全く。人を騙すのが下手ですな、リリアーナ王女は。もう少し真実味のある嘘をつけば良いものを」



 ……この国の貴族たちは、自分達の都合の悪い情報は真実と認めない。


 裏を返せば──都合の良い(・・・・・)情報でさえ(・・・・・)あれば(・・・)真実と(・・・)認識(・・)して(・・)くれる(・・・)



 多少の矛盾があろうとも。疑わしい点が数点あろうとも。

 矛盾を埋めるまた都合の良い論理をでっちあげ、時には矛盾自体から無意識のうちに目を逸らし。

 耳触りの良さを最優先し、表面上の甘い言葉を信じ込んでくれる。


「そうやって邪魔者を蹴散らし、自分の言うことを聞いてくれるイエスマンだけで周りを固めて。後は『空の魔女』の力を頼りに王都まで攻め上がって占領し、『我こそは解放者』と嘯いて次代の玉座につく。……これが、リリアーナの筋書きよ」

「なるほど、如何にも考えなし。世間知らずで箱入りの王女様らしい、現実が見えていない思考ですな」

「それならば、我らを追い出すなどという馬鹿げた暴挙に出たのも頷けると言うもの」


 貴族たちの顔に納得と自尊、リリアーナに対する嘲弄が言葉と共に浮かんでから。


「……それで? そんなことを我々に話して、ライラ殿下は何をなさろうと言うのですかな?」


 素朴──に見せかけて、薄々答えが分かっている問い。そんな貴族たちの願望に応えるように、ライラは一拍置いてから──回答する。




「──私たちで。リリアーナより(・・・・・・・)先に(・・)王都を(・・・)占拠(・・)しない(・・・)?」




 案の定……或いはそれ以上の答えに。ざわり、とどよめきが広がる。


「幸い、あの子は本気であの戦力で、真正面から王都占領ができると信じ込んでいるわ。だから、真っ向から王都に向かう。つまり、向こうの注意も戦力も勝手に引きつけてくれる」

「!」

「その隙に、私たちは向こうの主力を避けて通って、あの子達より先に王都に辿り着く。

 ──あの子がやろうとしていることを、先にこっちがそのままやり返してやるのよ。こういうのは先にやった方が圧倒的に信憑性も高いし、同じ『王女(わたし)』っていうカードもある。大義名分としては十分でしょう?」


 その、ライラの案を聞いた貴族の中に広がるは。

 希望と、期待と……ほんの少しの、不安。

 もう一息ね、と判断したライラは、その不安すらも勿論予測できたので次のカードを切る。


「あなたたちが気になっている点も分かるわ。……私一人じゃ旗印として弱いってことよね? 立場的には申し分ないけれど実績がない。これまで教皇の影に隠れていただけの王女様じゃあ、担ぎ上げるには威厳が足りない」

「……それは」

「──だから、用意したわよ。出てきなさい」


 貴族たちが、面と向かっては言いにくいことを平然と公開した後。ライラはその不安の芽を断つべく、後ろに目を向けて合図する。

 すると出てきたのは……ライラと同じ金髪、そしてライラとは対照的な碧眼を持つ美貌の少女。更に後ろから、実直そうな表情を浮かべる一人の少年も。


「サラ・フォン・ハルトマン……!?」

「そ、私とは違う本物の『聖女様』。彼女も今のリリアーナにはついて行けないってことでこっちに協力してくれるわ。

 それと、後ろの男はアルバート・フォン・イェルク。第三王女直属の魔法使いの一人で、彼はまだ明確に向こうと袂を分かっていない──つまり、第三王女派の内情を探るスパイとして使える」


 貴族たちの中で、ここまでで一番の騒めきが広がる。

 魅力的な提案をなされたことに加えて、自分たち──特に元教会所属の貴族たちにとっては旗印としてこの上ない『聖女様』に加えて、既にスパイまで一人取り込んで、自分達だけに圧倒的情報アドバンテージまで保証してくれる。

 となれば……いよいよ、乗らない理由が、無い。


「まとめましょうか?」


 その心理を完璧に読み切ったタイミングで、ライラが告げる。


「私があなたたちに提案するのは、私とこのサラを担ぎ上げての、独自ルートによる王都奪還。リリアーナが第一王子派の主力に四苦八苦しているうちに楽々王都に入り、リリアーナを出し抜いて、リリアーナより先に王都を自分のものにしてしまうの。

 成功すれば、功名は全てこちらのもの。あなたたちは次代の王国で国政の中心を担えるし、財宝や領地も勿論優遇する。そして何より……」


 そして最後に……笑って、一息。



「──あの、リリアーナの悔しがる顔が見れるわよ?」



 その一言が、間違いなく一番。彼らの心を揺さぶった。

 あの、リリアーナを。

 先ほど公衆の面前で、血統魔法の一つも満足に持たない落ちこぼれの分際で、上から目線で偉そうに自分達の価値を決めつけた、身の程知らずの王女様を。

 最も求めている名誉と立場を目の前で取り上げるという──この上なく、無様で間抜けな形で貶められる。

 自分たちが、欺く側になれるという甘美。圧倒的に優位な立場でいられるという安心感。


 その誘惑に。

 彼らが『誇り』と認識しているもの──身の丈に合わず肥大しきった自尊心を抱える貴族たちが、抗えるはずもなく。


「……そうですな」

「第一王子殿下の暴挙は目に余る、ここは我々愛国の士が立ち上がるべき時でしょう」

「王女殿下が立ち上がって下さったのです、我々も誇りを見せるべき時でしょうなぁ」


 相変わらず、聞こえだけは良い言葉と共に。

 次々と頷いていき……あっという間に、『リリアーナを貶める』という一つの極めて強力な目的のもと、王都奪還に向けて団結を深めていくのだった。




 ◆




 その後、細かい行動方針を詰めると言い残して一旦貴族と離れたライラは。

 何気ない足取りで、さらりとあらかじめ決めておいた待ち合わせ場所の物陰に入り込み、遮音の結界が作動しているのをしっかりと確認した後──待っていたサラとアルバートに向かって、目を向けて。



「──ま。こんなもので、どうかしら」



 かくして。

 まずはリリアーナに『ついてこない貴族はいらない』と公衆の面前で宣言させ、かつこき下ろすことで向こうから冷静さと余裕を失わせ。

 リリアーナに対するヘイトと満たされない自尊心、名誉欲を抱え込んだ反リリアーナの貴族たちに──甘い甘い砂糖紙で包んだ真っ黒な嘘と、とてもとても聞こえのよい欲求全てを満たす魅力的な提案を飲ませ。




 結果──当初の(・・・)予定通り(・・・・)全ての貴族(・・・・・)()王都に(・・・)向かわせる(・・・・・)ことに(・・・)成功(・・)した(・・)




「全部をきちんと真面目に開示する必要なんてない。真実を語る必要なんてない。正しい目を向けようともしない連中に、正しいことを説いてやる意義だってない」

「……」

「そして、そういう連中を無理矢理一つにまとめ上げる必要も、ない。

 最初から──『こちらの都合の良い形で対立させる』のが一番効率的」


 それら全てを計画立案し、リリアーナに方向性を指示し、最も重要な反発貴族たちを説き伏せる役も言葉巧みにきっちりこなしてみせた。


「あなたたちもこの先戦うなら、覚えておきなさい。

 ……この国の貴族はね、こうやって使うのよ」


 第二王女、ライラ。

 教会に生まれ、この国の暗黒を誰よりも近く見続けてきた少女。

 故に。現状の第三王女派閥には無い、暗い手法を平然と取れる──そんな一つの、異質な才能。

 その手腕を、真っ先に目の当たりにしたサラとアルバートは。


「はい。……お見事、でした」

「覚えておこう……確かに『これ』は、今の俺たちには思いつかないものだ」


 シンプルな称賛と、異質さに対する戦慄。けれどそれら全てをひっくるめた、確かな敬意を持って。

 さまざまな感情と共に、双方頷くのだった。

貴族とのお話、次回まとめで一区切りの予定。お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] しかしこれ、まかり間違って彼らが戦果を挙げてしまったら、非常に面倒なことになりますよね まあメタ視点で言えばそれは絶対起こり得ないとわかってはいるのですが。 作中人物視点でそんなことは起こり…
[良い点] 作者さんは人間心理よく勉強してるなぁ・・・と思いました、この話もそうだけど、学がないとまず考えつかないような内容の話が凄く多い。 [一言] 彼らの思考はいわゆる正常性バイアスってやつですね…
[一言] 玉座がひとつだけ、なんて誰が言ったんだ?みたいなのでリリアーナとライラの二人で政治をするに一票
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