知らないところで、何かが始まっている気がする。
キャラがどんどん出てきて楽しいですね。
昼休み。
移動教室のため廊下を歩いていると、楸に呼び止められる。
「李生さん、少しよろしいですか?」
『……何?』
「風紀委員会の仕事を手伝っていただきたいのですが」
『嫌』
間髪いれずに即答。
理由は棗はともかく楸からのお願いはこれまでの経験上ろくなことがなかったからだ。
「おやおや、まだ内容を説明していませんが」
『楸が僕に頼む仕事って絶対面倒事でしょ』
心底嫌そうに顔を歪める僕に楸はにこやかに微笑みながら頷いた。
「流石李生さんです、よく分かりましたね」
『褒めてないよ』
断ったのに聞いちゃいない楸は授業終わりに僕のクラスに現れ、僕は半ば強引に連れていかれた。
頼まれた仕事内容は「校則違反者の確認」。
楸によると、最近、放課後に校舎裏へ集まるヤンキーがいるそうで。
喧嘩ではないものの、何度注意しても改善しないらしい。
風紀委員だけでは人数が足りないため、たまーーーに僕が駆り出される。
何が「確認」だ、つまりは悪さしてる輩を締めろってことでしょ。
本当に憂鬱な仕事だ。
楸には不良達に逆恨みされないよう顔を隠せる頭巾貰って被ってるけど不審者そのものだよね。
現場に行くと屯ってる不良達を発見し近づく。
「なんだお前」
『僕? 風紀委員会の手伝いだよ』
「帰れよ」
『そうしたいんだけど、帰らせてくれない人がいてね』
チラッと後ろを見ると離れたところで楸が笑顔でこちらを見ていた。
いつもは見学とかしないのに今日はいるんだな、やりずら…。
というか、今の状況頭巾装着した不審者と不良が対立してる意味わかんない図だと思うんだけどよく笑って見てられるね?
「続けてください」
『はいはい』
「てめぇ、風紀委員会の奥野だな?
こんな弱そうなヤツ連れてきて何のつもりだ?
ぶち○すぞ」
不良の1人が楸に舐めた態度を取った瞬間、
『……あんまり楸にそういう口きかない方がいいよ』
僕はじわじわとなぶるように殺気を出しながら言った。
楸は僕の友達だ、友達に手を出すつもりなら容赦しない。
「ひっ!?」
「な、何者だコイツ!?」
途端に怯え出す不良達に僕は冷めた目をして言い放つ。
『○される覚悟のない奴が○すとか言うんじゃねぇよ』
低音ボイスで言ったのが堪えたのか不良達は尻尾を巻いて逃げていった。
あの怯え具合を見るに暫く暴れることはないだろう。
不良達がいなくなって、楸が僕の方へ寄ってきた。
そこでようやく被っていた頭巾を取り去る。
「お疲れ様です、李生さん」
『言うてなにもしてないけどね』
「牽制されてましたし仕事としては十分かと」
『え、そう?』
「ええ。
それにしても、普段のあなたとは別人のようでしたね」
楸の発言に僕は一瞬黙る。
まぁ…元ヤンでたまに片鱗が出てしまうんだよね。
『……昔、ちょっと荒れてたから』
と、視線を泳がせながら誤魔化す。
それに対して楸は何も尋ねない。
僕はそれ以上追及されなかったことにホッとした。
ただ、
「そうですか」
とだけ言う。
でもその目は明らかに何かを察している気がしてならなかった。
「時間も時間ですし、帰りましょうか」
『うん』
夕暮れに染まった道を二人で歩く。
無言が続く中、楸は口を開いた。
「李生さんは、普通の学校生活を望まれているのですか?」
『…なんで?』
「なんとなく、ですが貴方は目立つことを極端に嫌っている気がしまして」
楸の言葉は正しかった。
文化祭で昴に言った、
“普通が欲しかった”
という言葉を楸は何となく察している。
僕は目立つことが嫌いだし、過去がバレて嫌われるのが怖い。
僕は少し考えて呟くように言った。
『……普通って、普通じゃないと分からないものなんだよ。
僕は普通に学校に通って、友達とくだらない話をして、帰りに寄り道して……そういうのがしたかった』
思い出すように話す僕に楸は黙って聞く。
『だから、今は結構楽しいよ』
「……そうですか」
『うん』
「なら、よかったです」
最近はちょっと危うくなってきてるけど。
そう付け足すと、楸が少しだけ笑った。
寮に入る前の別れ際。
「では、また明日」
『うん。またね』
そう言って歩き出した僕は楸が小さく呟いた言葉に気付かなかった。
なんか、気のせいかもしれないけど。
知らないところで、何かが始まっている気がする。
楸「……あなたが普通を望むなら。
少なくとも僕は、その普通を壊したくはありませんね。
……今のところは」




