104話 出陣
第二王女ライラの手腕によって、リリアーナに反対する貴族を歪な形ではあるがまとめることに成功した。
その後貴族たちに隠れてのサラ、アルバートとの作戦会議で、サラが問いかける。
「それで……これから、どうするのですか?」
「決まっているわ。あの貴族たちを『完全に騙したまま』最後まで動かしきる。リリィたちが敵戦力をこちらに押しつけていることを悟らせず、戦力として有効利用されていることを最後まで気づかせず。徹底的に、最後の最後まで使い潰す。あんな連中には、その程度の扱いがお似合いよ」
……最後の言葉はともかく。
それが、凄まじい難業であることはサラにもアルバートにも分かった。
そう、貴族たちを動かすことには成功したが……その行動は嘘という薄氷の上に成り立つ極めて土台が脆いもの。
嘘が発覚する、或いは別の些細な要因によって容易く崩れうることは間違いなく。
それを全て避けた上で、貴族たちを思う通りに動かさねばならない。しかも、自分達だけで。
その難易度を、しっかりと理解した上で。
「……それでも」
サラは呟く。
「わたしは、やります。それがエルメスさんの、リリィ様の、皆さんのためになるのなら。貴族の皆さんを、騙して、動かして──
──そして。その上で貴族の皆さんもできる限り助けます」
たとえ、やむを得ず騙していたとしても。使い潰すことが当然の存在で、それをすることに最も加担していたとしても。
それでも尚、できる限りを救うために動くという、極めて彼女らしい宣言。
「……ほんと。あなたとは仲良くなれそうにないわね」
それを聞いたライラは、忌々しげに、けれど眩しいものを見るように呟くと。
「でも、あなたはそれでいい……というか、あなたのそういう面に期待してこちらに引き入れたんだもの。
『聖女』としての名声に加えて、絶対に目の前の人間を見捨てようとしない人間性。あなたが貴族たちの旗頭になってくれれば、貴族たちはそうそう『騙されている』だなんて思わない」
「……」
「では、俺は? 正直この立場は俺でなくてもよかったと思うが、それでも敢えて俺を選んだ理由はあるのだろうか」
「ええ、もちろん。……聞きたい?」
続けてのアルバートの問いに対し、ライラはまず確認を返す。
恐らく、それほど気持ちの良い理由ではないのだろう。そう確信させるライラの表情を受けるが、アルバートはそれでも躊躇わずに頷いて。
それに応えて、静かに。
「──あなたが一番裏切ってもおかしくなさそうだから」
「!」
「誰がどう見ても明らかよね。第三王女直属の魔法使いの中で、あなただけが明確に大きく力で劣っている。それに代わる政治力や頭脳があるわけでもない、明らかに第三王女派閥の足手纏い──」
「っ、ライラ様──!」
「──って、あの貴族連中は思ってくれているわ」
あまりの言いように思わずサラが声を上げようとするが、それよりも先にライラがそう続けて。
「そうして、そういう連中は往々にして、『第三王女派閥で落ちこぼれなら自分達にとっても落ちこぼれ』と考える。何処にも行くところがなくて今の立場ではどん詰まりだから、今の居場所を裏切って新しい立場に付いた……と、自分達にとって都合の良いストーリーを勝手に想像する。
有り体に言えば、舐めてくれるのよ」
アルバートを指差し、告げる。
「あなたは、それを利用なさい」
「……なるほど」
「誰にも注目されていないから、あなたが多少変な動きをしていようとも貴族連中は誰も気にもしない。脅威にも思わない。
つまり──二重スパイをするにはうってつけの人材ってこと」
遠慮なく、容赦もなく。
故に……この上なく正しい、アルバートに対する『評価』だった。
「……了解した」
その評価を正しく受け止め、アルバートは実直に頷く。
何一つ反論はない。自分が周りの凄まじい魔法使いと比べれば平々凡々極まりないことも、この戦いにおいても最も成果を残せていないことも。
そして──いざとなれば、容易く易きに流れてしまった『前科』があることも。
学園時代の恥。今思い返すだけでも情けなさで身を切るような罪過。
……それすら、役立てることができるというのなら。
与えられた役割に徹することに、なんの躊躇いがあろうか。
その意思を込めて、小さく頷きを返す。
「……あなたたちって、本当に」
そんな二人の様子を見て。ライラが呆れたような、それでいてどこか憧憬を抱くような表情で、改めて呟くと。
「まぁ、いいわ。
とにかく、ここから先はスピード勝負。貴族連中を騙し切れている間に、組織の人間が気付かないうちに、そして、これ以上状況が悪化する前に。リリィたちと連動して、超特急で王都まで攻め上がる。そこから少数精鋭の魔法使い、加えて信頼できる軍隊と共に王都を攻略し──
──組織の三幹部。そしてクロノ・フォン・フェイブラッドを、倒す」
「……」
「差し当たっては、ここから王都までの間。まず間違いなく、私たちの負担が一番大きくなるでしょう。貴族連中の吐き気がするような本音に耐えながら、また自分達もその同類と思われながら。それでも、やるべきことをやるためにこの軍隊の運営を続ける」
最後に、赤い瞳に王族らしい光を宿し、問いかける。
「サラ・フォン・ハルトマン。アルバート・フォン・イェルク。
──裏切り者になる、覚悟は良い?」
「はい」
「ああ」
返答は、迷うことなく。
この瞬間から、第三王女派閥はリリアーナたち正道組と、ライラたち暗躍組に分かれ。
様々な思惑を含んだ貴族たちをまとめての、王都への進軍を開始し。
かくして。
あの日、政権簒奪により王都を追い出されてから、二ヶ月弱。
様々な出来事、様々な挫折、様々な変転……そして、各々の再起を経て。
遂に、たった六人から始まった第三王女派閥が。その数百、数千倍へと数を膨れ上がらせ。
最終目標──玉座を取り戻すための戦いに向けて。
この、王位と王国をめぐる争いを、終わらせるための。最初の一歩を、踏み出したのだった。
いよいよ、三章の終わりが見えてきました。
ここからは、王都に向けて一直線。ただ……王都の決戦の前に一つ、三章でまだ出ていなかったとある存在に関しての大きなお話が一つあります。
王家のあのお方やあのお方にも関わる『再起編』のメインイベント、まずはそれをお楽しみいただけますと幸いです!
それでは次回は、一旦王都での一幕。お楽しみに!
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